久元 喜造ブログ

2022年5月8日
から 久元喜造

コロナと戦い抜くために。


2020年初め、コロナとの戦いが始まったとき、二つの態度が必要ではないかと感じていました。
一つは、この未知の敵と戦うにあたって、徹底的に想像力を働かせ、思考を巡らすこと。
もう一つは、歴史に学ぶということです。
直接参考になる歴史的事実が「スペイン風邪」だと思われました。
今でいうインフルエンザです。
我が国では1918年8月頃から1921年7月頃にかけて流行し、海外領土を除く日本国内で38万人を超える死者が出ました。
当時の状況、対応と課題を克明にまとめた記録が、内務省衛生局編『流行性感冒』です。
平凡社のご厚意で復刻され、ネットでも公開されました。
参考になることが沢山ありました。(2020年4月29日ブログ

そのとき感じたことは、「スペイン風邪」の経験に照らせば、コロナとの戦いはすぐに終わらないのではないかということでした。
ウイルスの種類が異なるコロナウィルスが類似の経過をたどるかどうかはわかりませんが、やはりそれくらいの期間が要るのではないかと感じました。
3年余り続いたということを、念頭に置きました。
それくらいの期間を戦わなければならないと、自分自身に密かに言い聞かせてました。
このことを口に出すことはありませんでしたが、ある種の覚悟が出来ました。
ジタバタしてもどうにもならないと。

今、すでにコロナとの戦いは2年数か月に及び、まだ終息の時期を見通すことはできていません。
この間、私たちの間には、この厄介なウイルスとどう向き合えばよいのかについての知恵、経験そして教訓が蓄積されています。
決して焦ることなく、冷静に、そして緊張感を持って戦いに臨んでいくという姿勢を堅持していきます。


2022年4月30日
から 久元喜造

大原瞠『住みたいまち ランキングの罠』


各方面からさまざまな都市や自治体のランキングが発表されます。
自分のところがどの辺に位置しているか、自治体関係者としては気になるところです。
上位に位置していれば、市民や内外に広報したくもなるのが人情です。

著者は、このようなランキングがもてはやされるのは、日本の人口が減り始めた現在、どの市区町村も人口減少による衰退を避けるため、新たな住民獲得と既存住民の流出抑止のためにさまざまな分野で住民サービス競争を続けていることが背景にある、と指摘します。
旗を振っているのは、市区町村長です。
選挙では「近隣市区町村に負ける負けるなで、背伸びした住民サービスを謳うマニフェストを掲げて」当選。
そして、財政を悪化させても、自分が2~3期のうちはなんとかなるが、自分がいなくなった後は知らない。
「まさに食い逃げ状態」だと。
そんな現状に「心を痛めているのが、各市区町村の心ある行政職員たち」です。

本書では、そのような”不都合な真実”に光が当てられます。
子育て、安全・安心、文化ホールやスポーツ施設、図書館、鉄道の利便性、迷惑施設、公営競技(ギャンブル)、都市イメージなどさまざまな視点からランキングの信ぴょう性について議論が進められていきます。
子どもの医療費も取り上げられます。
著者によれば、「小学校高学年から子どもが扶養家族を外れるまでの10年ほどが、一般的に一番医療費がかからない時期」。
どこに住まいを決めるのかについてはさまざまな要因があり、「医療費助成に目を眩ませることなく、住むまちを選んだほうが賢いといえないでしょうか」と。
議論のあるところでしょうが、こういう見方もあるのか、と新鮮に感じました。


2022年4月27日
から 久元喜造

改めて、テレワーク一辺倒で良いのか。


新幹線に乗ると、「政府からお願い」として、テレワークが呼びかけられています。
テレワークが普及すると鉄道事業にはマイナスですから、政府広報に協力している鉄道関係の方々の心境には複雑なものがあるのかもしれません。

コロナとの戦いが始まって2年余り、テレワークの必要性が叫ばれ、広がってきました。
感染防止の観点のみならず、「場所を選ばない働き方」への関心が高まる中、テレワークに対するニーズは、会社にとっても、社員にとっても高まってきていることは確かです。
また、新規採用の場面でも、その会社がテレワークをしっかりとできる環境を用意してくれるのかどうかは、求職者側から見た重要な要素になっているとの話も聞きました。

