久元 喜造ブログ

2013年10月1日
から 久元喜造

「複式簿記・発生主義」への移行の課題

昨日のブログ で、財務会計制度の改革が急がれる理由について、記しましたが、きょうは、実務の観点から、制度改革の必要性について、敷衍させていただきます。

決算に関連する実務の状況について、簡単に触れておきましょう。

まず、自治体は、地方自治法に基づく決算書類を作成しなければなりません。
さらに、自治体は、2007年(平成19年)に制定された、いわゆる財政健全化法に基づき、実質公債費比率、将来負担比率などを算定しなければなりません。
また、古くから、総務省が示す詳細な様式に基づき、決算統計を作成し、総務省に提出することが行われてきました。
これに加えて、2006年の事務次官通知により、自治体は、発生主義の観点に立った4表の作成が要請されているのです。

これらは、相互に関連していますが、作成に関する根拠はそれぞれ異なり、基本的には独立した作業です。
総務省の担当も、それぞれ異なり、自治体の財政担当者のみなさんは、それぞれの資料を作成し、総務省、あるいは、都道府県の担当部局に説明しなければなりません。

これら4つの作業は、自治体の決算から得られる財政状況を開示・公表する上で共通しており、その統合が図られるべきです。
国は、そろそろ、長年にわたる公会計改革に着点を見いだして、決算に関する制度改正に踏み切る時期に来ていると思われます。
この制度改革は、自治体の財政状況を、正確に、かつ、自治体間の比較可能性を確保する上からも重要です。同時に、自治体の実務を、錯綜した作業から解放して、事務負担の軽減する上からも、必要不可欠です。
そして、「複式簿記・発生主義」に基づく財務会計制度への移行は、このような見地からの制度改革として、理論的には、その有力な選択肢であろうと思われます。

同時に、財務会計制度の改革に当たっては、国・地方自治体と民間企業との間の、財務会計制度に要請される相違についても、留意される必要があります。

決定的に異なるのが、予算の位置づけです。
民間企業では、予算は、事業計画・決算の見込みという意味でしかなく、法令で義務付けもされていません。
これに対し、国や地方自治体においては、財政に対する民主的統制の要請から、予算は、国会・議会で議決され、内閣や首長を拘束します。

拘束力を伴う国・自治体の予算は、明瞭であることが必要で、現金主義に基づいて編成されることが必要です。
したがって、決算において、発生主義に基づく財務諸表を作成することとしても、これに加えて、現金主義で作成された予算との対比を説明する書類の作成が不可欠となります。

決算制度の改革においては、このような民間企業と自治体との違いを踏まえて行われる必要があります。

 


2013年9月30日
から 久元喜造

自治体にも発生主義による財務書類が必要。

昨日のブログ に続き、複式簿記・発生主義について書きます。
きょうは、自治体の財務会計制度の改革が急がれる理由について、触れたいと思います。

自治体を巡る財政状況が厳しさを増す中、行政コストの見直しに加え、資産・債務の改革を進め、限られた経営資源を効率的・効果的に活用した経営を行うことが重要となっています。

しかし、単式簿記・現金主義による現行の官庁会計では、単年度の現金の流れを把握するにとどまるため、資産や負債などの「ストック情報」、減価償却費や引当金も含む正確な「コスト情報」が十分に把握しにくいという構造的な問題を抱えています。
この点で、複式簿記・発生主義による財務会計制度を導入すると、現金収支に関わらず、資産の移動や収益・費用の事実の発生に基づいて記録することになり、一つの取引について、原因と結果の両方からとらえ、二面的に記録していくことによって、資産の動きや損益を、より正確に把握することができるようになります。

民間企業で行われている会計処理と同様、日々の会計処理の段階から複式簿記・発生主義を導入し、貸借対照表、行政コスト計算書(損益計算書)、キャッシュ・フロー計算書などの財務諸表を作成することにより、自治体全体の財務状況を正確かつ迅速に把握することが可能となります。

