久元 喜造ブログ

2019年2月1日
から 久元喜造

盛山正仁『所有者不明土地問題の解決に向けて』


盛山正仁 衆議院議員の新著が、大成出版社から刊行されました。
昨年制定された「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」を中心に解説されています。

所有者不明土地問題は、いま我が国社会が抱える諸問題の縮図ともいえる課題です。
東京一極集中、地方の疲弊、土地神話の崩壊、無縁社会の進行、家族関係の希薄化などさまざまな要因が複雑に絡み合い、膨大な所有者不明土地が発生してきました。
私は、空き家・空地問題に取り組む中で、改めて所有者不明土地が増殖している実態を再認識し、この問題の解決に取り組んできました。
この問題の解決を図るうえで、地方自治体の役割には大きいものがあります。
同時に、所有権や不動産登記など私権の根幹的制度に関わる問題であり、制度的な課題について指定都市市長会でも議論し、国に対して制度改正も提言してきました。

この問題に対して真摯に対応していただいたのが、盛山正仁衆議院議員でした。
盛山代議士は、法務副大臣在任当時、地方自治体の長に不在者財産管理人の選任申立権を付与する制度改正に理解を示してくださり、この改正は今回の特措法に盛り込まれています。

盛山代議士は、個別の制度改正にとどまらず、特措法の立案、法制化に多大な尽力をされました。
本書は、そのような盛山代議士のご尽力に裏打ちされた内容になっています。
所有者不明土地問題の背景から説き起こされ、特措法の制定の経緯と概要、今後の課題が詳述される内容となっています。
各分野の専門家との鼎談・対談も収録されていますが、私も地方自治体の立場から発言させていただきました。

関係法令、参考資料を含め、たいへん充実した内容となっています。


2019年1月31日
から 久元喜造

「神戸みらい学習室」の活動


この前の日曜日、西区の大学共同利用施設 UNITY で開催されている 神戸みらい学習室 にお邪魔しました。
経済的理由などで塾に通うことのできない中学生に、無料の学習支援を提供している団体です。
講師の多くは、神戸市外国語大学、兵庫県立大学、神戸大学などの大学生のみなさんです。
少し前のことになりますが、神戸市外国語大学で学生のみなさんと意見交換したとき、出席者の一人から神戸みらい学習室 のことを聞き、一度活動を拝見したいと思っていました。

会場では、子どもたちの勉強の邪魔にならないように、後ろからそっと学習指導の様子を見せていただきました。
中学生たちは長机に問題集やドリルを広げ、熱心に問題を読んだり、鉛筆を動かしたりしています。
講師のみなさんは、横に座って説明したり、担当している生徒の進捗状況を記録したりしています。

夕方、近くの居酒屋で、代表で神戸市職員の 佐々木宏昌さん をはじめ、社会人を含む講師のみなさんと意見交換を行いました。
みなさんから、生徒たちの様子やふだんの活動のこと、苦労話などを聴かせていただきました。
不登校になっていた中学生を教えたところ、少しずつ元気が出てきて登校するようになり、成績が上がったという話も聞きました。
生徒たちの学習意欲の向上が、講師のみなさんの喜びにつながっていることがよくわかりました。
神戸市にも支援制度はあるのですが、制約が多いので使っていない、という話を聞き、改善の必要性を感じました。

さまざまな課題を抱えた子どもたちへの学習支援は、神戸市としても力を入れている分野です。
この日お聞きしたことを踏まえながら、支援策を強化していきたいと思います。


2019年1月30日
から 久元喜造

小野秀明・神戸新聞論説副委員長の批判に答えます。


「神戸の鉄道網は不便?」
と題された「論 ひょうご」(2019年1月28日)は、新神戸からの地下鉄に「別料金」がかかるのは、おかしい、と説き始めます。
新大阪駅からJRの在来線に乗り換えれば、大阪駅までの追加料金がいらない。
これに比べ「不便」だと。
新幹線とJR在来線の鉄道事業者は、同じJRグループです。
話は全然違います。

小野氏は、運賃の問題から、急に相互乗り入れに話題を変え、東京、大阪で相互乗り入れが進んでいることを礼賛します。
小野氏はご存じないのでしょうか。
関西で相互乗り入れに先陣を切ったのは、神戸であったことを。
市外から乗り入れていた阪神電鉄・阪急電鉄・山陽電鉄・神戸電鉄の4電鉄のターミナル駅が隔たっていたことから、神戸市復興基本計画の一環として神戸高速鉄道の路線計画が位置づけられました。
そして、1968年(昭和43年)、相互直通運転が実現したのです。
先人の努力を一顧だにせず、東京・大阪に比べた神戸の後進性を強調するのは、地元紙・論説ナンバー2 の「論」としては、寂しい限りです。