一方で、業種、業態にもよりますが、テレワークに馴染まない、たとえば対面での業務が不可欠な職場があることも確かです。
会社などがテレワークを導入する際に、テレワークで働いている社員、対面での仕事をこなす社員が混在する中、どのようにコミュニケーションを確保し、チームワークを維持していくのかは、大きな課題だと思われます。
自治体においては、企画・調査やデータ処理などテレワークに馴染む業務や職場もありますが、窓口業務、交通、消防・救急、ごみ処理、バス・地下鉄の運行など多くの職場では困難を伴います。
コロナ対応の最前線にいる保健所のほとんどの業務は、実際に出務して行う必要があります。
このような状況を考えれば、少なくとも自治体においては、テレワークを積極的に推進するには限界があります。
社会全体を考えても、テレワーク普及のメリット、デメリットをしっかりと考える必要があるように感じます。


2022年4月3日
から 久元喜造

張鼓峰事件で勝利したソ連将軍の運命


以前ブログで紹介しました『スターリン』は、知らなかった旧ソ連の実態を教えてくれるとともに、すでに知られている事件や状況について別の観点や視点を提供してくれます。
たとえば、日ソ間の紛争や外交交渉について、旧ソ連で何が起こり、どう対応したのかについて興味深い記述が多々ありました。
その一つが、 張鼓峰事件 です。
1938年夏、ウラジオストクから南西に120キロほどの沿海部にある満ソ国境の小高い丘陵で日ソ両軍部隊が激突。
翌年には、満洲国とモンゴルの国境でノモンハン事件が起きています。
張鼓峰事件の作戦を指揮したのが、ヴァシーリー・ブリューヘル元帥(1889 – 1938)でした。
彼は、この地域に住む朝鮮系住民に被害が及ぶのを恐れ、日本軍を攻撃するのに飛行機の使用をためらったようです。
これに対し、スターリンは次のように述べ、「決定的行動」を要求しました。

「爆撃が朝鮮人住民を傷つけかねないことへの危惧の念や、軍用機は霧のために任務を果たせないとの恐れも、私には理解できない」
「日本との戦争の時に、貴官が朝鮮人住民を傷つけることを、誰が禁止したというのか?」
「日本側が人民の多数に攻撃を仕掛けている時に、なぜ貴官は朝鮮人に気を遣おうとするのか?」

張鼓峰事件は、ソ連の勝利に終わりましたが、赤軍部隊の戦闘準備態勢などの欠陥も明らかになりました。
ブリューヘル元帥は逮捕され、残酷な拷問を受けて虐殺されました。
スターリン』では、独裁者の理不尽な行為を制止しようとした党幹部、軍人などが排除され、処刑される場面が数多く出てきます。
少数民族への迫害もたびたび行われ、数多くの犠牲者を出したのでした。


2022年2月27日
から 久元喜造

フレヴニューク『スターリン』


著者のオレーク・V・フレヴニュークは、1959年生まれ、モスクワ大学歴史学部教授です。
ロシア連邦国立文書館に長く勤務し、膨大な文書、資料からスターリンの実像に迫ります。
原注、索引を入れると600頁近い大著。大きな衝撃を伴って読み終えました。

神学生のときの振舞など独裁者の生い立ち、革命家としての活動なども興味深いものでしたが、スターリンがその本性を現し始めるのは、革命とその後の内戦からです。
内戦によって第1次世界大戦と2月革命を超える命が奪われ、人為的に引き起こされた飢饉は500万人もの人命を奪いました。
野蛮な殺害や大規模なテロ行為がありふれた出来事になり、スターリンはこの時代の「典型的産物」でした。
レーニンの死後、政敵を排除して権力を掌握したスターリンは、急進的な工業化と農村の集団化を推し進めます。
スターリンが進めた「躍進政策」によって農村では地獄絵図が現出しました。
農民は蜂起し、戦乱の様相を呈します。特に抵抗が激しかったのがウクライナでした。
多くの農民が銃殺され、強制収容所に送られ、故郷から辺境の地に追いやられたのでした。
そして、大テロルと戦争がこれに続きます。
「第4章 テロルと差し迫る戦争」「第5章 戦時下のスターリン」は本書の中心をなし、筆致は淡々としていますが、そこで描かれるのはまさに地獄です。
独ソ戦開始時の致命的な判断ミスなどスターリンの戦争指導や連合国首脳との駆け引きも興味深いものでした。
戦後もスターリンによる粛清は続きます。
数多くの医師が無実の罪を着せられて逮捕、殺害され、それは1953年3月のスターリンの死によってようやく終止符が打たれたのでした。


