久元 喜造ブログ

「複式簿記・発生主義」への移行の課題

昨日のブログ で、財務会計制度の改革が急がれる理由について、記しましたが、きょうは、実務の観点から、制度改革の必要性について、敷衍させていただきます。

決算に関連する実務の状況について、簡単に触れておきましょう。

まず、自治体は、地方自治法に基づく決算書類を作成しなければなりません。
さらに、自治体は、2007年(平成19年)に制定された、いわゆる財政健全化法に基づき、実質公債費比率、将来負担比率などを算定しなければなりません。
また、古くから、総務省が示す詳細な様式に基づき、決算統計を作成し、総務省に提出することが行われてきました。
これに加えて、2006年の事務次官通知により、自治体は、発生主義の観点に立った4表の作成が要請されているのです。

これらは、相互に関連していますが、作成に関する根拠はそれぞれ異なり、基本的には独立した作業です。
総務省の担当も、それぞれ異なり、自治体の財政担当者のみなさんは、それぞれの資料を作成し、総務省、あるいは、都道府県の担当部局に説明しなければなりません。

これら4つの作業は、自治体の決算から得られる財政状況を開示・公表する上で共通しており、その統合が図られるべきです。
国は、そろそろ、長年にわたる公会計改革に着点を見いだして、決算に関する制度改正に踏み切る時期に来ていると思われます。
この制度改革は、自治体の財政状況を、正確に、かつ、自治体間の比較可能性を確保する上からも重要です。同時に、自治体の実務を、錯綜した作業から解放して、事務負担の軽減する上からも、必要不可欠です。
そして、「複式簿記・発生主義」に基づく財務会計制度への移行は、このような見地からの制度改革として、理論的には、その有力な選択肢であろうと思われます。

同時に、財務会計制度の改革に当たっては、国・地方自治体と民間企業との間の、財務会計制度に要請される相違についても、留意される必要があります。

決定的に異なるのが、予算の位置づけです。
民間企業では、予算は、事業計画・決算の見込みという意味でしかなく、法令で義務付けもされていません。
これに対し、国や地方自治体においては、財政に対する民主的統制の要請から、予算は、国会・議会で議決され、内閣や首長を拘束します。

拘束力を伴う国・自治体の予算は、明瞭であることが必要で、現金主義に基づいて編成されることが必要です。
したがって、決算において、発生主義に基づく財務諸表を作成することとしても、これに加えて、現金主義で作成された予算との対比を説明する書類の作成が不可欠となります。

決算制度の改革においては、このような民間企業と自治体との違いを踏まえて行われる必要があります。