久元 喜造ブログ

2022年2月27日
から 久元喜造

フレヴニューク『スターリン』


著者のオレーク・V・フレヴニュークは、1959年生まれ、モスクワ大学歴史学部教授です。
ロシア連邦国立文書館に長く勤務し、膨大な文書、資料からスターリンの実像に迫ります。
原注、索引を入れると600頁近い大著。大きな衝撃を伴って読み終えました。

神学生のときの振舞など独裁者の生い立ち、革命家としての活動なども興味深いものでしたが、スターリンがその本性を現し始めるのは、革命とその後の内戦からです。
内戦によって第1次世界大戦と2月革命を超える命が奪われ、人為的に引き起こされた飢饉は500万人もの人命を奪いました。
野蛮な殺害や大規模なテロ行為がありふれた出来事になり、スターリンはこの時代の「典型的産物」でした。
レーニンの死後、政敵を排除して権力を掌握したスターリンは、急進的な工業化と農村の集団化を推し進めます。
スターリンが進めた「躍進政策」によって農村では地獄絵図が現出しました。
農民は蜂起し、戦乱の様相を呈します。特に抵抗が激しかったのがウクライナでした。
多くの農民が銃殺され、強制収容所に送られ、故郷から辺境の地に追いやられたのでした。
そして、大テロルと戦争がこれに続きます。
「第4章 テロルと差し迫る戦争」「第5章 戦時下のスターリン」は本書の中心をなし、筆致は淡々としていますが、そこで描かれるのはまさに地獄です。
独ソ戦開始時の致命的な判断ミスなどスターリンの戦争指導や連合国首脳との駆け引きも興味深いものでした。
戦後もスターリンによる粛清は続きます。
数多くの医師が無実の罪を着せられて逮捕、殺害され、それは1953年3月のスターリンの死によってようやく終止符が打たれたのでした。


2022年2月14日
から 久元喜造

水素エネルギー利活用が新段階に。


2月4日の日経新聞に、「神戸ポーアイ、水素供給」という見出しで、神戸における水素産業育成の取り組みが紹介されていました。
取り上げられているのは、ポートアイランドに整備が予定されている大規模な水素ステーションです。
神戸市が約1万平方メートルの用地を整備し、水素ステーションを運営する事業者を公募します。
水素エネルギーで走る自家用車やバス、トラックのほか船舶への供給を視野に入れた大規模な施設です。

神戸では、水素サプライチェーンを構築するプロジェクトが着々と進んでいます。
オーストラリアに賦存する褐炭から水素を製造し、日本に輸送する壮大なプロジェクトです。
日豪間の実験がすでに始まっています。
川崎重工業が建造した世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」が昨年12月24日に神戸港を出港しました。
オーストラリアでの実験を完了した後、この春にも神戸港に戻ってくる予定です。
神戸市は、神戸空港の近くに液体水素を荷揚げするための岸壁と施設を整備するなどこのプロジェクトに参画しています。

思い出すのは、市長就任間もない2014年3月、総理大臣官邸で開催された「経協インフラ会議」です。
都市インフラ輸出に関する閣僚会議でした。
このとき「水素エネルギーを活用したスマートコミュニティ構想」として、オーストラリアの褐炭に由来するCO2フリー水素を利用した事業展開を説明しました。
あれから8年近くが経ち、このプロジェクトが関係者各位のご尽力で確実に実現していることをありがたく感じています。
川崎重工業など日本企業の優れた技術がグローバルな規模で活用され、脱炭素化の取り組みにつながっていくことを期待しています。


2022年2月5日
から 久元喜造

むし歯予防の取り組みと成果


歯と口の健康は、豊かな人生を送るために欠かせません。
歳を重ねても元気でいるためには、乳幼児から高齢者までライフステージに応じて、歯と口のケアを継続することが重要です。

上の図は3歳児健診における長田区のむし歯有病率の推移です。
2009年(平成21年)には4人に1人の子どもがむし歯にかかっていましたが、2020年(令和2年)には8人に1人の割合となり、約10年の間に大きく改善しました。
この背景には、「ハッピーむし歯予防事業」という長田区独自の取り組みがありました。
2011年(平成23年)に始まったこの事業は、区歯科医師会、神戸常盤大学、兵庫県立総合衛生学院、兵庫歯科衛生士学院と長田区がコラボして実施してきた取り組みです。
例えば、区と歯科医師会が協力して作成したリーフレットを母子健康手帳を交付するときや乳幼児健診(4か月、1歳6か月、3歳)の際に配布したり、歯ブラシを乳幼児健診時に配布したりしてきました。
神戸常盤大学、総合衛生学院、兵庫歯科衛生士学院のみなさんには、小学校・幼稚園・保育所・児童館に歯磨きの指導を行っていただき、子どもたちが効果的な歯磨きの方法を学んでいます。
こうした継続的な取り組みが目に見える成果となって現れたと考えられます。