2022年2月14日
から 久元喜造

水素エネルギー利活用が新段階に。


2月4日の日経新聞に、「神戸ポーアイ、水素供給」という見出しで、神戸における水素産業育成の取り組みが紹介されていました。
取り上げられているのは、ポートアイランドに整備が予定されている大規模な水素ステーションです。
神戸市が約1万平方メートルの用地を整備し、水素ステーションを運営する事業者を公募します。
水素エネルギーで走る自家用車やバス、トラックのほか船舶への供給を視野に入れた大規模な施設です。

神戸では、水素サプライチェーンを構築するプロジェクトが着々と進んでいます。
オーストラリアに賦存する褐炭から水素を製造し、日本に輸送する壮大なプロジェクトです。
日豪間の実験がすでに始まっています。
川崎重工業が建造した世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」が昨年12月24日に神戸港を出港しました。
オーストラリアでの実験を完了した後、この春にも神戸港に戻ってくる予定です。
神戸市は、神戸空港の近くに液体水素を荷揚げするための岸壁と施設を整備するなどこのプロジェクトに参画しています。

思い出すのは、市長就任間もない2014年3月、総理大臣官邸で開催された「経協インフラ会議」です。
都市インフラ輸出に関する閣僚会議でした。
このとき「水素エネルギーを活用したスマートコミュニティ構想」として、オーストラリアの褐炭に由来するCO2フリー水素を利用した事業展開を説明しました。
あれから8年近くが経ち、このプロジェクトが関係者各位のご尽力で確実に実現していることをありがたく感じています。
川崎重工業など日本企業の優れた技術がグローバルな規模で活用され、脱炭素化の取り組みにつながっていくことを期待しています。


2022年2月5日
から 久元喜造

むし歯予防の取り組みと成果


歯と口の健康は、豊かな人生を送るために欠かせません。
歳を重ねても元気でいるためには、乳幼児から高齢者までライフステージに応じて、歯と口のケアを継続することが重要です。

上の図は3歳児健診における長田区のむし歯有病率の推移です。
2009年(平成21年)には4人に1人の子どもがむし歯にかかっていましたが、2020年(令和2年)には8人に1人の割合となり、約10年の間に大きく改善しました。
この背景には、「ハッピーむし歯予防事業」という長田区独自の取り組みがありました。
2011年(平成23年)に始まったこの事業は、区歯科医師会、神戸常盤大学、兵庫県立総合衛生学院、兵庫歯科衛生士学院と長田区がコラボして実施してきた取り組みです。
例えば、区と歯科医師会が協力して作成したリーフレットを母子健康手帳を交付するときや乳幼児健診(4か月、1歳6か月、3歳)の際に配布したり、歯ブラシを乳幼児健診時に配布したりしてきました。
神戸常盤大学、総合衛生学院、兵庫歯科衛生士学院のみなさんには、小学校・幼稚園・保育所・児童館に歯磨きの指導を行っていただき、子どもたちが効果的な歯磨きの方法を学んでいます。
こうした継続的な取り組みが目に見える成果となって現れたと考えられます。

このような取り組みを広げていくことが求められます。
妊婦の方が妊娠期間中に1回無料で歯科検査を受診できるようにしたのもその一例です。
健康な歯は一生の宝です。
特に乳幼児期のこどもの歯を守ることは、噛む・話すなどの口の機能を育てる上でとても大切です。
このような取り組みを幅広く展開し、子どもたちのむし歯予防につなげていければと考えています。


2022年1月23日
から 久元喜造

ローリー・サザーランド『欲望の錬金術』


昨年読みましたが、ようやく感想を記すことができました。
著者は、世界的な広告会社オグルヴィUKの副会長。
コミュニケーション業界の専門機関である英国広告代理店協会の会長も務めました。
人の欲望や行動をかきたてるものは何なのか。
心理学や行動学、最新の科学の知見をもとに、豊富な事例を交えて語られます。
著者は本書の冒頭で、読者にこう呼びかけます。
「私はこれからみなさんに、人生には魔法の余地があるべきだということを思い出させたい―心に中にいる錬金術師を発見するにはまだ手遅れではないのだ」と。
著者がいう錬金術(Alchemy)とは、「経済学者が何を間違っていたのかを知る科学」だといいます。
そこでは合理性のロジックではなく、「心理ロジック」が重視されます。
「心理ロジック」は、「無意識のうちに働くことが多く、自分が認識しているよりもはるかに強力で広範囲にわたるもの」です。
人間の行動を決定づけるのは「錬金術という魔法」だと著者は強調します。