このような方向での制度改革は、検討に値します。
総務省では、1999年(平成11年)頃から、研究会を設置し、検討が進められてきました。 これがいわゆる 公会計改革 の動きです。
そして、2006年(平成18年)8月には、事務次官通知の中で、各自治体に対し、「原則として国の作成基準に準拠し、発生主義の活用及び複式簿記の考え方の導入を図り、貸借対照表、行政コスト計算書、資金収支計算書、純資産変動計算書の4表の整備などを行う」ことが要請されています。

発生主義に基づく財務諸表の作成を自治体に要請する以上、国は、その基準の明確化を行い、自治体の決算に関する制度を抜本的に改革すべきです。
そして、民間企業の財務諸表の作成が、法令と確定された会計慣行に基づいて、統一的に行われているように、自治体の決算書類についても、法令に基づく制度化が図られるべきだと考えます

 


2013年9月29日
から 久元喜造

複式簿記・発生主義は、全国一律に導入を。

9月15日の討論会 で、神戸市への複式簿記の導入について、「非現実的な改革」の一例として挙げました。

私は、自治体の財務会計制度において、複式簿記・発生主義の導入を否定するものではありません。
むしろ、積極的に検討すべきだと思います。
そして、複式簿記・発生主義への移行は、財務会計制度における制度改正によって行うべきであり、全国一律の方式によって導入すべきだと考えています。
そうでなければ、複式簿記・発生主義で作成される財務書類によって、自治体間の財政状況を比較することはできません。

制度改正を待つことなく、単独で、複式簿記・発生主義による財務会計システムの導入に踏み切る自治体が、極めて少数ながらありますが、ほとんど無意味です。
導入のための経費はまったくの税金の無駄遣いです。また、そのための職員研修も、お金と時間の無駄と言えます。

民間企業において、複式簿記・発生主義による財務処理が行われているのは、法令あるいは会計慣行上、それが義務づけられているからです。
株式会社は、複式簿記・発生主義を特徴とする企業会計の方式により、会計帳簿や計算書類の作成が義務付けられています。また、上場企業は、金融商品取引法に基づく有価証券報告書などにおいて、財務諸表の作成が義務付けられています。

これは、会社法では、株主及び債権者保護を目的として配当可能利益の算定を行うことが要請され、また、金融商品取引法では、投資家保護を目的として投資判断に必要な経営成績や財政状態を開示することが要請されているからです。そして、これらの要請に添った形で、財務情報が公開することが義務付けられているわけです。

つまり、利益の最大化を目的とする民間企業にとっては、四半期や一年といった一定期間内における企業活動の結果が「どれだけの利益を生んだか」という決算の情報が最も重要な情報だからです。

企業と地方自治体の存立目的は異なりますが、民間企業における財務情報のあり方は、地方自治体の財政状況を正確に開示する上で、大いに参考になると思います。
その理由については、明日のブログで触れたいと思います。

 

 


2013年9月28日
から 久元喜造

小さな揚羽蝶は、新宿の夜空に舞い・・・

新宿のマンションに住んでいたとき、ベランダに、山椒の植木鉢を置いていたことがありました。
知り合いからいただいたのですが、別に、植木に趣味があるわけではありませんので、枯れないように、ときどき、朝、水をやる程度でした。

ある朝、いつものように、山椒の植木に水をやろうとすると、山椒の葉っぱに穴が空いているのです。 茎のところを見ると、小さな、黒い毛虫が何匹かいて、彼らが犯人であろうと思われました。
さっそく、駆除したのですが、しばらく立つと、また、現れるのです。いったい、この黒い、小さな毛虫は、何の幼虫なのだろうと思い、ネットで調べてみると、山椒との取り合わせから見て、どうやら、揚羽蝶の幼虫のようでした。

揚羽蝶の幼虫は初めてでしたので、果たして、この黒い毛虫が、あの美しい揚羽蝶に成長するのだろうかと、好奇心が沸き、何匹かの黒毛虫を、採取して、ビーカーの中に入れ、山椒の葉っぱも入れました。

