久元 喜造ブログ

村上しほり『神戸ー戦災と震災』


著者は、神戸大学大学院人間発達環境学研究科修了、博士(学術)を取得し、都市史・建築史が専門です。
現在、神戸市職員(公文書専門職)として、2026年度に開館予定の神戸市歴史公文書館の開設に尽力していただいています。
これまでも神戸の歴史を調査・研究され、『神戸 闇市からの復興』として出版されました(2019年3月3日のブログ)。

今年神戸は、震災から30年、そして空襲から80年を迎えました。
本書では、開港による都市形成に始まり、現在進められている街づくりまでが語られますが、紙幅が割かれているのは、災害、戦争の惨状とそこからの復旧・復興です。
神戸は、1938年の阪神大水害、1945年の神戸大空襲、1995年の阪神・淡路大震災と、想像を絶する困難を乗り越え、発展してきました。

戦時下の市民生活と行政の対応も丁寧に描かれます。
食糧不足の中で、空き地を活用した菜園が奨励され、神戸市は栽培指導の技術員を配置して本格的な空き地利用を進めました。
空襲で神戸の街は灰燼に帰し、戦後は戦災跡地の農園化による自給自足が邁進されました。
「食糧危機による増産の必要性と戦災跡地の用い方には、終戦による著しい変化はなかったと見ることができる」という著者の指摘は、戦前・戦後断絶の視点に立った歴史観とは一線を画しているようで、新鮮に感じました。

神戸には連合国軍が進駐し、大規模な基地 “Kobe Base”(神戸ベース)が置かれます。
数多くの土地、建物が接収されていく過程も描かれます。
戦災復興事業・震災復興事業も分かり易く記されています。
被災と再建の繰り返しによって見えなくなった風景が蘇ってくるように感じました。