膨大な事例が次々に繰り出されます。
例えばかつてウォークマンの開発期、エンジニアは録音機能を付けようとしたそうですが、盛田昭夫はこれを禁じたそうです。
ロジックで言えば、ごく僅かなコストで機能が増えることは合理的ですが、あえて機能の幅を狭めることによってこの装置が何を目指しているかを明確にしたのです。
著者はこの発想を「一般的な経済ロジックには逆らっているが、心理ロジックには従っている」と考えます。

豊富な成功事例は人間心理を考える上でとても参考になりました。
同時に、さわやかな読後感を持つことができたかと言えば、そうではなかったことも事実です。
(文中敬称略)


2021年11月23日
から 久元喜造

鈴蘭台西口の次は西鈴蘭台


朝日新聞連載、原武史さんが執筆されている「歴史のダイヤグラム」はよく読みます。
3か月ほど前に掲載されていた記事のタイトルは「「西口」とつく駅名の東西」。

原さんは、1999年10月、神戸電鉄粟生線に初めて乗られたそうです。
粟生線の起点は鈴蘭台。
次の駅が 鈴蘭台西口 、その次の駅が 西鈴蘭台 です。
原さんによれば、関西には本家の駅名のあとに「西口」「南口」「北口」がつく駅が私鉄にいくつか見られますが、「西口」と「西」が連続する線はほかにはないのだそうです。
鈴蘭台西口駅が小部西口駅から改称されたのが1962年(昭和37年)だったことも、この記事で知りました。
私たち一家が鈴蘭台に移り住んだのは1964年(昭和39年)で、この駅名改称の直後だったようです。
当時の鈴蘭台西口駅の周りは瀟洒な家が並ぶ静かな住宅街で、小部小学校の同級生も何人か住んでいました。
住宅街の南側には中山田圃と呼ばれる広大な農地が広がり、その周囲は里山でした。
大小の池が点在し、ひょうたん池という名前の池もありました。
拙著『ひょうたん池物語』に登場する池とはかなり趣を異にする、大きな池でした。
まもなく住宅開発が始まり、次々に団地や一戸建ての住宅が建設されていきました。
1970年6月、西鈴蘭台駅が開業。
朝日新聞には開業当時の西鈴蘭台駅の写真も掲載されていました。

すでに開業から半世紀余りが経ち、施設の老朽化も進みました。
周辺地域の人口減少も目立っています。
商業施設、駐輪場などの公共施設を含めた再整備が求められます。
神戸電鉄のみなさんとも協議を進めながら、早期に具体的な再整備計画を作成していきたいと考えています。


2021年11月14日
から 久元喜造

ハンセン『スマホ脳』


スマホが出現してから、私たちの生活は一変し、人間の行動形態や思考方法に大きな影響を与えています。
著者は、このスマホが人間には必ずしも適合しないと主張します。
なぜなら人間の身体や脳は、気が遠くなるほどの年月をかけて進化してきたのであり、スマホにはついていけないのだと。
現代の人間の脳が狩猟採集時代とさほど変わっていないという著者の主張は、確かにそうかもしれませんが、科学的な論証に耐えられるのか、議論が必要かもしれません。

自分自身の経験を踏まえて、本書の主張がそのとおりだと感じるのは、スマホが人間の集中力を奪う ということです。
短時間だけ残る記憶ではなく、自分の中に、数か月、数年、あるいは一生残るような長期記憶ができることは、人間という存在にとってとても大事です。
著者によれば、記憶するためには集中が必要で、「次の段階で、情報を作業記憶に入れる。そこで初めて固定化によって長期記憶ができる」と言います。
ところが「インスタグラムやチャット、ツイート、メール、ニュース速報、フェイスブックを次々にチェックし、間断なく脳に印象を与え続けると、情報が記憶に変わるこのプロセスを妨げる」。
このことが、いくつかの実験を使って例証されます。

どうすれば良いのか。
「バカになっていく子供たち」という刺激的な章の後の章では「すべての知的能力が、運動によって機能を向上させる」と説かれます。
「多くの人がストレスを受け、集中できず、デジタルな情報の洪水に溺れそうになっている今、運動はスマートな対抗策だ」と。
そのとおりだと思います。
巻末の「デジタル時代のアドバイス」には、実行可能なメニューが記されています。