このような取り組みを広げていくことが求められます。
妊婦の方が妊娠期間中に1回無料で歯科検査を受診できるようにしたのもその一例です。
健康な歯は一生の宝です。
特に乳幼児期のこどもの歯を守ることは、噛む・話すなどの口の機能を育てる上でとても大切です。
このような取り組みを幅広く展開し、子どもたちのむし歯予防につなげていければと考えています。


2022年1月23日
から 久元喜造

ローリー・サザーランド『欲望の錬金術』


昨年読みましたが、ようやく感想を記すことができました。
著者は、世界的な広告会社オグルヴィUKの副会長。
コミュニケーション業界の専門機関である英国広告代理店協会の会長も務めました。
人の欲望や行動をかきたてるものは何なのか。
心理学や行動学、最新の科学の知見をもとに、豊富な事例を交えて語られます。
著者は本書の冒頭で、読者にこう呼びかけます。
「私はこれからみなさんに、人生には魔法の余地があるべきだということを思い出させたい―心に中にいる錬金術師を発見するにはまだ手遅れではないのだ」と。
著者がいう錬金術(Alchemy)とは、「経済学者が何を間違っていたのかを知る科学」だといいます。
そこでは合理性のロジックではなく、「心理ロジック」が重視されます。
「心理ロジック」は、「無意識のうちに働くことが多く、自分が認識しているよりもはるかに強力で広範囲にわたるもの」です。
人間の行動を決定づけるのは「錬金術という魔法」だと著者は強調します。

膨大な事例が次々に繰り出されます。
例えばかつてウォークマンの開発期、エンジニアは録音機能を付けようとしたそうですが、盛田昭夫はこれを禁じたそうです。
ロジックで言えば、ごく僅かなコストで機能が増えることは合理的ですが、あえて機能の幅を狭めることによってこの装置が何を目指しているかを明確にしたのです。
著者はこの発想を「一般的な経済ロジックには逆らっているが、心理ロジックには従っている」と考えます。

豊富な成功事例は人間心理を考える上でとても参考になりました。
同時に、さわやかな読後感を持つことができたかと言えば、そうではなかったことも事実です。
(文中敬称略)


2021年11月23日
から 久元喜造

鈴蘭台西口の次は西鈴蘭台


朝日新聞連載、原武史さんが執筆されている「歴史のダイヤグラム」はよく読みます。
3か月ほど前に掲載されていた記事のタイトルは「「西口」とつく駅名の東西」。

原さんは、1999年10月、神戸電鉄粟生線に初めて乗られたそうです。
粟生線の起点は鈴蘭台。
次の駅が 鈴蘭台西口 、その次の駅が 西鈴蘭台 です。
原さんによれば、関西には本家の駅名のあとに「西口」「南口」「北口」がつく駅が私鉄にいくつか見られますが、「西口」と「西」が連続する線はほかにはないのだそうです。
鈴蘭台西口駅が小部西口駅から改称されたのが1962年(昭和37年)だったことも、この記事で知りました。
私たち一家が鈴蘭台に移り住んだのは1964年(昭和39年)で、この駅名改称の直後だったようです。
当時の鈴蘭台西口駅の周りは瀟洒な家が並ぶ静かな住宅街で、小部小学校の同級生も何人か住んでいました。
住宅街の南側には中山田圃と呼ばれる広大な農地が広がり、その周囲は里山でした。
大小の池が点在し、ひょうたん池という名前の池もありました。
拙著『ひょうたん池物語』に登場する池とはかなり趣を異にする、大きな池でした。
まもなく住宅開発が始まり、次々に団地や一戸建ての住宅が建設されていきました。
1970年6月、西鈴蘭台駅が開業。
朝日新聞には開業当時の西鈴蘭台駅の写真も掲載されていました。

すでに開業から半世紀余りが経ち、施設の老朽化も進みました。
周辺地域の人口減少も目立っています。
商業施設、駐輪場などの公共施設を含めた再整備が求められます。
神戸電鉄のみなさんとも協議を進めながら、早期に具体的な再整備計画を作成していきたいと考えています。


