久元 喜造ブログ

2018年9月6日
から 久元喜造

障害者雇用に関する神戸市の対応


ここのところ、霞が関の府省における「障害者雇用水増し不正問題」が、連日大きく報道され、批判が集まっています。
地方自治体でも、同様の不正が行われているという指摘もあります。

このような報道に接するみなさんは、役所はみんな障害者雇用の水増しを行っている、信用できないと思われることでしょう。
とても悲しいことです。
しかし、決してそうではありません。
多くの自治体は、障害者雇用数を正確に把握し、所管行政機関に報告しています。
神戸市もそうです。

神戸市では、まず職員に対し、手帳の種類、障害名、障害の等級、有効期限を申告してもらっています。
この調査の回答は、職員の意向を尊重する見地から、任意としています。
その上で、障害者雇用率の算定の対象となる職員について、所得税・住民税の障害者控除の対象となるかどうかを確認しています。
人事当局がこの方法で把握している障害者職員であっても、本人から申告がない場合は、障害者雇用率の対象者には含めていません。
この結果、神戸市の障害者雇用率は、実態よりもむしろ低い数値となっています。

報道を見る限り、中央府省の対応に問題があることは間違いありませんが、障害者雇用率に関する明確な基準を示さず、ただ、見かけの数字の達成率ばかりを問題にしてきた厚生労働省のお役所仕事も厳しく問い直されなければなりません。

大事なことは、どんなときでも、行政は、内部でも外部に対しても、嘘をつかないという当たり前のことができるかどうかです。
このことは、神戸市のどのような行政分野についても当てはまります。
嘘はつかないまでも、都合の悪いことは覆い隠すという風習は正す必要があります。


2018年9月3日
から 久元喜造

開かれた市役所になっただろうか?


2013年6月7日、私は秋に予定されていた市長選挙への立候補を表明し、政策を発表しました。
柱の一つが「本物の市政改革」でした。
街頭では、とくに、開かれた市役所にすることをお約束しました。
「窓を大きく開け放ち、外の空気を市役所に取り入れ、生き生きとした職場を創り上げていきます」と申し上げました。

あれから5年余りの歳月が流れ、私の任期は2期目に入りました。
「開かれた市役所」は実現したでしょうか。
確かに、ICT、公聴、国際交流、デザインなどさまざまな分野で民間人材を登用し、兵庫県との人事交流もスタートさせ、民間企業への研修派遣も軌道に乗りました。
しかし、職員のみなさんの意識がまったく変わっていないとすれば、「本物の市政改革」など望むべくもありません。

幸い、職員の中には、進んで街に出て、民間企業、学界、市民のみなさんと積極的に意見交換し、新しい分野の施策に果敢にチャレンジする動きが出てきています。
その一方で、ひたすら役所の中に閉じこもり、市役所コミュニティの中の平安を守ることにのみ汲々とする空気がいまなお支配的であるならば、とても残念です。
世間の常識が通用しない閉鎖的な体質が温存されているならば、それはとても悲しいことです。

私は、市役所職員としての経験がなく、職場の生の雰囲気を皮膚感覚として感じることができていません。
もし、現状に疑問を感じるみなさんがいるのであれば、どのようにして現状を打破していくのかについて、開かれた形で堂々と議論を行い、改革の方向性を提言してほしいと願います。
もちろん、トップとしての私の責任が大きいことは言うまでもありません。

 


2018年9月1日
から 久元喜造

筒井清忠『戦前日本のポピュリズム』


筆者は、ポピュリズムを「大衆の人気に基づく政治」と定義づけ、ポピュリズムは戦前から存在した、と主張します。
まず詳しく触れられるのが、日露戦争の講和に反対した日比谷焼き打ち事件です。
1905年8月、日比谷公会堂で開催された「国民大会」に集まった群衆は、講和に賛成の論陣を張っていた国民新聞社、内務大臣公邸を襲撃、東京市内の派出所の約7割が焼失したのでした。

