久元 喜造ブログ

2014年9月24日
から 久元喜造

ケースワーカーの役割

生活保護は、自治体にとり、むずかしい行政分野です。まったく逆の方向からの批判にいつもさらされ、その間にあって苦吟してきました。

一方の批判は、生活保護の認定や運用が甘すぎ、怠け者を甘やかしている、という批判です。不正受給が報道されれば、担当部局には苦情が殺到します。
逆方向からの批判は、自治体が財政面から生活保護の認定を渋り、生活困窮者に必要な手をさしのべていない、という批判です。認定をしなかった申請者に悲劇的な事件が起きると、やはり非難が殺到します。

生活保護行政には、保健福祉局と区役所が緊密に連携して当たっていますが、ひとりひとりの受給者、認定申請者と向き合っているのが、区役所の保護課に配属されているケースワーカーの職員です。
厚生労働省の基準では、一人のケースワーカーは80件の受給者を担当することとされていますが、現実には100件を超えているのが実情です。そのような中にあって、受給者をできるだけ訪問して相談に応じたり、必要な指導を行っています。
ケースワーカーの大きな任務は、働くことができる受給者に働いてもらう、つまり自立を促すことです。受給者の中には、メンタルなど困難な事情を抱えていたり、子どもの頃からの生活習慣に大きな問題があったりして、自立への課題も多いのですが、一人一人と丁寧に相談に乗り、就業できるように頑張ってくれています。
「自立できる目途がついた受給者から感謝の言葉を聞くのは、何よりも励みになります」
と、あるケースワーカーの職員は、私に話してくれました。

今年の4月に市役所に入った一般行政職、福祉職179名のうち、38名がケースワーカーとして働いています。社会人になって初めての仕事としては苦労が多いと思いますが、先輩からアドバイスや励ましを受けながら頑張っている新人職員がたくさんいることは、私にとっても大きな励みになります。

 


2014年9月22日
から 久元喜造

遙かなる台湾

台湾の李登輝元総統訪日の報に接し、少年時代の台湾旅行を想い出しました。

高校1年生のとき、ある作文コンクールに入賞し、当時としては大金の10万円をいただきました。そこで1970年3月の春休みに、沖縄、台湾をひとりで旅することにしたのです。
米軍統治下の沖縄から台湾の基隆に向かう琉球海運の船の中で、東京外国語大学の学生と知り合いになりました。何度も台湾に行っていて、案内してやろうと言うので、付き従うことにしました。
台北に到着し、彼の常宿に泊まったのですが、ものすごい歓迎ぶりでした。当時、戦前から住んでいる台湾のみなさんは、ほとんどがきれいな日本語を話すことができました。
台北市内で食べた餃子の美味しかったこと。
特急で台中に移動し、屋台でアヒルや豚の頭などを楽しみました。
日月潭で湖面に映る月を眺め、彼と別れて、外国人の立ち入りが厳しく制限されている山岳地帯に入りました。山の中の集落を歩いていると、日向ぼっこをしていたおじさんが
「日本人か、中に入りなさい」
とおっしゃるのです。雑談をしていると昼飯時になり、山菜をおかずに昼ご飯をごちそうになりました。
缶に入った山菜は日本に輸出しているようで、「これは神戸に行くんだよ」と説明してくれました。

旅の後半は、台湾の東海岸を路線バスで北上しました。ある大きな停留所に着いたとき、ちょうど昼飯時になったので、そばの食堂に入りました。ところが、あてずっぽうに頼んだ料理が、手の込んだ麺だったようで、発車予定時刻を過ぎても出てこないのです。
私は、運転手さんに、「間に合いませんから、発車してください」と言ったのですが、運転手さんは、「食べて下さい。待っていますから」とおっしゃり、バスは、20分近く遅れて発車しました。
ほぼ満席の車内からは苦情も出ず、本当に申し訳なく、ありがたく感じました。

至る所で台湾のみなさんの親切が身にしみた、16歳の台湾旅行でした。


2014年9月20日
から 久元喜造

若手農業経営者のみなさんとのひととき

木曜日は、北区の道場、大沢にお邪魔し、トマト圃場、イチゴ圃場、ワイン用ブドウ圃場、市民農園などを見学させていただきました。
また、ボランティアのみなさんによって手入れされた里山の姿も見ることも出来ました。
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夕方からは、フルーツフラワーパークで、道場、大沢のほか淡河や八多など若手の農業経営者のみなさんと懇談しました。
参加されたのは、30代、40代の16名のみなさんです。いろいろとお話を聞かせていただき、それぞれの発想や考え方で、果敢に挑戦されている姿に、大いに勇気づけられました。さまざまな課題があることは事実ですが、北区における農業の可能性を確信することができました。
現在、フルーツフラワーパークで、新しい農業技術支援拠点の整備を進めていますが、その研究成果の一部がすでに農家に提供され、実を結びつつあることも改めて知ることができました。

