久元 喜造ブログ

2021年9月20日
から 久元喜造

テレワーク一辺倒で良いのか。


コロナ感染を防ぐために、第1波のときからテレワークが推奨されています。
テレワークは、仕事をする場所の可能性を広げ、働き方改革にもつながります。
このような認識に立った上で、テレワークをできない方々がたくさんおられることにも留意が必要です。
コロナ禍の中で、感染者の治療、療養にあたっておられるのは、医師、看護師をはじめ医療従事者のみなさんです。
そして、宿泊療養、自宅療養をされている方々に対し、幅広い分野のみなさんがケアや見守りにあたっていただいています。
医療、福祉、教育、子育てなどさまざまな分野で、感染予防のために、そして感染が生じたときに備えた対応をしていただいています。
また、対面でなければ成り立たない仕事はたくさんあります。
これらの方々には、テレワークは無理です。

コロナ禍の中にあって、私たちの生活が何とか維持できているのは、テレワークになじまない分野で、数えきれないみなさんが使命を果たしていただいているおかげです。
たとえば、鉄道、バスなど公共交通分野の大部分の職場は、テレワークにはなじみません。
本当にテレワークが進み、公共交通の採算が極度に悪化し、ダイヤが削減されるようなことになれば、コロナに懸命に対応されている方々をはじめ、社会全体が大きな影響を受けることになります。
市役所の中を見ても、テレワークに馴染む職場はごくわずかで、保健所をはじめとしたコロナ対応に当たっている職場、地下鉄、バス、ごみ収集、小中学校、幼稚園、保育所など多くの職場では困難です。
私自身、テレワークはしていません。
自分にできていないことを、庁内に、そして市民のみなさんにお願いするのには躊躇を覚えます。


2021年9月12日
から 久元喜造

山内マリコ『選んだ孤独はよい孤独』


この本を読んだのは、「孤独」が国や自治体の政策テーマに挙げられ始めた頃でした。
神戸市も今年の4月、こども家庭局に担当局長を新設するとともに、福祉局・健康局・こども家庭局の3局で構成するプロジェクトチームを設置し、この問題に取り組んでいます。

しかし本書を読んだのは、仕事とはまったく関係がありません。
山内マリコ さんの本はいつも面白かったからです。
山内マリコさんの小説は、『ここは退屈 迎えに来て』(2014年7月4日ブログ)、『アズミ・ハルコは行方不明』(2015年11月16日ブログ)に続き、3冊目です。
前2作では、女性が主人公か、物語の中心にいました。
それから、ジャンルは少し違いますが、『東京23区』(2016年3月27日ブログ)も読みましたが、最も印象的だった登場人物は、葛飾北斎の娘、お栄でした。

今回は、雰囲気がガラッと変わっていて、主人公はすべて男です。
登場人物は年齢、職業、立場もさまざま。
帯には、「情けなくも愛すべき男たちの「孤独」でつながる物語」とありますが、主人公の男たちの心象風景は多彩で、こう一括りにはできません。
「女の子怖い」の主人公は、高校の男子生徒。
「よりによって高校3年の1学期に内山花音なんかに手を出してしまったのが、僕の人生にケチがついたはじまりだった」で始まる女の子との顛末は、恐ろしく刺激的でした。
彼はどうやって内山花音からの「生還を果たした」のか。
その後に続くモノローグには深い含蓄がありました。
ほかに「さよなら国立競技場」「ぼくは仕事ができない」そして、わずか3行で終わる「いつか言うためにとってある言葉」など19の短編が収められています。


2021年9月5日
から 久元喜造

老朽化した市の施設・看板は撤去します。


神戸は、古くから発展してきた都市です。
新しい街をつくり、建物を建て、それらを示す看板をつくり続けてきた時代がありました。
苦労が大きかったと思いますが、ワクワクする仕事だったと思います。
右肩上がりの時代、民間も行政も、次々に舞い込む仕事でてんてこ舞いだったことでしょう。
高度成長から震災の前まで、神戸市役所の福利厚生も充実していたようです。
有馬、六甲山、芦屋、須磨、ポートアイランド、・・・あちこちに福利厚生施設があったそうです。
市外にもありました。岡山県美作市にある湯郷という温泉地です。

