久元 喜造ブログ

坂本義和先生のご逝去

きょうの各紙は、坂本義和 先生のご逝去を報じていました。
国際政治学者として、戦後の論壇をリードして来られた先生の訃報に接し、深い悲しみを覚えます。

私は、1974年、坂本先生の国際政治の授業を受けました。何と、理論的・体系的で、知的刺激に満ちた講義だったことでしょう。
坂本先生は、教科書はお使いにならず、板書で説明されながらの講義でしたので、必死にノートをとったのを想い出します。

戦後の代表的な進歩的知識人と見なされることが多かったようですが、戦争、国際紛争に関する理論的枠組みについての考察には説得力があり、学生をうならせました。
“The game of chik’n” の理論、その実際的応用としてのナチス・ドイツがとった行動に関する考察などは、鮮やかに想い起こされます。
1970年代半ばの国際政治は、冷戦構造からの脱却が世間の主たる関心事でしたが、先生の視線は、もっと先に注がれているように思えました。
坂本先生は、発展途上国における社会矛盾を、単に国内問題としてではなく、もっと大きな視点、”center – periphery”  的な視点から捉えておられました。
また、19世紀に確立された “Nation- State System” は、1970年代にはすでに揺らぎ始めており、international なレベルと、local なレベルに分解していくだろう、と指摘されていましたが、とりわけヨーロッパ世界はそのような方向に向かいました。「グローカル」を、すでに予言されていたことになります。

坂本先生の講義に感激した私は、翌年度、先生のゼミを受講しました。チューダー王朝から米国の統治構造に至る政体論に関する英文の輪読で、積極的に議論に参加しました。

一昨年、神戸に戻った頃、朝日新聞に紹介されていた『人間と国家 上・下』の感想をお送りしたところ、坂本先生からお手紙をいただきましたが、先生は、その中で、コミュニティとしての自治体の使命を強調されていました。
sakamoto

一度、坂本先生に、現代における国際社会と地域社会の関わり、その未来図についてお話をお伺いしたいと思っておりましたが、永遠に叶うことはなくなりました。