驚きました。
黒毛虫の食欲の旺盛なこと。とても、ベランダの植木では足りず、家内の京都の知り合いに相談すると、庭に、山椒などいくらでもあるとのことでしたので、大量の山椒を送っていただきました。

ビーカーの中の黒毛虫に、山椒を少しずつ、与えました。いつしか、黒毛虫も大きくなり、気がついたら、綺麗なサナギが出来ていました。
もう山椒をあげなくてもいいし、逃げる心配もないので、ビーカーのふたも取って、ほったらかしにしていました。
そして、ビーカーのことも、サナギもことも忘れていたのかも知れません。

家内が地方のコンサートで出かけていた、ある夜のことでした。
マンションの部屋に帰ってみると、灯りがついていない部屋に、何かが飛んでいるのです。
灯りをつけると、それは、揚羽蝶でした。あのサナギが、成虫になって、マンションの部屋の中を飛んでいたのです。
飛び回っていたのではなく、じっとどこかに留まり、私が近づくと、また、飛んで逃げるという感じでした。

ようやく蝶に近づくことができ、気づきました。ふだん、飛んでいる揚羽蝶より、一回りも、二回りも小さい蝶だったのです。
一生懸命、山椒の葉をあげたつもりでしたが、本来の揚羽蝶が必要とする量に足りなかったのかも知れません。

しばらく揚羽蝶が部屋の中を飛び回るのを見た後、私は、マンションのガラス戸を開けました。
なかなか、うまく外に出られませんでしたが、しばらくすると、小さな揚羽蝶は、自由な世界への窓を見つけたようでした。

小さな揚羽蝶は、一瞬、ベランダを一周し、新宿の夜空に舞い上がっていきました。
新宿の空は、決して暗くはないのですが、すぐに、小さな揚羽蝶の姿は見えなくなり、夜空に消えていきました。
私は、揚羽蝶が飛んでいった方向をいつまでも眺めていました。
十分な食べ物をあげられなかったことを詫び、小さな体でも、そして、決して揚羽蝶にとり住みやすいとは言えない、この新宿の環境の中でも、たくましく生きて行ってほしいと願いながら。

 


2013年9月27日
から 久元喜造

海岸線・需要喚起のアイデア

地下鉄海岸線の需要喚起について、9月26日 のブログ で触れましたが、一連のブログを読まれた読者の方から、具体的なアイデアの提案がありました。
ご本人のお許しをいただきましたので、紹介させていただきます。

・海岸線の場合、鉄人28号プロジェクトなど地域活性化に熱心な新長田・駒ヶ林の両駅周辺と、umieで人が戻ってきた神戸ハーバーランド駅周辺において、にぎわいをつくる、もしくはにぎわいを継続させる仕掛けが必要だと思います。

・新長田・駒ヶ林界隈は再開発ビルの入居が伸び悩んでいます。ただ、地域人材支援センターでは、「こすめる。」というコスプレ同好者のイベントが定期的に行われ、「KOBEぽっぷカルチャーフェスティバル」も開催されています。これを契機に、例えば漫画家、アニメイター、CGクリエイター、イラストレーターを目指す若者の創作活動の場として、あるいはプロになったばかりの漫画家等で仕事場が欲しいけど、資金が不足している・・・・という人のために、空きテナントを低廉な賃料で貸し出す、という手法はないでしょうか。

・一方、ハーバーランドの場合は、観光客等については一定の集客が見込めるとしても、まちとしてのにぎわいを継続・維持するためには、周辺住民が日常的に買い物等で足を運ぶ仕掛けが必要かと思います。