時が流れ、震災が神戸を襲い、財政再建が求められた時代にこれらの施設のほとんどが廃止されました。
湯郷の神戸市の保養所は、どうなったのか。
老朽化が進み、今でも放置されていると聞きました。
恥ずかしいことです。
もしも仮に、有馬の温泉街の中にほかの自治体の福利厚生施設が長年放置されていたとしたら、神戸市民はどう思うでしょうか。
少し前の市長・副市長会議で、有効活用、解体・撤去も含め、早期に対応することとしました。

老朽した施設、看板、表示板、標識などが放置されるのは恥ずかしいことです。
私も市内を移動するとき、問題のある光景が自分の目に入るたびにスマホで撮影し、担当課に送っています。
神戸は美しい街だと言われますが、本当に美しい街にするためには、市民のみなさんとともに行政が汗を流していくことが不可欠です。
近年は職員のみなさんも改善に取り組んでくれています。
上記の標識も、見違えるようになりました。

それでも、まだまだ改善が必要な箇所が多いことも事実です。
求められるのは、美辞麗句を並べた作文ではなく、行動です。


2021年8月27日
から 久元喜造

妊婦さんへのワクチン接種


ワクチンの接種によって新型コロナウイルス感染症の発症が抑えられることは、研究結果から明らかになっています。
とくに妊婦さんには、必要な情報に接していただいた上で、接種を考えていただきたいと思います。

厚生労働省によれば、妊娠中、授乳中、妊娠を計画中の方でも、mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンを接種することに問題はないとされています。
また、産婦人科の関係学会は、海外における多くの妊婦へのmRNAワクチンの接種実績から、ワクチンは、妊娠初期から妊婦と胎児の双方を守る効果があり、重篤な合併症が発生したとの報告はないとしています。
また、妊娠中のいつの時期でも接種は可能です。

妊娠中に新型コロナウイルスに感染すると、特に妊娠後期は、重症化しやすいとされています。
授乳中の方については、mRNAワクチンの成分そのものは乳腺の組織や母乳に出てこないと考えられています。
また、授乳中にmRNAワクチンを受けた方の母乳中に新型コロナウイルスに対する抗体が確認されています。
こうした抗体が、授乳中の子供を感染から守る効果があることが期待されています。

千葉県柏市では、感染して自宅で療養していた妊婦が入院先が見つからずに自宅で出産し、赤ちゃんが亡くなったことが各方面に衝撃を与えました。
このようなことが起きないようにしていかなければなりません。
このため神戸市では、集団接種会場において妊娠中の方とその夫・パートナーの方のために、「妊婦さん優先枠」を新設し、優先的に接種の予約を受け付けることしました。
ワクチンに関する正確な情報に接し、理解していただいた上で、進んでワクチン接種をしていただければと願っています。

 


2021年8月15日
から 久元喜造

道尾秀介『風神の手』


四編から成る連作小説です。
ある種の嘘や偶然の出来事が次の世代に引き継がれ、思いもかけぬ展開を遂げていきます。
物語はミステリー風に展開していきますが、全体を通して読むと、何十年にもわたる大河小説のように感じられました。

物語の舞台は西取川という川の畔にある地方都市。
西取川は、川漁師が舟の上で松明を揺らし、鮎を網に追い込む火振り漁で知られています。
町は川によって「上上町(かみあげちょう)」と「下上町(しもあげちょう)」に分かれています。
第1編「心中花」は、下上町に住む親子が上上町にある遺影専門の写真館「鏡影館」を訪ねるシーンから始まります。
この編の語り手は、15歳の藤下歩実。
母親の奈津美の余命は、あと5年足らずです。
二人は奈津美が亡くなった後に祭壇や仏壇に飾る写真を撮ってもらうために鏡影館に向かっているのです。
待合室の木の棚には、この写真館で撮影された遺影が並んでいました。
奈津美はそこで「サキムラ」の写真をみつけます。

物語は、27年前の西取川、火振り漁の夜の回想シーンに移ります。
当時高校生だった奈津美は、この夜、ローカルテレビの取材を受け、そのシーンの放映が契機となって、火振り漁の漁師の息子、崎村と出会うことになります。

ここからの展開は、さまざまな糸が複雑に絡み合い、スリリングな展開を見せます。
ことの発端は護岸工事をめぐる事故でした。
事故の隠ぺいをめぐり犯罪めいたシーンも登場しますが、それらを演じる人物を含め、悪意を持った人物は登場しません。
河口に現れるウミホタルも重要な役割を果たします
川の畔の美しい風景が四季の移ろいの中で描かれます。
さわやかでしみじみとした読後感が残りました。


