空襲で焼け野が原になった神戸の街が、戦後、闇市から復興してきたことは知られています。
著者は、その闇市の「発生から衰退を辿り、さらに闇市が姿を変えて新たな商業空間として根付くまでの変容過程を描」きます。
素晴らしい研究書です。
GHQ記録の文書をたどり、対象時期の神戸新聞の全紙面(!)を通覧し、神戸市職員を含め当時を知る人々へのインタビューを実施し、複雑な当時の状況を丹念に蘇らせます。
三宮国際マーケット、ジャンジャン市場などを舞台に、民衆、GHQ、地方行政・警察をはじめ、きわめて多様な人々が登場します。
1987年生まれの著者が、まるで当時のカオスの真っただ中に身を置いていたかのような臨場感に圧倒されます。
街づくりは、今後の社会経済の変化を見据えるとともに、「都市の記憶」を踏まえながら構想し、進めていかなければなりません。
その意味で、本書が、神戸市の多くの職員に読まれることを期待したいと思います。
また、新開地近辺で生まれ、子供時代を過ごした私にとり、「湊川新開地」、「湊川公園商店街」に関する記述はまことに興味深く、喧騒と混沌の坩堝であった当時のことを懐かしく想い起しました。
あの頃、すで長く廃墟となっていた神戸タワーが、まだ湊川公園に聳えていました。
神戸タワーの撤去がなぜ1960年代に入るまで行われなかったのか、複雑な事情を初めて知ることができました。
1968年9月に撮影された写真には、取り壊される最中の神戸タワー、そして5年前に竣工したポートタワーの両方が写っています。
神戸の街は、闇市の面影を払拭し、急速に姿を変えていったのでした。(慶応義塾大学出版会:2018年12月刊)