大正に入ると、米騒動などの「民衆騒擾」が繰り返される一方、普通選挙要求運動が広がり、「対中強硬政策運動」、米国の「排日移民法排撃運動」などが展開されていきました。
1925年、護憲三派の加藤高明内閣により「普通平等選挙法」が成立、日本は政党政治の時代に入っていくのですが、翌年1月に成立した第1次若槻礼次郎内閣では「松島遊郭事件」「陸軍機密費事件」といったスキャンダルが立て続けに起き、マスメディアはその始終を詳しく報じました。
当時は現在の週刊誌や大衆紙はほとんど存在せず、新聞がスキャンダル報道の役割を担っていました。
関東大震災後に起きた「朴烈怪写真事件」報道の一部始終も、たいへん興味深いものでした。

不毛な政争に明け暮れる政党は国民に愛想をつかされ、マスメディアは「清新な」軍部、革新官僚、そして「天皇親政」に期待を寄せ、満州事変、国際連盟脱退、日中戦争を支持する論陣を張っていきます。
戦前日本のポピュリズムは、近衛文麿内閣のときにクライマックスを迎え、日本は破局へと突き進んでいったのでした。
筆者の歴史観がストンと落ちたわけではありませんが、マスメディアの論調をはじめ新しい発見がたくさんありました。


2018年8月27日
から 久元喜造

海外派遣職員には十分な研修を。


神戸市は、1985年から天津市に事務所を置いています。
所長は代々神戸市の職員が就いています。
今回の出張(2018年8月9日のブログ)では、天津事務所長の内示が発令の約一月前に行われることを知りました。
今の天津事務所長から聞いたわけではなく、出張中にみんなで雑談している中で話題になり、わかりました。

神戸市天津事務所の職員は、所長と副所長のわずか2人です。
大所帯なら、トップの所長は中国語があまりできなくても、中国人スタッフを含めた職員を駆使して仕事をすることもできるでしょう。
2人しかいないなら、所長も単にマネジメントをしているだけでは仕事にならず、各方面に自ら出向き、人脈をつくり、個別案件について交渉することが求められるはずです。
中国語を理解し、自ら話すことが必要です。
いかに優秀な職員を任命しても、わずか1か月で現地の事情を知り、中国語を聞き、話すようになることは極めて困難だと思われます。
多くは初めての海外勤務でしょうから、海外赴任の準備、さまざまな手続き、前任者からの引継ぎを短期間に行わなければならないでしょう。

帰国して、人事当局に改善をお願いしたところ、天津に限らず、海外の事務所長などに発令するときは、原則庁内公募とし、1年前に内示することになりました。
1年あれば、赴任地の事情や現地の言葉を勉強する時間を十分に持つことができるはずです。
人事当局は、対象者が現地の言葉をしっかりと学ぶことができるよう、事前研修を充実させる意向です。
語学力の修得を含め、しっかりと準備し、海外の任地で思う存分能力を発揮してほしいと願っています。


2018年8月25日
から 久元喜造

東京の余剰財源は地方に配分を。


少し前のことになりますが、8月18日の日経新聞に、「地域間の税収格差 どう是正」との見出しで、「国」と「都」が再配分を巡り火花を散らしている、という記事が掲載されていました。
記事によれば、政府・与党は、2019年度から地域間の税収格差を縮めるため新たな措置を導入する方針ですが、これに東京都が反論しているというのです。
焦点になっているのは、合計6兆円あまりの法人2税(法人住民税・法人事業税)です。
人口一人当たりの税収額は、都道府県間で最大6倍以上の開きがあり、その是正が問題になっています。

このような格差が生じる背景は、都区財政調整制度の存在です。
東京に集中する税源を東京都と23区で山分けする仕組みになっていて、膨大な財源余剰が生じています。
この結果、財政状況を見ると、同じ大都市でも23区と20の指定都市との間で大きな格差が生じています。(2015年7月22日のブログ
直近の統計(平成28年度決算)では、この格差がさらに拡大しています。

指定都市の市民一人当たりの借金 65万8000円
東京都特別区の区民一人当たりの借金 5万5300円

指定都市の市民一人あたりの貯金 3万6400円
東京都特別区の区民一人あたりの貯金 18万7600円

つまり、23区は、指定都市に比べて、人口一人当たり、5倍以上の貯金があるのに、借金は約12分の1しかないということです。
政府・与党におかれては、これ以上の東京一極集中を食い止める見地からも、ぜひ思い切った偏在是正のための措置を講じていただき、税源配分の不公正を正していただくよう期待しております。