2021年8月7日
から 久元喜造

道具・手段・目的の関係性について


昨日、職員研修所で係長のみなさんにお話をしました。
20分話し、質問が10分だったので、話題はひとつだけに絞りました。
道具、あるいはツールについてです。

道具を使うのは、ふつう担当のみなさんです。
どんな仕事であっても、良い道具が必要です。
道具の究極の姿を見るには、 竹中大工道具館 が最高だと思うのですが、残念ながら行ったことがあるのは一人だけでした。

道具は、組織の上位にいる人間にとっては、遠い存在です。
組織の上位にいる者にとり、所与の目的を達成するためにできる限り効率的な手段を求め、その手段のために使われる道具には手段との関係で最大限の効用を発揮するものを求めます。
目的 → 手段 → 道具 という上から目線の発想です。
ところが、道具はいったんつくられると、手段達成のための存在であることを超え、独立性を獲得します。
違う手段のためにも効用を発揮することができる存在になります。

道具を手にして仕事をしているのは担当職員です。
担当職員の身近にいて、その道具がどのように使われ、手段として十分な効用を発揮しているのか、あるいはほかの分野への活用に関する潜在可能性があるのかを最も知る立場にあるのは、係長のみなさんです。
道具 → 手段 → 目的 という逆ベクトルの発想が可能になります。
そこでは、道具の使われ方から見た手段の有効性、さらには自明のこととされてきた目的の妥当性への疑問の提起につながる可能性があるのではないか。
当日私が使った例が突飛だったので、わかりにくかったのかもしれませんが、係長のみなさんには、このような視点も織り交ぜながら、現場目線で仕事にあたっていただきたいと感じています。


2021年7月10日
から 久元喜造

齊藤広子+浅見泰司編著『タワーマンションは大丈夫か?!』


経済学、都市工学、都市景観など学界のほか、弁護士、不動産鑑定の実務家など15名の専門家による共著です。
最後に座談会が掲載されており、登場される先生方の中の戎正晴先生、齊藤広子先生は、神戸市の「タワーマンションのあり方に関する研究会」に参画していただきました。

タワーマンションについて、さまざまな観点から考察が行われます。
コンパクトシティ実現に寄与するのか、廃墟化の可能性、供給過剰なのか、投資の観点、居住性、コミュニティ形成の観点、子育ち・子育てなど暮らしやすさ、エレベータが止まったときの対応、管理不全の可能性、修繕積立金など管理面の課題、建て替えの可能性などです。
頭からタワーマンションを否定するのではなく、管理組合の運営方法、管理組合以外の管理方式など具体的な提案がなされており、タワーマンションを含むマンションの管理の在り方について参考になります。

同時に、持続可能性についてさまざまな問題があることが改めて浮き彫りになります。
50年、100年後に廃墟化する可能性は否定できず、その大きな理由は維持管理のハードルが高いことです。
高層マンションでは大規模修繕工事にかかる費用が割高になることが説明されます。
修繕積立金が適切に積み立てられず、修繕やリニューアルが適切に行われなければ、住宅としての性能が損なわれ、資産価値が劣化します。
逆に維持管理コスト高から修繕積立金が引き上げられていけば、同様の築年の中高層マンションより中古市場で劣勢になると指摘されます。
購入後10~15年で売り抜けるべきだという指摘もなされており、このことは持続可能性への疑問を端的に示しているように感じました。


2021年6月19日
から 久元喜造

札幌でのクマ被害に衝撃を受けました。

札幌市の市街地にヒグマが現れ、4人が重軽傷を負いました。
学校は休校になり、近くの丘珠空港を発着する便に欠航が出たとも報じられています。
かつて札幌市でお世話になった者として、大きな衝撃を受けました。
驚くのは、ヒグマが生息する南区などの山林から遠く離れた市街地に現れ、市民生活に大きな影響を与えたことです。
ヒグマの行動に大きな変化が出てきていることは確実です。

私は、市長就任前から、有害鳥獣対策に大きな関心を持ってきました。(例えば、2013年8月2日 のブログ)
そして、市長になってからは、この分野に力を入れ、対策を強化してきました。
基本にある問題意識は、人と自然との関係が大きく変化してきたのではないか、そうであれば、よほどの覚悟で臨まなければならないのではないかということです。