もちろん、現状に安住していていいわけはありません。
既存インフラを活用し、運賃をいかに下げていくかは重要です。
とくに、三宮・谷上間を、神戸市交通局と北神急行㈱が区間を分かって運営しているために初乗り運賃が発生し、10分余りの所要時間にも関わらず、540円と高い運賃になっていることは問題です。
私は、この長年の懸案に対処するため、昨年暮れ、阪急電鉄㈱との間で、新神戸・谷上間の神戸市交通局への譲渡を目指し、交渉をスタートさせることで合意しました。

「神戸が遅れている」という結論ありきで、小野氏にとって都合の良い「事実」を寄せ集めた論説は、一定の拍手喝さいを浴びるでしょうが、事情を知った関係者は呆れ果てるだけです。
神戸市政が、このような論説に影響を受けることはありません。
過去の歴史に目をつぶり、現実を直視しない論説が、神戸の未来を指し示すことはないでしょう。
残念ですが。


2019年1月29日
から 久元喜造

デュオこうべに「ストリートピアノ」が登場。


少し前に、BSで放送されていた「駅ピアノ」について記しました。(2018年11月29日のブログ
このときは、すぐに神戸で実施するのはむずかしいのではないか、と感じていましたが、予想以上に早く実現しました。
動いてくれたのは、住宅都市局市街地整備課のみなさんです。

JR神戸駅近く、デュオこうべ  浜の手・デュオドームに、「ストリートピアノ」が設置されました。
だれでも自由に弾けるピアノです。

置かれている楽器は、本山幼稚園で使われ、震災後は本山第三小学校で保管されていたアップライトピアノ(MIKIピアノ)です。
1978年(昭和53年)から約40年間使われていましたが、保存状態は良好で、修理・調律が行われた後に設置されました。
神戸市がピアノを設置し、管理は㈱神戸地下街が行います。
㈶神戸文化振興財団の全面的な協力もいただいています。

設置期間は、1月26日(土)から2月11日(建国記念日)ですが、反応を見たうえで、3月中下旬に本格設置する予定です。
デュオこうべを、演奏したり、音楽を聞いたり、写真を撮ったりと、にぎわいが生まれる空間にできればと願っています。

1月27日(日)の午後、会場を訪れましたが、ショパンの美しい調べが響き、たくさんのみなさんが聞き入っていました。
子どもたちが興味津々、ピアノを覗き込んでいました。

年代を問わず、ピアノを触ったことがある方は、どんどん弾いてみてください。
そうやって、街の中のコミュニケーションが広がっていくことができれば、素晴らしいと思います。
設置に至るまで、たくさんのみなさんの参加や協力があったことと思います。
心より感謝申し上げます。


2019年1月28日
から 久元喜造

全国初、認知症「神戸モデル」スタート!


認知症「神戸モデル」
は、診断助成制度と事故救済制度を組み合わせて実施する、全国で初めての試みです。
きょう、1月28日 から、診断助成制度がスタートしました。
診断助成制度は、65歳以上の市民のみなさんを対象に、認知症診断を無料で実施する制度です。
認知症診断は、二つの段階で実施します。
第1段階は、認知症の疑いがあるかどうかを診る「認知機能検診」。
第2段階は、疑いがある方を対象に、認知症かどうかと、病名の診断を行う「認知機能精密検査」です。

認知症は、早期に発見することで、進行を遅らせ、病名(アルツハイマー型、血管性、レビー小体型など)を明確にして症状に応じた対応をすることが可能となります。
早期に受診することが大切です。

第1段階は、身近な地域の医療機関で受診していただけるよう、市内326の医療機関で実施します。
受診には受診券が必要です。
電話、インターネットなどで申し込んでいただき、後日、送付いたします。
申し込み方法
第2段階は、地域の専門医療機関で受診していただきます。
広報紙KOBE2月号の認知症の特集記事には、実施する全医療機関を掲載しています。

4月1日からは、以下の事故救済制度がスタートします。
①最高2億円の賠償責任保険に神戸市が加入
②事故の場合にコールセンターで24時間365日相談対応
③GPS安心かけつけサービス
④全市民を対象とした最高3,000万円の見舞金の支給

