著者のオレーク・V・フレヴニュークは、1959年生まれ、モスクワ大学歴史学部教授です。
ロシア連邦国立文書館に長く勤務し、膨大な文書、資料からスターリンの実像に迫ります。
原注、索引を入れると600頁近い大著。大きな衝撃を伴って読み終えました。
神学生のときの振舞など独裁者の生い立ち、革命家としての活動なども興味深いものでしたが、スターリンがその本性を現し始めるのは、革命とその後の内戦からです。
内戦によって第1次世界大戦と2月革命を超える命が奪われ、人為的に引き起こされた飢饉は500万人もの人命を奪いました。
野蛮な殺害や大規模なテロ行為がありふれた出来事になり、スターリンはこの時代の「典型的産物」でした。
レーニンの死後、政敵を排除して権力を掌握したスターリンは、急進的な工業化と農村の集団化を推し進めます。
スターリンが進めた「躍進政策」によって農村では地獄絵図が現出しました。
農民は蜂起し、戦乱の様相を呈します。特に抵抗が激しかったのがウクライナでした。
多くの農民が銃殺され、強制収容所に送られ、故郷から辺境の地に追いやられたのでした。
そして、大テロルと戦争がこれに続きます。
「第4章 テロルと差し迫る戦争」「第5章 戦時下のスターリン」は本書の中心をなし、筆致は淡々としていますが、そこで描かれるのはまさに地獄です。
独ソ戦開始時の致命的な判断ミスなどスターリンの戦争指導や連合国首脳との駆け引きも興味深いものでした。
戦後もスターリンによる粛清は続きます。
数多くの医師が無実の罪を着せられて逮捕、殺害され、それは1953年3月のスターリンの死によってようやく終止符が打たれたのでした。