クマがなぜ今まで出没しなかった地域にまで現れるようになったのか。
北海道と本州ではクマの種類や地理的特性が違いますから一概には言えませんが、山村や中山間地域で集落が消滅し、果樹などが放置されていることが挙げられます。
兵庫県でもツキノワグマの被害が広がっています。(2020年11月12日 のブログ)
シカ、サルの生息域が拡大し、神戸市内でもシカの繁殖が見られ、神戸市では監視・捕獲体制を強化しています。
その背景には、農山村地域における過疎化、地域の荒廃が進み、その影響が広域に及ぶようになっていることが考えられます。

野生動物の行動は、ときに人間の想像を超えます。
神戸市の北部地域に突如ツキノワグマが現れることも想定しなければならないかもしれません。
そのときにパニックが起こらないよう、専門的知見も得ながら対応を進めます。


2021年6月6日
から 久元喜造

カナダが向き合う過去について

子どものときの出来事とか、学んだこととかは、意外とよく覚えているものです。
読んだ本の中で、印象の残った一節の中には、ずっと記憶に残っているものがあります。

そのような中に、カナダについて書かれたことがありました。
多分、小学校4年生のときに読んだ本でした。
その本の中に、カナダについてこう書かれていたのです。
「まだ、人やものを入れる場所があるような国です」と。
小学生の私には、意味がわからなかったのです。
いったいこのことは何を意味するのだろうと。
このことは、ずっと大人になってからも疑問に思っていました。

最近、カナダで寄宿学校跡地から未成年215人の遺体が発見されたという報道が世界を駆け巡っています。
カナダでは19世紀から20世紀にかけて、キリスト教会が寄宿学校を運営し、先住民の子どもたちを両親など家族から隔離して収容し、同化政策を行っていたと報じられています。

子どものときに読んだ本と、今回の報道との関係については何の確証もありませんが、もしかしたら、私が読んだ児童書の著者は、もごすごく曖昧な表現で、カナダで行われてたいた先住民隔離政策について触れたのかもしれないと感じました。
ただ、「人やものをいれる場所」の意味は不明です。
「人」はともかく「もの」とは何だったのか。

私は、最近の報道に接し、60年近く抱いていた疑問が少し解けたかもしれないと感じ、言い知れぬ感慨を覚えました。
まったく的外れかもしれないし、何の根拠もないのですが、何か胸のつかえがおりたように感じたのです。
カナダの人々が、過去に起きた出来事とこれからどのように向き合おうとするのか、注目していきたいと思います。


2021年5月17日
から 久元喜造

ワクチン大規模接種会場の設置


コロナ禍を最終的に収束させるために期待されているのが、ワクチン接種です。
スピード感をもって進める必要があります。
国は、東京と大阪に大規模な接種会場を設置することとし、きょうからネットでの受付も始まりました。
この会場で接種を受けられるのは、関西では当面、大阪市民だけです。
国を挙げての取り組みですから、大阪での接種はどんどん進んでいくことでしょう。
ほかの大都市との格差は広がります。
そこで指定都市市長会は、ほかの大都市でも国による大規模接種会場を設置していただくよう国にお願いしてきましたが、難しいとの返答でした。

国の大規模接を担うのは、自衛隊のみなさんです。
国を守るという本来の任務に加えて、ワクチン接種という新しい任務を担われることになり、ご苦労は大きいことでしょう。
人員に限界がある以上、東京、大阪以外での対応が無理であることは理解できます。
同時に、大阪近辺の自治体が手をこまねいているわけにはいきません。
そこで神戸市は、大阪の規模には及ばないものの、独自の接種会場を開設することにしました。
歯科医師会の全面的なご協力いただき、ハーバーランドで、大阪での接種開始の翌日、5月25日に接種をスタートすることにしました。
当面は、1日、1000人程度からスタートし、最大、2000人規模の接種体制を構築します。
すでに神戸市では、市内12か所の集団接種会場、約800か所の個別接種会場を用意しており、ハーバーランドでの大規模接種会場の開設により、大幅に接種体制は強化されます。
7月中のシニア世代の接種完了が視野に入りました。
大阪に遅れることがないよう、火の玉となってワクチン接種を進めます。