私は、公務員になって3年目に、旧自治省消防庁防災課に配属され、防災の仕事を担当しました。
ちょうど、 大規模地震対策特別措置法 が制定されたばかりでした。
この法律は、当時、発生の可能性が高いとされていた 東海地震 を想定して、観測体制を強化し、地震の前兆現象が察知された場合には、気象庁長官が地震予知情報を出し、これを受けて内閣総理大臣はただちに「警戒宣言」を発令して、電車の停止、道路の通行規制など必要な事前対応をとることを主な内容としていました。
私は、まだ駆け出しの役人でしたが、この法律には素朴な疑問を持ちました。
それは、本当に地震の予知ができるのか、ということでした。
何人かの先輩に疑問を投げかけましたが、
「専門家が出来ると言うのだから出来るんだろう」
という返事が大半でした。
確かにそうかもしれませんが、地震の予知ができなければ、いくらその後の対応について緻密な制度設計をしても、それらは絵に描いた餅になります。
その後、現実に起きた大地震災害は、東海地震ではなく、1995年の阪神・淡路大震災、そして、2011年の東日本大震災でした。当時から今日まで、この両地震の発生を予知できた専門家はいなかったと言えます。
政府は、国民に対して「次に起こる大規模地震は東海地震だ」というメッセージを与えることになったと思われますが、結果は異なったものでした。
火山噴火予知の困難性については、今回の御嶽山の噴火で改めて明らかになりました。
東海地震、そして、南海トラフを震源域とする大規模地震については、しっかりとした対策を講じる必要があります。その上で、地震や火山の噴火に関しては、なお未知の世界が広がっているという意識で対応していくことが必要ではないでしょうか。
地震の予知に対して、現段階で、過剰な期待を抱くべきではないと考えます。