このように、認知症「神戸モデル」は、早期の診断を促し、万一の事故の場合にも備える仕組みを用意し、認知症の人やご家族を支援していきます。
お問い合わせは、神戸市総合コールセンター まで。


2019年1月26日
から 久元喜造

中村文則『教団X』

教団X」。
不気味なタイトルに惹かれて、書店で手に取りました。
文庫で600頁近い大著です。
そして、ずっしりと重いものをたっぷり含んだフィクションです。

物語の進行はかなり手が込んでいます。
ストーリー自体はさほど複雑ではないのですが、教団Xの教祖・沢渡、別の宗教団体の教祖・松尾、そして、これらに深く関わり合う4人の男女それぞれに凄絶な人生体験があり、それらが回想を交えて複雑に絡み合い、想像を超える展開を見せます。

教団Xは、反社会的な背徳的宗教集団です。
そのようなカルト集団はいつの時代にも存在してきたのですが、教団Xは、教祖、沢渡のすさまじい人生遍歴と密接に関わっていました。
アフリカやアジアの貧困、格差、これらに起因する暴力、テロなどが浮き彫りになり、現代が照射されます。
一方の松尾の団体は、開かれた雰囲気を持ち、松尾による「教祖の奇妙な話」が挟み込まれます。
仏教の摂理、デカルト、量子力学、人間心理などが巧みにつながり、大学の講義を聞くような雰囲気です。

教団Xは、平成の時代に実在したカルト集団と同じく、国家の転覆を狙い、権力への攻撃を開始します。
自衛隊、機動隊のみならず、陰謀を企む「公安」も登場し、緊迫感を孕んだ展開を見せます。
数多くの非条理がこれでもかというほど出現します。
ファンタジー的要素は皆無で、現代の暗部とグロテスクがあちこちでむき出しになります。
しかし非条理はなぜかそこに理由があるような形で出現し、この小説にある種の論理性と説得力を与えています。
目を覆いたくなるようなシーンにもしばしば救済の可能性が訪れます。

ラストシーンは、アフリカの大地。
一筋の光が未来を指し示します。


2019年1月23日
から 久元喜造

組織への「さん」づけに関する悶々・・・


神戸市役所にお世話になって6年余りが過ぎましたが、どうしても違和感を感じることのひとつが、「さん」付けです。
多くの職員のみなさんが、ほかの局や部に「さん」を付けるのです。
「〇〇局ですが、各局さん には、大変お世話になっています」
〇〇局さん には、・・・にご協力いただき、ありがとうございます」
といった風に。
私のところに説明に来る時にも、
「これは、〇〇局さん からこういう風にきいております」
といった説明が行われます。

私も、36年間、国や地方自治体で仕事をしてきましたが、ほかの組織に「さん」を付ける風習は、神戸市が初めてでした。
兵庫県庁の幹部の方に尋ねてみましたが、そのような風習はない、とのことでした。
民間企業でも、聞く限りそんなことはないようです。

正直申し上げ、説明できない違和感に悶々としてきました。
やめてください、とお願いする理由を理屈では説明できません。
言葉狩り をしているように受け止められ、反発を買う恐れもあります。
そんなわけで、庁内の会議でこのことを口にしたことはありません。

しかし、どうしても違和感を禁じ得ないのです。
さん」を付けるのは他人に対してですから、職員のみなさんは市役所のほかの組織を身内と思っていないのではないか、そうであれば、縦割り、割拠主義の現れか、とも思ってしまいます。
会議や説明のとき、組織に「さん」を付けられると、それが違和感となって耳の中に不協和音のようなものが響き、説明してくれている内容がおろそかになってしまうのです。

正直、この風習は、ほかの行政組織とはかけ離れたものであるように思います。
なんとか善処していただければ、ありがたく存じます。


2019年1月20日
から 久元喜造

福田直子『デジタル・ポピュリズム』


サブタイトルは、「操作される世論と民主主義」。
帯には、「捏造され 誘導され 分断される現代」。
ともに本書の内容が端的に表現されています。

「第1章 ビッグデータは監視し、予測し、差別する」は、想像どおりの表題ですが、アクシオム社、データロジックス社、エプシロン社といったデータブローカーが米国で急成長していること、そして今や、MBA(経営学修士)よりもデータサイエンティストが花形職業となり、引く手あまたとなっていることを初めて知りました。
米国のように政治資金規正が緩い国では、集金力のある陣営が彼らを駆使し、有利にネット選挙を展開できることが容易に想像できます。

