久元 喜造ブログ

國分功一郎『目的への抵抗』


いま読んでいる宇野常寛『庭の話』によれば、國分功一郎『暇と退屈の倫理学』は、今世紀に国内でもっとも広く読まれた哲学書のひとつだそうです。
2011年に出版された同書の続編として、「目的への抵抗」は刊行されました。
東大で行われた「高校生と大学生のための金曜特別講座」などが出発点で、コロナ危機が社会を揺さぶった時期でした

最初に取り上げられるのは、イタリアの哲学者アガンベンの問題提起です。
コロナの感染期に執られた緊急措置を「平常心を失った、非合理的で、まったく根拠のないもの」と批判したのです。
緊急事態は行政権力が立法権力を凌駕する事態で、ルールなしに物事が決められてしまう「例外状態」が人々によって受け入れていることへの危機感でした。

アガンベンから出発して、コロナ危機のときに頻出した「不要不急」、そして「目的」の概念の検討に入ります。
ここから贅沢と浪費、そして消費へと考察は進んでいきます。
浪費は必要を超えるものを受け取って満足をもたらし、満足すれば浪費は止まります。
一方、消費の対象は、ものではなく、観念や記号なので消費には際限はありません。
消費のメカニズムを応用すれば、経済は人間を終わりなき消費サイクルへ向かわせることができます。
そこから見えてくるのが、贅沢と目的の関係です。
贅沢には目的から逸脱があり、目的からはみ出る経験、そして必要と目的に還元できない生こそが人間らしさの核心にあるとされます。
人間の活動には目的に奉仕する以上の要素があり、活動が目的によって駆動されるとしても、その目的を超え出ることを経験できるところに人間の自由がある、という著者の主張には共感を覚えました。