著者の楠木新さんは、これまでも『定年後』(2018年4月18日のブログ)などの著書を著され、定年後の人生の過ごし方について数多くの提言をされてきました。
今回の著書は「中高年以降に居場所を確保するにはどうすればよいのか」がテーマです。
細かなデータに基づく分析が提示されるわけではありませんし、決め手になるような処方箋が示されるわけでもありません。
さまざまな話題が登場し、その話題の登場舞台も全国各地に及びます。
そのような中にあって、繰り返し語られるのが、著者が生まれ育った神戸のことです。
著者は、1954年、神戸市兵庫区の新開地界隈で生まれ、この地で成長されました。
ペンネームの「楠木」は、卒業された楠木中学から、「新」は、新開地の「新」だそうです。
ご実家の薬局は、新開地本通りから三本ほど東の通りで、「当時は酒屋や鮨屋、喫茶店、八百屋、貸本屋などの小さい商店が立ち並んだ場所で、周囲には商売人、職人アウトローの人たち多くてサラリーマンや公務員はいなかった」と振り返られます。
私も同じ年に、すぐ近くで生まれ、小学校5年まで過ごしましたので、著者が語る想い出は興味深いものでした。
こうして著者は、生まれ育った兵庫区の街を歩き、人の話に耳を傾けます。
「奇跡の画家」石井一男さんとの出会いもこうして生まれました。
このように振り返りながら、「生まれ育った土地は定年後の居場所として十分ありうる」との思いを吐露されます。
居場所とは、単に時間を過ごすことができる空間的な場所ではなく、過去の自分のシーンを参照しながら、今の自分と重ね合わせることができる場所なのかもしれないと、本書を読んで感じました。