久元 喜造ブログ

福永文夫『日本占領史 1945 – 1952』

161009-1
どのような国家、民族であっても、他国に占領され、その統治を受けることは屈辱であり、被占領国の国民が塗炭の苦しみを味わうのは、歴史が教えるところです。
我が国が有史以来初めて経験したGHQ(連合国最高司令官総司令部)による占領においても、数多の理不尽や悲劇が生じたことは確かです。
しかし、日本占領の最高責任者であったマッカーサーが解任され、帰国するとき、衆参両院は感謝決議を全会一致で可決し、数えきれない日本国民が沿道にぎっしりと詰めかけ、その帰国を見送ったのでした。

本書では、1945年8月から1952年4月まで、7年近くにわたったGHQによる占領を丹念にたどります。
GHQが一方的に指令を発し、日本政府がこれにひたすら従ったのではなかったことがわかります。
本書には、総理大臣のほか歴代内閣の閣僚、与野党の政治家、官僚、経済界、労働組合、報道機関などの指導者が登場しますが、占領統治は、これらのアクターとGHQとの間でのさまざまな交渉、駆け引きが繰り広げられる中で実施されたのでした。
昭和天皇も節目節目に大きな役割を果たします。
また、GHQ内部も決して一枚岩ではなく、マッカーサーは、国務省などワシントンとしばしば対立、ときには衝突を繰り返したのでした。
複雑な政治過程と偶然が重なりあい、戦後日本の諸制度が出来上がっていきました。

全体として日本の占領統治は成功であったという認識は、米国では共有されており、本書を読んでそのような認識に違和感は覚えません。
残念ながら、この時代の見識と経験は、イラク占領では発揮できなかったようで、イラク占領の失敗は、今日の混沌につながっているように感じます。