・ここ数年で、かつては店舗やビルの多かった三宮の浜側など海の手側にも高層マンションが整備されています。ここに住む人が三宮だけでなく、海岸線を利用してハーバーランド側に足を運ぶような仕掛けが必要です。ハーバーランドの店舗とタイアップして割安の乗車券を販売するなど人の流れをつくれないでしょうか。あるいは、神戸の西部から三宮界隈に出かける場合、海岸線を利用したら、市立博物館の入館料を割り引く・・・・といった試みで意図的に西神線だけでなく、海岸線に人の足を向けさせる取組みがあってもいいかもしれません。

・そうこうしている中で、水上警察署跡地を自然景観に配慮した公園や集客施設として整備することができれば、人の流れをより大きく海岸線沿線に呼び込めると思います。

いずれも、斬新な提案で、かつ、実現可能性もあると思います。
このように、市民のみなさんからさまざまなアイデアを募り、知恵を結集して、海岸線の需要喚起を図っていくことが必要です。
もちろん、行政は、ただアイデアを募るのではなく、主体的に責任を全うしていく、大きな役割があることは言うまでもありません。

 

 


2013年9月26日
から 久元喜造

地下鉄・海岸線について

地下鉄の民営化については、9月24日のブログ で、また、地下鉄についての全般的な考え方については、9月25日のブログ で触れましたが、きょうは、引き続いて、海岸線について、もう少し、考えてみたいと思います。

副市長をやっていましたとき、昼休みに、ときどき、海岸線に乗って昼食をとりに行っていました。
三宮・花時計前駅から12時10分発の地下鉄に乗り、和田岬などの駅で降り、思いつきでお店に入った後、街の佇まいや市の施設を見学するのが定番でした。

地下鉄海岸線は、 平成13年に開業しました。
建設時の計画では、1日あたり乗客数について、免許申請時は、何と約13万人と見込んでいました。
ところが、乗客数は、想定を大幅に下回る状況が続いています。
乗客数は、開業時が34,500人から、現在は、42,000人に伸びていますが、計画を大きく下回っています。計画時の乗客数を過大に見積もっていたことは間違いありません。

この結果、海岸線は、慢性的に赤字が続いています。建設費の償還や減価償却費どころか、運行のランニングコストすら賄えない危機的な経営状況にあります。
市交通局は、駅業務の委託などを導入し、コスト削減を図っています。しかし、海岸線のコスト構造は、固定経費である減価償却が36億円、支払利息も金利の低減と平準化を進めていますが、28億円と、費用全体の72%を占める一方、人件費割合は駅業務の委託化等11.8%と低くなっており、これ以上のコストの削減には限界があります。
抜本的な対策の鍵は、乗客数の増加であり、需要喚起策が求められるのですが、これは、交通局ひとりでは解決できない大きな政策課題であり、市役所が一体となった取り組みが求められます。

しかし、市役所でのこれまでの取り組みは、十分とは言えません。
私が副市長をしていたときも、海岸線に関して、抜本的な乗客増対策についての庁内会議が開かれたことはありませんでした。
先輩たちが残した大きな市政課題であるにも関わらず、根本的な問題解決策が見当たらないので、誰も触れたがらないような雰囲気が見られたことは残念でした。
これではやはり困ります。
組織全体で危機感を持ち、一丸となった積極的な取り組みが必要です。

私は、早急に、沿線住民、沿線企業、企業経営や地域づくりの専門家のみなさんなどに参画していただいたプロジェクトチームを早急に立ち上げ、速やかに、需要喚起策をとりまとめていきたいと思います。


2013年9月25日
から 久元喜造

民営化より、需要喚起が本筋。

9月24日のブログ で、地下鉄事業の民営化は、実現不可能と申し上げました。
それでは、どうすればよいでしょうか。
西神山手線と海岸線の運行を、税金の投入や利用者の大幅な負担増を行うことなく続けていくためには、西神山手線と海岸線の一体運用によって事業を継続する以外に方法はありません。

まずは、両線一体での単年度黒字化を早期に実現し、これ以上の累積債務が増えるのを止めることです。
海岸線は、減価償却と利息が経常費用の7割を超える硬直的な財務構造であり、コストの見直しによって収支改善できる余地は限られています。

