久元 喜造ブログ

ハンセン『スマホ脳』


スマホが出現してから、私たちの生活は一変し、人間の行動形態や思考方法に大きな影響を与えています。
著者は、このスマホが人間には必ずしも適合しないと主張します。
なぜなら人間の身体や脳は、気が遠くなるほどの年月をかけて進化してきたのであり、スマホにはついていけないのだと。
現代の人間の脳が狩猟採集時代とさほど変わっていないという著者の主張は、確かにそうかもしれませんが、科学的な論証に耐えられるのか、議論が必要かもしれません。

自分自身の経験を踏まえて、本書の主張がそのとおりだと感じるのは、スマホが人間の集中力を奪う ということです。
短時間だけ残る記憶ではなく、自分の中に、数か月、数年、あるいは一生残るような長期記憶ができることは、人間という存在にとってとても大事です。
著者によれば、記憶するためには集中が必要で、「次の段階で、情報を作業記憶に入れる。そこで初めて固定化によって長期記憶ができる」と言います。
ところが「インスタグラムやチャット、ツイート、メール、ニュース速報、フェイスブックを次々にチェックし、間断なく脳に印象を与え続けると、情報が記憶に変わるこのプロセスを妨げる」。
このことが、いくつかの実験を使って例証されます。

どうすれば良いのか。
「バカになっていく子供たち」という刺激的な章の後の章では「すべての知的能力が、運動によって機能を向上させる」と説かれます。
「多くの人がストレスを受け、集中できず、デジタルな情報の洪水に溺れそうになっている今、運動はスマートな対抗策だ」と。
そのとおりだと思います。
巻末の「デジタル時代のアドバイス」には、実行可能なメニューが記されています。