2018年8月22日
から 久元喜造

再び、打ち水について


台風が近づいていますが、きょうも朝から炎暑ですね。
異常高温対策として、市民のみなさんに「打ち水」のお願いをしています。(2018年7月26日のブログ)。
上の写真は、灘区役所の玄関です。
区役所などに幟を立て、打ち水の呼びかけを行っています。

水は気化するとき、周囲から熱を奪います。
街のあちこちで水が撒かれれば、間違いなく気温が下がるはずです。
私が子供の頃、路地裏などでよく打ち水が行われていました。
いつしか打ち水の風習が廃れてしまったことは、残念なことです。
ご近所で声を掛け合いながら打ち水をすることは、とても良いことなのではないでしょうか。

中央消防署では、風呂の残り湯で前の道路に放水しています。
風呂の残り湯などで打ち水することは、節水や水の有効利用の意味もあります。
ただ、今年のような異常な炎暑の年には、水道水を使った打ち水も行っていただきたいと思います。
水道代が気になるところですが、1カ月当たりの水道使用量の分布を見ますと、神戸市では、基本料金の中でおさまっている世帯が42%です。
基本料金の範囲内に収まっていると、打ち水などでもう少し水を使っても水道料金は増えません。
もちろん、たくさん使うと水道料金はそれだけかかることになりますが、異常高温の日には、少しでも街を涼しくしていくことが必要で、そのためのコストとお考えいただけないかと思います。


消防局では、水を使ったイベントで、街を涼しく感じていただく試みを行っています。
上は、新長田の鉄人広場、下は、森林植物園でのイベントです。

水を賢く使って、猛暑を乗り切りたいものです。


2018年8月19日
から 久元喜造

砂原庸介『新築はお好きですか』


諸外国と比較しても特異な日本の「持家社会」がどのよう形成されてきたのか、「持家社会」を生み出してきた「制度」について考察されています。
政府の政策展開のほか、経済の成長段階、社会慣習、地方政治など幅広い側面からの分析は、極めて鋭く、興味深いものがありました。
持家を供給するため、都市は「ヨコ」に広がり、さらに集合住宅の建設により「タテ」に伸びていったのでした。

しかしいま「持家社会」は、大きな壁にぶつかっています。
その象徴が膨大な空き家の発生です。
現在、空き家は一戸建ての住宅が中心ですが、今後、分譲マンションにも広がっていく可能性があります。
分譲マンションの区分所有者の高齢化が進むとともに、永住志向が強くなっており、自分の世代さえ利用できれば良いと考える区分所有者が増えれば、共有部分の新規投資も進まず、資産価値は下落していきます。
中古住宅として転売される可能性も低下し、「櫛の歯が欠けるように」空室が増えていくのです。

筆者は、タワーマンションにも警鐘を鳴らします。
「仮にその一部が将来管理運営に行き詰まり、「負の遺産」となった場合には処理が極めて困難になると考えられる」からです。
そして、「将来にわたって維持管理のあり方が懸念されている超高層のタワーマンションについては、政府はそのガバナンスに関心を持つ必要がある」と指摘されています。
まったく同感です。

膨大な住宅ストックを抱える現状において、中古市場、規模の大きな賃貸住宅に関する取引費用を下げる努力が求められるという指摘もそのとおりですが、具体的な政策をどう用意するのかは、頭が痛いところです。


2018年8月16日
から 久元喜造

「神戸で、保育士・幼稚園教諭になろう!」


お盆も過ぎ、特に力を入れなければならない政策課題の一つが、待機児童の解消です。
神戸市では、「待機児童対策緊急プロジェクト」として、平成30年度に思い切った予算を計上しましたが、これをしっかりと執行していかなければなりません。
その柱となるのが、保育人材の育成 です。
中長期的な視点を交えながら、高い志をもって子どもたちと向き合える人材を育成してくことが必要です。
そして当面の対応としては、処遇の改善を行っていくことが急務です。
神戸市では、国の制度を活用するとともに、市単独の予算を上乗せし、5つの処遇改善策を講じることにしました。
決め手は『5つのいいね』です。