したがって、海岸線の乗客増を図っていくことが、現実的な方策です。
沿線への企業誘致、都心からの立地の良さを生かした夜間人口の増加、通勤など利用促進の働きかけ、本場西側跡地へのイオンモール進出に続く利活用、ノエビアスタジアムの活用など、乗客増対策が必要不可欠です。
新長田駅前の再開発ビルに、市役所の移転も主張されているようですが、海岸線の需要喚起につながらないことは明白です。

非現実的なアイデアではなく、海岸線沿線を活性化し、需要喚起につなげていくことが大切です。
もともと、地下鉄海岸線は、兵庫区・長田区の活性化を目指して建設されました。その原点に立ち戻って、市民ぐるみ、地域ぐるみで対策を考え、全市的見地から実効的な対応を図っていくことが求められます。


2013年9月24日
から 久元喜造

神戸の地下鉄の民営化は、実現不可能。

地下鉄事業の民営化を主張する立候補予定者がおられますので、私の考え方を述べておきたいと思います。
結論から申しますと、今の経営状況では、地下鉄の民営化はありえません。
民間企業は、事業の引き受けに当たって、損をしないようにしますから、結局、市民・利用者が大きなツケを支払うことになります。実現不可能です。

地下鉄の収支を、平成23年度決算の数字で簡単に見ておきましょう。
まず、単年度収支は、西神山手線が約52億円の黒字、海岸線が約60億円の赤字、全体で約8億円の赤字です。
西神山手線の黒字で海岸線の赤字を埋め、なお赤字が出ています。
地下鉄は、企業債、つまり借金をして建設しますが、この企業債残高は、西神山手線分が約600億円、海岸線分が約1360億円、全体で、約1960億円、おおざっぱに、約2000億円です。

西神山手線を売却して民営化するとしますと、西神山手線の企業価値は、現在の経営指標からみると約1200億円程度と見込まれます。仮に、売却しても800億円の債務が残ります。
一方、海岸線は、単年度の赤字が60億円、企業価値もマイナスで、引き受け手が現れることはあり得ず、売却は不可能です。
仮に、西神山手線を売却できたとしても、海岸線単独では、800億円の債務償還の目処がたたず、この債務償還をしながら、事業を継続するためには、大幅に値上げをするか、最低毎年15億円程度の市税投入による市民負担が必要になります。
仮に、乗客数の増で賄おうとすると、現行の3倍以上の乗客(4万人→13万人)が必要であり、これは現実的ではありません。

このように、現在の経営状況で売却するとすれば、たちまち経営が立ち行かなくなり、事業を継続するには市民の負担・利用者の負担を大幅に増やすしかありません。
また、上下分離方式や運営権売却方式によろうとしても、民間事業者は債務や経営状況からみて、黒字でなければ投資しませんから、結局、売却した場合と同じことになります。
目先の利益のみを追求して、売却により沿線の住民が不利益を被ることになれば、市民の足としての公共交通の使命が果たせなくなり、本末転倒です。


2013年9月23日
から 久元喜造

地下鉄延伸より人口減少時代を見据えた交通体系を。

地下鉄の延伸の可能性に触れておられる候補予定者がいらっしゃいますので、私の考えを述べたいと思います。
結論から申しますと、神戸市営地下鉄を今の路線からさらに延伸できる可能性は、ゼロだと思います。延伸は不可能です。
実現不可能な地下鉄の延伸を考えるのではなく、もっと現実的な方法で、住民の足を守ることを考えるべきです。

地下鉄の延伸が議論された経緯を振り返ってみましょう。
確かに、1989年(平成元年)、運輸政策審議会の答申において、2005年(平成17年)を目標年次として、西神中央を起点に、着手すべき路線として西明石までが、また、検討すべき路線として、押部谷方面、舞子学園都市、東播磨方面が位置付けられました。