2021年11月14日
から 久元喜造

ハンセン『スマホ脳』


スマホが出現してから、私たちの生活は一変し、人間の行動形態や思考方法に大きな影響を与えています。
著者は、このスマホが人間には必ずしも適合しないと主張します。
なぜなら人間の身体や脳は、気が遠くなるほどの年月をかけて進化してきたのであり、スマホにはついていけないのだと。
現代の人間の脳が狩猟採集時代とさほど変わっていないという著者の主張は、確かにそうかもしれませんが、科学的な論証に耐えられるのか、議論が必要かもしれません。

自分自身の経験を踏まえて、本書の主張がそのとおりだと感じるのは、スマホが人間の集中力を奪う ということです。
短時間だけ残る記憶ではなく、自分の中に、数か月、数年、あるいは一生残るような長期記憶ができることは、人間という存在にとってとても大事です。
著者によれば、記憶するためには集中が必要で、「次の段階で、情報を作業記憶に入れる。そこで初めて固定化によって長期記憶ができる」と言います。
ところが「インスタグラムやチャット、ツイート、メール、ニュース速報、フェイスブックを次々にチェックし、間断なく脳に印象を与え続けると、情報が記憶に変わるこのプロセスを妨げる」。
このことが、いくつかの実験を使って例証されます。

どうすれば良いのか。
「バカになっていく子供たち」という刺激的な章の後の章では「すべての知的能力が、運動によって機能を向上させる」と説かれます。
「多くの人がストレスを受け、集中できず、デジタルな情報の洪水に溺れそうになっている今、運動はスマートな対抗策だ」と。
そのとおりだと思います。
巻末の「デジタル時代のアドバイス」には、実行可能なメニューが記されています。

 


2021年11月6日
から 久元喜造

引き続き、市長の重責を担うことになりました。


10月31日(日)に執行された神戸市長選挙で、三度目の当選をさせていただきました。
ご支援をいただきましたみなさまに、心より感謝申し上げます。
今回の選挙は、コロナ対策など現職市長として公務を行いながらの対応となりました。
時間的な制約はありましたが、市内各地を回り、これまでの市政の成果や課題、これからやっていかなければならない政策を率直にお話ししました。
駅前で、街頭で、道端で、市民のみなさんからは、さまざまなご意見を聞かせていただきました。
市役所のルートではなかなか聞くことができなかったご意見、いままで知らなかった現実も知ることができました。
あっという間の14日間の選挙戦でした。

10月31日、選挙当日の午後8時過ぎ、当選確実のお知らせをいただきました。
お越しいただいたみなさんと喜びを分かち合いました。
確定投票は、次のとおりでした。

久元喜造 439,749
鴇田香織  69,648
中川暢三  59,857
岡崎史典  59,722
酒谷敏生  20,269

前回、4年目の市長選挙では、過去最高の、340,064 票をいただきましたが、今回は、これを10万票近く上回る得票をいただきました。
圧倒的多数の市民のみなさんにご支持いただきましたことを、たいへんありがたく、また光栄に存じております。
市民のみなさんの力で多くのことが形となって現れてきましたが、まだまだやらなければならないことはたくさんあります。
コロナを乗り越え、未来へ!
力を合わせて目の前にある危機を克服し、コロナ後の世界を見すえながら、見違えるような神戸を市民のみなさんと一緒に創り上げていくことができるよう、最善を尽くします。


2021年10月17日
から 久元喜造

神戸市長選挙が始まりました。


きょう10月17日、神戸市長選挙が告示されました。
投票日は、衆議院総選挙と同日の10月31日です。
9時に、事務所の前で出陣式。
朝から雨模様でしたが、出陣式の頃から雨が止み、青空が広がりました。
10時半から、大丸前で最初の街頭演説を行い、たくさんのみなさんが耳を傾けてくださいました。
私からは、この1年半あまりにわたるコロナとの戦いを振り返り、医療従事者をはじめそれぞれの持ち場で懸命に貢献していただいたみなさまに感謝を申し上げました。
神戸市も、重症者専用臨時病棟の整備、変異株のゲノム解析と全国に向けての発信など独自の対応を行ってきました。
ワクチン接種も、途中経過はありましたが、オール神戸の態勢、産学連携の下にかなり速いペースで進め、2回目接種完了の目途をつけることがてきました。

