久元 喜造ブログ

伊藤亜聖『デジタル化する新興国』


新興国で急速に進むデジタル化。
「この地殻変動から目をそらすな!」という本書の警告は的を射ており、我が国におけるデジタル化の遅れを改めて痛感する、ほろ苦い読後感が残りました。

本書では、OECDに加盟する38か国以外の国をすべて「新興国」として考察の対象とします。
最初に紹介されるのは、インドの「コネクティド・3輪バイク」、中国の遠隔医療、南アフリカの女性エンジニアです。
2010年代以降「デジタル化の時代」が本格的に到来したという認識に立ち、本論の前半では、新興国がデジタルの力を活用して課題を解決し、新たなサービスを育てている現状と今後の可能性について言及されます。
まず急速に進んでいるのが、プラットフォーム企業の登場によるリスク管理と信用の創出です。
中国やインドのみらず、アフリカでもケニアのM-PESAを筆頭に、銀行口座を持たないが携帯電話を持つ人々が、通信会社の口座内にお金を預ける形でモバイル・マネーが広がっています。
プラットフォームが介在することで、個人レベルで海外に仕事を発注することができるようになり、とりわけ南アジアではフリーランス経済が急速に広がっています。
ベンチャー企業による「下から」の課題解決も進んでいます。
エチオピアの医療産業向けサービス企業、南アフリカで精密農業とスマート漁業を進めるベンチャー企業など社会の課題解決に積極的な役割を果たしている事例が紹介されます。

デジタル化に伴うリスクについても詳しく触れられ、著者はこの点も踏まえながら、今後我が国は、新興国のデジタル社会にアンテナを張り、関わっていくべきだと提言します。
全くそのとおりだと感じました。