私からは、農業への取り組み以外に、市街化調整区域内の既存集落に住宅を建築する場合の規制を緩和し、人口を呼び込む手立ての一つにしたいと考えていること、また、深刻化している有害鳥獣被害への取り組みを強化していることなどもお話ししました。

まだ一部の地域に止まっているようですが、農村集落の空き家に外から移り住む動きもあるようです。
未来に向けたこれらの取り組みは、まだ散発的な段階にとどまっているのかもしれません。しかし、これらの動きを確かなものにし、大きな流れにしていくことはきっとできるのだということを、若手農業経営者のみなさんとの意見交換を通じ、力強く感じることができました。確かな手応えを感じるたことはありがたかったです。
神戸農業と北区農村地域の活性化のために、農業経営に熱心に取り組んでおられるみなさんといっしょに頑張っていきたいと思います。


2014年9月18日
から 久元喜造

増田寛也さんとのご縁

昨日の産経新聞に、日本創成会議座長としてご活躍中の増田寛也さんのインタビューが掲載されていました。

 ・・建設省(現国土交通省)時代は猛烈に働きました。建設省にいたのは42歳までですが、当時はいかに役所に長くいて、いかに休日も含めて仕事に注力するかという価値観にどっぷり浸かっていました。
40歳前後で大きな法案をいくつか作り、そのひとつが「地方拠点法」です。6省庁がかかわる新設の大きな法律で、年末から2月まで2カ月ほぼ泊まり込みで作業しました。主管庁である建設省からは私、自治省(現総務省)からは今の神戸市長の久元喜造、通産省(現経済産業省)からは今の経済産業政策局長の菅原郁郎がとりまとめ役でした。
家に帰れないため、いつも着替えを朝、家内に省まで届けてもらいましたね。窓のない部屋ですから、外が見えない。知らないうちに真っ暗になる。残業はつけていないから分からないけど、月300時間ぐらいになったかな。ただ、仕事とはそういうものという意識で、苦労はしたけど、つらいとも思わなかったですね。

窓のない部屋で、増田さんと法案を詰めた日々を想い起こします。私も、月に250時間くらいの残業をし、モーレツに仕事をしました。
同時に、増田さんが思っておられますように、こんな仕事の仕方を、今の若手のみなさんにしてほしくありません。自分が味わった同じく苦労を後輩にさせて、鍛えようとする向きもありますが、明らかに間違いです。

増田寛也さんは、最年少で岩手県知事に就任され、その後、第1次安倍改造内閣、福田康夫内閣の総務大臣として入閣されました。私は、選挙部長、自治行政局長としてお仕えしました。
20年以上にもわたるこのようなご縁もあり、増田さんには、神戸市の特別顧問にご就任いただき、人口減少時代における大都市行政についてご教示をいただいていることは、本当にありがたく感じています。


2014年9月16日
から 久元喜造

情報共有によるトップマネジメントの確立

少し前になりますが、8月18日(月)の日経新聞朝刊一面に、次のような記事が出ていました。

「8月上旬の火曜日の朝7時半、首相官邸にほど近いホテルへ官房長官の菅義偉(65)と副長官の加藤勝信(58)、世耕弘成(51)を乗せた車が滑り込んだ。3人は毎週1回、当面の政策課題などを話し合う「朝会」のメンバー。朝会でとりわけ重視するのが株価だ」

安倍内閣が、株価の動向に細心の注意を払いながら政権運営を行っていることが窺えます。
同時に、政権中枢を担っておられる官房長官、官房副長官が、毎週、早朝にこのような「朝会」で情報を共有し、政策課題について意見交換をされていることは、意義のあることと感じました。
9月3日の内閣改造では、官房長官、副長官はすべて留任されました。

どのような組織においても、トップマネジメントは重要です。トップマネジメントを確立するためには、トップレベルでの情報共有が不可欠です。このことが、機動的で整合性のとれた政策発動につながります。