給料がいいね!」
神戸市内で保育士・幼稚園教諭として採用された方に、7年間で最大140 万円の一時金を支給します。

家賃がいいね!」
保育士の宿舎を借り上げる施設に対して、月額8万2千円を上限に、最長5年間の家賃を補助します。

家族に優しくていいね!」
神戸市内で働く保育士・幼稚園教諭が保育園などに子どもを預ける場合、月額5万4千円までの保育料が1年間、実質無料になります。

自分のペースでいいね!」
保育士・幼稚園教諭の資格・免許を持ちながら働いていない方がパート職員として「朝」「夕」の時間帯、あるいは「休日」を含む勤務を行う場合、復職6カ月後に10 万円の一時金を支給します。

夢の実現にいいね!」
保育士資格試験のために要した30万円までの学習費用の半額を補助します。

神戸市のこれらの施策をたくさんの志望者のみなさんに知っていただくため、これからも情報発信に努めます。


2018年8月12日
から 久元喜造

三浦展『都心集中の真実』


副題に「東京23区町丁別人口から見える問題」とあるように、区よりもさらに細かい町丁ごとに人口動向を細かく分析し、何が起きているのかを鮮やかに提示してくれます。

近年における23区の人口増加の原因としては、外国人の増加、都心における金持ちの増加、 女性、特に若い女性の増加、子どもの増加、つまりファミリー層の増加、の4つが挙げられています。
都心3区と江東区の、特にウォーターフロントでは、1980年代に端を発し、今日まで営々と高層マンションが建設されてきました。
これら地域には、高所得層が増え、23区間でも所得格差が拡大しています。

この辺りは常識的な解説ですが、筆者は、「分類不能業種が都心で増殖している」など、ユニークな視点を提供してくれます。
また、女性が長い通勤時間を嫌い、都心で働く未婚女性が隅田川沿いなどのマンションに数多く住んでいる現状にも注目します。
都心人口の増加は、職住近接や「スタイル・高価格・超都会的」消費イデオロギーへの転換も関係しています。

それでは、郊外にはまったく未来はないのでしょうか?
筆者は、自治体などの「やる気」を取り上げ、「本当に郊外の人口減少をどうにかしたいのなら、もっと本気で組織ごと変わってほしい」と訴えます。
「住宅地の中に店やオフィスが作れないなどという近代主義的都市計画思想を捨てて欲しい」と。
「郊外だから専業主婦、パート主婦でしか生きられないのではなく、正社員としても、在宅勤務、ワークシェアリング、サテライトオフィスなどをフル活用しつつ、多様な世代の男女が多様な働き方で働き続けやすい街をつくること」だと。

全く同感です。


2018年8月9日
から 久元喜造

天津市との交流を強化します。

神戸市と天津市との友好都市提携45周年を記念し、天津市を訪問しています。

天津市は、人口 1550万人を擁する大都会です。日本からもたくさんの企業が立地しています。

昨日の夕方には、天津市迎賓館に張国清市長を表敬訪問、約50分間会談し、その後、歓迎晩餐会に臨みました。

張市長からは、港湾に関する長い歴史に触れられつつ、現在の天津市の産業活性化や環境保全に留意しながらの街づくりについてお話がありました。

私からは、神戸医療産業都市の歩みや、災害に強い街づくりについて説明しました。

これまでの長い歴史を大切にしながら、未来志向で、医療、先端産業分野などでの交流強化について意見交換を行いました。

これに先立ち、午前中には、国際医療交流シンポジウムが開催され、神戸医療産業都市構想の進捗状況にについて説明がありました。たくさんのみなさまに参加していただきました。

午後には、天津音楽学院で、NPO国際音楽協会主催の歌劇「夕鶴」を鑑賞しました。

神戸の音楽家と天津の子どもたちが共演した素晴らしいステージでした。

経済の大きな発展可能性を感じながら、自然との共生や歴史を大切にしていく天津市の街づくりの姿勢に、共感を覚えました。

今後、新たな時代を見据えた交流強化に取り組んでいきたいと感じています。