感染は次第に収まってきています。
緊張感を持ちながら、日常生活の回復、経済活動との両立に取り組んでいきます。
ポストコロナの社会はどのような姿になるのか。
想像力を逞しくして地域社会のありようを思い描きながら、神戸の街づくりを進めていくことが大事です。
震災以後遅れていた神戸の街の再生が始まっています。
三宮をはじめとする都心・ウォーターフロントの再生の姿が現れつつあります。
郊外をはじめ駅前の再整備も急ピッチで進められています。
ポストコロナを見すえれば、六甲山、里山をはじめ自然環境の中で多様な働き方ができる神戸の街のありようは、新たな価値を獲得することができるでしょう。
コロナという目の前の危機と闘いながら、ポストコロナを見すえながら、神戸らしい街づくりをスピード感を持って進めていきたいとう決意を申し上げました。


2021年10月2日
から 久元喜造

月間「大阪人」


総務省にいたとき、大阪市の東京事務所の方が毎号を届けてくださいました。
この雑誌は、大阪市の外郭団体が発行していましたが、2011年度に廃刊となったようです。
いただいた「大阪人」の何十冊かは自宅に持ち帰り、神戸に持ってきて今でも書棚に置いています。
全国紙の神戸支社から大阪本社に異動される記者の方に差し上げたものもありますが、まだかなり残っています。

昨晩、夜遅く、久しぶりに何冊かの「大阪人」を開きました。
もちろん紹介されている情報はかなり前のもので、今では消えてしまったお店もかなりあることでしょう。
それでも、鮮やかな写真や味わい深い文章から、大阪の街の香りが立ち上ってくるようでした。

コロナ禍の前のことでしたが、「阪神なんば線」の特集号を手にして、阪神電車の西九条で降り、あてどなく散策したことがありました。
街の佇まいは新旧入り混じった雰囲気で、銭湯があったり、古いお店があったりして、子供の頃の兵庫区の光景が蘇ってくるようでした。
震災の被害をほとんど受けなかった大阪の街には、神戸よりも昭和レトロが残っているように感じました。
「大阪人」に紹介されていたお店には入らず、駅からだいぶ離れた辺りで、風情のある佇まいの居酒屋を見つけ、入りました。
店主は一見の客にも親切で、カウンターで雑談しながら独酌しました。
何か月かして二度目にこの店に行ったとき、隣の方と意気投合し、その方の行きつけのスナックに連れて行ってもらいました。
親切なママさんが一人でやっておられるお店で、優しい時間が流れていました。
コロナ禍も長くなり、何回か訪れた西九条の街の風景も、ずいぶん遠くなったように感じられます。


2021年9月23日
から 久元喜造

澤章『ハダカの東京都庁』

帯には「元幹部が”女帝”のタブーを明かす」とありますが、内容の大部分は、東京都庁の実態です。
著者は、都庁の人事課長、知事本局計画調整部長、選挙管理委員会事務局長などを歴任した人物。
豊洲の中央卸売市場移転問題のさ中には、市場次長の要職にありました。
いわば都庁の本流を歩んで来た幹部だけに、書かれている内容にはリアリティがあります。
人事、昇進、マスコミ対応、議会対応、職員気質などが具体的に語られていきます。
都庁は言うまでもなく巨大官僚組織。
あの周囲を睥睨する庁舎が象徴するように、周りとは隔絶された世界のようです。
そこでは、外の世界では考えられないような風習や慣行が跋扈します。
規模は違いますが、神戸市役所にも見られてきたような特異な世界がこれでもかと展開されます。
いわば「究極の役所グロテスク」、あるいは自治体にとってのディストピアとでも表現すれば良いのでしょうか。
こういう風になってはいけないという見本が鮮やかに提示されますが、流石に優秀な人材が集まっているだけあって、参考になる部分もたくさんあります。

「なぞ多き都庁の深部へ」の章では、知事執務室の様子が描写されます。
外から見るとバルコニーの奥に位置する知事執務室。
執務室のある7階だけは、天井が他の階の2倍ほど高くなっているそうです。
テーブルや座席の配置、知事説明における幹部の行動などが具体的に説明されます。
小池知事の振る舞いにも言及されますが、興味のある方は本書をお読みください。
鈴木俊一知事から小池百合子知事までの「歴代知事」評も興味深かったです。
著者は石原慎太郎知事のコピーライターもされたようで、文章はわかりやすく、簡潔です。