レベルは違いますが、昨年11月に神戸市長に就任してすぐに始めたのが、市長・副市長会議でした。
私は、神戸市役所の外で育ち、仕事をしてきた人間ですから、なおさらのこと、市役所生え抜きの副市長と不断に情報を共有し、チームワークをつくりあげることが大事だと考えたからです。

市長・副市長会議は、毎週月曜日と木曜日の朝8時30分から行っています。
3人の副市長と私が、それぞれ気になっていることを述べ合い、直ちに結論を出したり、それぞれの所管で検討してもらうこととしたり、注意深く情報収集することとしたり、・・・できる限りその場で一定の方向性を出すことにしています。
会議は、ほとんどの場合、始業時刻を告げる8時45分のチャイムが鳴る前に終わります。

このようにして、情報共有によるトップマネジメントを確立し、感度の高い、スピード感のある仕事に結び付けていきたいと考えています。

 

 

 

 


2014年9月14日
から 久元喜造

iPS細胞移植手術の成功

金曜日から大きく報道されていますが、iPS細胞から作られた網膜色素上皮細胞を移植する手術が、神戸市のポートアイランドにある先端医療センター病院で実施され、成功しました。
iPS細胞から作られた細胞を患者に移植する手術は、世界で初めてです。

何よりも安堵したのは、手術を受けた患者さんが、お元気な様子で、報道によれば症状に改善が見られるということです。患者さんに手術を施す以上、そこで得られる医学的知見がいかに貴重とは言え、患者さんの症状によい影響があることが何よりも大事だからです。
もちろん、症状の改善が今回の手術によるものかどうかは、今後、術後経過を含め、専門的知見を総動員して見極めていかなければなりません。この点について、手術チームが慎重な見解を表明されていることは納得できることです。
京都大学の山中伸弥教授によって開発されたiPS細胞が、実際の患者の治療に使われたのはこれが初めてのこと。今回の手術は、再生医療の実現に向けた大きな一歩になると期待されます。

神戸市は、これまで医療産業都市構想を推進し、先端医療振興財団を設立するとともに、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB)に対して、支援を行ってきました。
今回の手術は、CDBの高橋政代プロジェクトリーダーをはじめチームのみなさまのこれまでの研究が結実したものです。そして、先端医療振興財団の先端医療センター病院で手術が実施され、成功したことは、神戸市民として誇りに感じます。

今後、神戸発の医療技術がさらに発展し、再生医療の対象も拡大して、これまで治らなかった病気の治療に適用され、医療水準の向上に貢献していくことを期待したいと思います。


2014年9月11日
から 久元喜造

リヨンの内臓料理

先週、投資促進セミナーのために訪れたリヨンは、美食の街、「食都」として知られます。
高級レストランもたくさんあるようですが、我々は、ぎゅうぎゅう詰めの庶民的なお店で、内臓料理などを楽しむことにしました。
観光客のほか、地元のみなさんとおぼしき一行などたくさんのお客さんがおられ、たいへんな賑わいです。
内臓料理に焦点を当てて注文。

まず、「蜂の巣」と呼ばれる豚の胃の料理です。トマト風味で煮込んでいます。
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続いて出てきた、おそらくは豚の腎臓は、鶏の砂肝とレバーを足して二で割ったような味がして、苦みがほどほどにあり、存在感のある味わいでした。
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別の店では、蛙の唐揚げも注文しました。
以前、新宿のはずれで食べた蛙料理は、大きな食用蛙で、唐揚げで出されたその味は鶏肉のようでしたが、今回の一皿は、小さな蛙の下半身がいっぱい盛り付けられていて、ずっと野性的な雰囲気を漂わせています。
味はなかなかジューシーでした。写真の掲載は、控えさせていただきます。

リヨンは、絹織物の生産から発展してきた街で、レストランには、「絹織職人の脳味噌」と名付けられたチーズもありました。


2014年9月10日
から 久元喜造

学力の向上はやはり必要では。

先日、全国の小中学校の 「平成26年度全国学力・学習状況調査」 いわゆる学力テストの結果が文部科学省から公表されました。
学校別のテスト結果を公表すべきかどうかが、以前から議論になっていました。また、都道府県別、市町村別の状況や順位も話題になっているようです。

現行の教育行政の制度では、教育の実施そのものは教育委員会の責任であり、市長の任務は、必要な予算措置を講じたり、議案を議会に提案することなどに限定されています。
しかし、さまざまな議論を経て制度が改正され、来年度からは、教育に関する知事や市町村長の責任は格段に大きくなります。教育は教育委員会の担当です、と言っているわけにはいかなくなりました。

