久元 喜造ブログ

砂原庸介『新築はお好きですか』


諸外国と比較しても特異な日本の「持家社会」がどのよう形成されてきたのか、「持家社会」を生み出してきた「制度」について考察されています。
政府の政策展開のほか、経済の成長段階、社会慣習、地方政治など幅広い側面からの分析は、極めて鋭く、興味深いものがありました。
持家を供給するため、都市は「ヨコ」に広がり、さらに集合住宅の建設により「タテ」に伸びていったのでした。

しかしいま「持家社会」は、大きな壁にぶつかっています。
その象徴が膨大な空き家の発生です。
現在、空き家は一戸建ての住宅が中心ですが、今後、分譲マンションにも広がっていく可能性があります。
分譲マンションの区分所有者の高齢化が進むとともに、永住志向が強くなっており、自分の世代さえ利用できれば良いと考える区分所有者が増えれば、共有部分の新規投資も進まず、資産価値は下落していきます。
中古住宅として転売される可能性も低下し、「櫛の歯が欠けるように」空室が増えていくのです。

筆者は、タワーマンションにも警鐘を鳴らします。
「仮にその一部が将来管理運営に行き詰まり、「負の遺産」となった場合には処理が極めて困難になると考えられる」からです。
そして、「将来にわたって維持管理のあり方が懸念されている超高層のタワーマンションについては、政府はそのガバナンスに関心を持つ必要がある」と指摘されています。
まったく同感です。

膨大な住宅ストックを抱える現状において、中古市場、規模の大きな賃貸住宅に関する取引費用を下げる努力が求められるという指摘もそのとおりですが、具体的な政策をどう用意するのかは、頭が痛いところです。