そして第2章では、まさにそのような「心理分析」データを使った選挙戦術が生々しく報告されます。
すでに2012年の大統領選挙では、陣営に情報を送った有権者に「クッキー」が送られ、購読雑誌、所有している車、フェイスブックへの「いいね!」の傾向などの情報が分析されて、関心分野に沿ったメールが送られていたと言います。

2016年の大統領選挙では、さらにこれが進化します。
地理的、統計学的な情報を5000のデータポイントで分析して米国人を32種類のパーソナリティーに分け、それぞれの属性にふさわしいマイクロターゲット広告が用意されました。
しかもそれらは、激戦区の有権者に集中的に送られたのだそうです。

このほか、偽ニュースの作られ方、急速に進む「ネットバブル」現象、ボットによるツイッターへの書き込みと拡散、売買される「いいね!」ボタンなど、想像を超えるネット世界の現実に戦慄を覚えるばかりでした。
この現実に、どう対応すればよいのか・・・


2019年1月18日
から 久元喜造

「アーバンイノベーション神戸」始動!


昨日まで、神戸新聞で全6回のシリーズが掲載されました。
IT市役所 ミライ形」という見出しもつけられていました。
スタートアップ企業と市職員が一緒になって、地域や行政の課題を解決する取り組みです。

きっかけは、2015年6月、サンフランシスコに出張したとき、市の職員とスタートアップ企業のみなさんが議論をしている姿を見たことでした。
その生き生きとした、楽しそうな雰囲気にとても新鮮な感動を覚えました。
これを神戸で実現できないかと考えたのです。

長田区では、子育てイベントをスマホで見つけることができるアプリを導入しました。
すると、参加者が月当たり550人から800人へと、約1.5倍に増えました。
チラシでしか知ることができなかったイベントを、同じ悩みを持つお母さん、お父さんたちが知り、子育てに関するコニュニティが広がりつつあります。

20以上の窓口がある東灘区役所では、タブレットアプリを開発し、来庁者の窓口案内をデジタル化しました。
スムーズに案内することができるようになり、来庁者の案内時間は最大で約半分になります。

政府(Government)に技術(Technology)を積極的に取り入れようとする、GovTech(ガブテック)の動きが日本でも始まっています。
2月10日には、東京で他の自治体のみなさんとも議論するイベントを開催します。

地域や行政の課題への先端テクノロジーの活用は、市民サービスを向上させるとともに、スタートアップ企業のみなさんに活躍の機会を提供し、職員の発想を豊かにすることにもつながります。
これまでの成果を踏まえながら、今後さらにたくさんの業務に広げていきたいと思います。


2019年1月15日
から 久元喜造

「成人式」は20歳のままでよいのでは。


昨日、ノエビアスタジアム神戸 で、神戸の成人式、「神戸市成人お祝いの会」が開催されました。
神戸の成人式は、毎年、華やかな中にも厳粛な雰囲気で行われます。

民法の成人年齢が、2022年4月に20歳から18歳に引き下げられることから、今後の成人式をどうするのかが議論になっています。
私は、2022年以降においても、現行どおり、20歳になるみなさんを対象として、時期も1月のままで開催するのがよいのではないかと感じています。
昨日お会いした新成人の代表6人のみなさんも、全員が同じ意見でした。

すでに選挙権年齢は18歳に引き下げられ、これに民法の成人年齢の引き下げが続くことは、確かに大きな制度改正です
しかし、18歳のみなさんは、飲酒、喫煙が禁じられており、また少年法の対象年齢も20歳以下のままです。
つまり、全体として考えれば、成年に関する現行諸制度は、18歳、19歳のみなさんを完全な大人とはみなしていない、と言えます。

また、18歳という時期は、進学、就職の岐路に当たり、多くのみなさんが落ち着いた気持ちで成人式に臨むことができるのか疑問です。
大学進学を希望するみなさんは、受験シーズンに当たります。
2024年度からは大学受験の方法が抜本的に変わる予定となっており、大きな議論を呼んでいます。
2022年、2023年の頃は、受験生のみなさんに不安な心理が広がっていることも懸念されます。
このような中で、18歳のみなさんを対象として「成人式」を開催することは、現実的には無理があると思います。

まだ時間がありますから、議会をはじめ各方面の意見も聴きながら検討していきたいと思います。