そのような制度改正を前提にすれば、学力の向上は、やはり自治体として全力で取り組んでいかなければならない課題だと思います。
「学力の向上」という言葉を口にした途端、「教育は学力の向上だけが目的ではない」「学力一辺倒はおかしい」「必要なのはむしろ人間力だ」といった批判の声をよく耳にします。
しかしそのような声を前にして、教育界が学力の向上に後ろ向きになるような風潮を生んでいるとしたら、それはたいへん残念な事態です。

教育の目的が学力の向上だけをめざすものではないことは自明です。教育は、子どもが生きる力を身につけ、規範意識を養い、豊かな感性を持った人間として成長していくことを助ける営みでなければなりません。
しかしこのことは、学力の向上を否定するものではないはずです。
少なくとも、制度改正後の市長を含め、教育に責任を持つ立場の者は、これら自明の議論を前にしてたじろぐことなく、学力の向上のために、最大限の努力をしていかなければならないと考えます。


2014年9月7日
から 久元喜造

リヨンで投資促進セミナー

9月5日(金)、フランスのリヨンで神戸への投資促進セミナーを開催しました。
神戸には240社以上の外資系企業が立地していますが、14社のフランス系企業も含まれています。
リヨンを中心とするローヌ・アルプ州は、フランス第2の経済圏を誇り、自動車産業、メディカル、化学繊維といった企業が集積しています。サイエンス分野でも抜きん出た存在です。
このリヨンで、神戸への投資を呼びかけることには、大きな意味があります。

会場は、リヨン商工会議所です。19世紀後半に建築された、堂々たる建造物です。
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リヨン商工会議所から当セミナーの開催意義について説明があり、私から、医療産業都市構想の趣旨と具体的な進行状況、そして、神戸の投資環境、居住環境と投資優遇策について、25分ほど、プレゼンテーションを行いました。
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関西に立地している企業関係者から、率直な体験談が披露された後、自由討議に移り、再生可能エネルギーへの取り組み、港湾都市としての将来像などを含め、活発な質問が出されました。

セミナーの後のパーティーでは、参加者のみなさんと和やかに懇談しました。 灘の酒のほか、神戸ワインの Benediction も出しましたが、あっという間になくなってしまいました。Benediction については、複数の方から、「バランスが優れている」など、高い評価をいただいたことはありがたかったです。

午後は、ローヌ・アルプ州が設立している ERAI (ローヌ・アルプ州企業国際開発局)を訪問し、有意義な意見交換を行いました。

 


2014年9月4日
から 久元喜造

作文行政からの脱却

何とか基本計画、何々事業計画、++計画、○○プラン、**ビジョン・・・・・役所には、どうしてこんなに計画のたぐいが多いのでしょう。
主要な行政分野に計画ができれば、さらにその中の各分野の計画がつくられ、さらに、その下の計画が求められ、際限なく枝分かれしていくような印象さえ受けます。
さらに、計画をいったんつくれば、その進捗状況を把握し、外部の視点を含めた評価が行われ、その評価をもとに、計画を改定するサイクルが理想の姿だと言われます。
こうして、膨大な計画の作成・改訂・点検の作業が、役所のあちこちで行われています。
これらの大半は、職員のデスクワークです。机上の作業です。

もちろん、市政全般にわたり、また、それぞれの行政分野で、きちんと将来を見据え、計画的に仕事を進めていくことは大切です。
しかし、市役所の中の多くの組織において、年がら年中、このような、いわば「作文行政」がまかり通っているとしたら、それが本当に市民のための仕事になっているのかどうかは、大いに疑問です。
無駄な作文はやめ、むしろ求められる課題に対して、迅速に行動し、目に見える成果に結び付けていくようにすることが求められているのではないでしょうか。

幸い、改革の芽は生まれています。
神戸市の「神戸2015ビジョン」については、これまで、市長・副市長、局室区長がメンバーになっているビジョン推進本部を開き、改定作業を行っていました。
企画調整局では、この本部を廃止し、作業を大幅に簡素化して、最小限の改訂を行うことにしました。
また、各区計画については、改訂そのものを行わないことにしました。
このような「作文行政」からの脱却が、市役所の中に広がっていくようにしていきたいと思います。

無意味な「作文行政」に耽っている組織・人員を削減する一方、市民サービスに汗を流し、あるいは、新しい課題に果敢に挑戦している組織・人員を拡充していくことが求められます。