久元 喜造ブログ

宇野常寛『庭の話』


誰かに向かって何かを発言したとき、他の誰かに承認されることにより、何ものにも代えられない快楽と安心が得られます。
「情報技術はこの承認の快楽を獲得するために必要なコストを飛躍的に下げた」と著者は指摘します。
プラットフォーマーたちは相互評価(承認の獲得)のゲームを設計し、このゲームは無限に反復され、彼らは膨大な収益を上げることに成功しました。
ある行動が他者の承認の獲得を目的とするとき、すでに広くシェアされている問題へのインセンティブの方が、新しく問題を設定するよりも高くなります。
こうしてゲームでシェアされる話題は画一化していきます。
著者は、「閉じたネットワーク=プラットフォームにおける相互評価のゲームは、人間から世界を見る目と触れる手を、社会から多様性を奪い取ろうとしている」と危機感を示します。

この状況からどう脱出できるのか。
著者は、人間「ではない」事物とのコミュニケーションを回復させる場に回路を見出します。
それが「庭」です。
庭には草木が茂り、花が咲き、その間を虫たちが飛び交います。
庭にはさまざまな事物が存在し、その事物同士のコミュニケーションが生態系を形成しています。
人間が介在しなくても、そこには濃密なコミュニケーションと生成変化が絶えず発生しています。
人間は庭を訪れることで相互評価のゲームから離脱できる、と著者は指摘します。
著者は、プラットフォームに代わる新たな社会イメージを生成すべく、現代における「庭」を成立する条件を探り続けます。
哲学を含めたさまざまな論点が交錯し、読者を知的興奮に誘います。
小網代の森、ムジナの森、小杉湯などの豊富な事例も、説得力を高めています。