その後、国、県、市において検討が進められましたが、2004年(平成16年)10月に出された近畿地方交通審議会の答申では、鉄道事業をめぐる経営環境の悪化や、国や自治体の厳しい財政状況を踏まえ、既存の鉄道施設の改良による対応が困難な場合に新線の整備を図る、とされ、大幅に後退した内容となりました。
そして、結局、これらの地下鉄延伸計画については、費用対効果、採算性、政策目標との整合性、既存の交通ネットワークなどの観点から総合的な評価が行われた結果、答申には位置づけられませんでした。

このように、地下鉄延伸計画そのものが、バブル爛熟期に構想された計画で、すでに、断念され、放棄された計画だと申し上げても過言ではありません。
これから、早晩、神戸も人口減少時代に入ると見込まれます。また、かつての西神山手線のように、住宅団地・産業団地などの大規模な沿線開発の計画もありません。

海岸線については、また、改めて触れたいと思いますが、乗車人員が計画を大幅に下回り、累積債務が増え続けています。このような中で、地下鉄の延伸を考えることは、財政的に見てもまったく非現実的であり、不可能であると断言できます。
そのような発想自体が、時代遅れとしか言いようがありません。

確かに、かつて運輸政策審議会の答申において触れられた路線沿線の住民のみなさんの中には、なお、地下鉄の延伸に期待する向きもあります。
神出には、地下鉄延伸を訴える看板がありますし、岩岡にも、そのような看板が最近まで掲げられていたと聞きます。
それだけに、客観的に見て不可能な地下鉄の延伸を、今更、可能性があるように取り上げるのは、たいへん、罪深いことではないでしょうか。

西区における住民のみなさんの足の確保は、非現実的な地下鉄延伸という幻想を振りまくのではなく、地下鉄、JR、山陽電鉄と結ぶバス路線の確保、ダイヤの充実により対応することが基本です。また、西区や垂水区は細い坂道が多いという地域特性を踏まえ、小回りがきくコミュニティバスの導入、駅前駐輪場の整備など、現実的な方策が考えられるべきです。
LRTや超小型電気自動車など、次世代型の新しい交通システムを構想することも考えられます。

私たちは、人口減少時代を見据え、人に優しい、小回りのきく交通体系を構築する時期を迎えています。

 


2013年9月22日
から 久元喜造

旧グラシアニ邸の再建

北野の異人館「旧グラシアニ邸」が、昨年2月に全焼したことは、大きな驚きと悲しみでした。
放火の疑いで、容疑者がすでに逮捕されており、現在、裁判が行われています。

その「旧グラシアニ邸」が、このほど再建され、フランス料理レストラン『ラ メゾン ドゥ グラシアニ 神戸北野』として、9月14日に営業が開始されました。

振り返れば、「旧グラシアニ邸」は、1908(明治41)年,フランス人貿易商グラシアニの自宅として建設されました。
神戸市の伝統的建造物に指定されていました。
北野の異人館の多くを描いた、小松益喜画伯の作品を、神戸ゆかりの美術館 で開催された展覧会で見た記憶があります。
この絵は、1970年頃に描かれたようです。

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2007年(平成19年)、レストランに改装され、大阪の八尾市に本社がある平川商事のグループ会社が運営を行っていました。

今回の再建に当たっては、焼け残った白壁の一部や,緑色の雨戸や窓枠などを再利用されたそうで、上の絵と比べても、 以前とほぼ同じ姿が蘇ったと言えそうです。
もちろん、歳月を重ねることにより醸し出される雰囲気は、再現しようもありませんが、これは致し方のないことです。

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約3億円の再建費用のうち、約7,000万円を国と神戸市が助成しました。
近年、全国各地で、貴重な伝統的建造物の焼失が相次いでいることは、たいへん悲しいことです。
そのような中で、「旧グラシアニ邸」が、多くにみなさんの努力と、行政の協力によって、このように蘇ったことは、素晴らしいことだと思います。
末永く、後世に伝えていきたいものです。