久元 喜造ブログ

2015年9月23日
から 久元喜造

北区の農地を歩く。

きょうは、午前中の公務の後、午後から北区山田町の農地を歩き、稲の生育状況と耕作放棄地を含めた水利の模様を見学しました。
150923-1
山田町の農村は、稲刈りの季節を迎えています。
白いサギが田圃の上を舞っていました。
150923-2
残念ながら耕作放棄地が見られます。
150923-3
そんな中にあって、この田圃は、長く耕作放棄地だったのですが、農業委員や地元のみなさんの努力で、若い新規就農者が新たな挑戦を始めています。
すでに草が刈られ、綺麗に整地されていました。
150923-4
ここには、すぐに使える用水の水栓もあります。
もともとこの辺りの耕作放棄地では、用水はいつでも使える状況で、新規就農がいつでも可能とのことでした。
150923-6
用水は、山中を源流とする川から取られており、池の水は、よほどの渇水のときしか使われないようです。
このためか、池と上流の川とはつながっておらず、水が循環しないため、濁っています。
水質が良くないと米の味にも影響があると言われますが、現状の水利で足りるため、池の水質改善の必要性は高くないようです。
150923-5

田圃の畔近くで、ヤマカガシが這っているのを見かけたので、一瞬たじろぎましたが、残念ながら、死んでいました。
ヤマカガシを見たのは、久しぶりです。(8月2日のブログ


150923-7

呑吐ダム湖畔から、山中に入って10分ほど登り、さらに下ると、山田池に出ました。
昭和8年に完成した、産業遺産です。
150923-8

箱木千年家。
呑吐ダムが完成し、移築されてから初めて訪れました。

さわやかな秋晴れの下、いろいろと考えさせられました。
農政についても、十分に対応できておらず、申し訳ありません。
見学の成果を、仕事に生かしていきたいと思います。


2015年9月20日
から 久元喜造

多数決を疑う。

sakai

複数の候補者の中から一人を選ぶとき、相対的には、ある候補者が有力でも、多数の有権者がこの候補者に否定的な判断をすることがあります。
たとえば、非常に個性的な候補者が、極端な政策の実現を主張し、かなりの支持を集めているが、多数の有権者は、この候補者やその政策に危険を感じ、
「あの候補者だけは通って欲しくない!」
と感じているような場合です。
そのような有権者の意向を反映する方法はないでしょうか。

その答えのひとつが、ボルダルールです。
1位に3点、2位に2点、3位に1点という配点にし、その合計で最大の点数を獲得した候補者を当選者とする方法です。
多くの有権者は、人気が好悪二分する候補者を3位にするでしょうから、ほかの候補者が当選する可能性が高くなります。

坂井豊貴『多数決を疑う』 (岩波新書)では、ボルダルールのほか、さまざまな選挙・投票の方法が紹介されます。
同時に、民意の反映とは何かについて、ルソーの『社会契約論』をはじめとした、さまざまな理論的考察がなされています。

選挙制度については、衆参両院をはじめさまざまな議論がなされますが、最終的にそのルールを決める主体は、選挙で選ばれる国会議員自身です。
このことは、代表民主制である以上、やむを得ないことですが、やはり、選挙制度については、有識者、専門家からなる第三者機関が衆知と見識を結集して提言を行い、その提言を尊重して、国会が最終的な判断を下すことが望ましいと言えます。
そのような検討に当たっては、本書で行われている考察も大いに参考になります。


2015年9月17日
から 久元喜造

成年年齢は18歳に統一を。

安保法制に隠れてあまり報道されませんが、成年年齢のあり方が議論になっています。
選挙権年齢はすでに18歳以上に引き下げられ、来年の参議院選挙では、18歳、19歳の若者も、選挙に参加します。
ところが、民法の成年年齢は20歳のままで、また、少年法の適用年齢が20歳未満になっているため、刑事罰が原則として科されません。

これは極めておかしな話であり、早急に成年年齢は、18歳に統一されるべきだと考えます。
私は、総務省に居たとき、国会の憲法審査会で総務省の方針を問われ、このように答弁し、選挙権年齢の引き下げを先行させるべきだとする法務省民事局長と対立しました。(平成24年2月29日の議事録

これは役所の立場を述べたものですが、考え方としては、今でも全く変わっていません。
選挙権が与えられ、政治参加において大人である若者が、民法や刑法において大人として扱われないというのは、まことにおかしな話です。

国会でも申し上げたのですが、昭和20年に選挙権年齢が25歳から20歳に引き下げられたとき、堀切国務大臣は、満20年に達した青年は、民法上の行為能力を十分に持っており、国政参与の能力と責任観念とにおいて欠けるところがない、という趣旨の答弁をされています。
また、諸外国においても、大部分の国で、選挙権年齢と成人年齢は一致しているという実態もあります。

飲酒、喫煙についても、引き下げられることが適当と感じますが、この点については、民法、刑法の成年年齢と異なり、社会実態を踏まえた政策的判断が入る余地はあるように思います。


2015年9月14日
から 久元喜造

天候激変、引き返す勇気を!

常総市をはじめ、大きな被害を受けた皆様に、お見舞い申し上げます。

家族のことで恐縮ですが、鬼怒川が決壊し、大きな被害が出始めていた9月10日、家内は、山形市内で予定されていたレクチャーコンサートに出演するため、東北に向かいました。
山形新幹線はすでに運休になっており、不安になった家内は、東京駅から主催者に照会の電話をしたところ、
「午前中は運休のようだが、午後になって雨がやめば走るでしょう。とりあえず仙台に行けば仙山線で山形に入れるので、仙台まで行ってください」
と言われ、新幹線で4時頃仙台駅に着いたのだそうです。

すでに大雨で被害が出始めており、山形の主催者に電話して、再考をお願いしたそうですが、
「仙山線は、山形への運転は休止しているが、途中の作並温泉までは運転しているので、そこまで来て欲しい、山形から車で迎えにいくので大丈夫」
というお返事。
仙山線に乗り、かなり遅れたものの何とか作並まで到着したのですが、担当の方は、雨による渋滞で、5時間かかって作並駅に到着されたそうです。
すでに夜の8時を回っていました。

山間部を通る道路で山形まで向かいましたが、バケツをひっくり返したような雨が降り続き、道路は冠水して、先に進めません。
山形に向かうことを諦め、Uターンして、仙台に向かいました。

栃木県、茨城県に大雨を降らせた雨雲は、このとき、宮城県の山間部にもかかっていました。
車は、夜中、濁流が流れる道路を、土砂崩れに怯えながら進みます。
仙台に到着したのは、夜中の3時だったそうです。

行事を担当されておられる方が、予定どおり進めたいと思うお気持ちはわかります。
しかし、天候が激変したときは、気象情報に最新の注意を払い、引き返す勇気を持つべきではないでしょうか。


2015年9月12日
から 久元喜造

優れた音楽は体に良い?

先日、 朝日ホール で開催された国立音楽大学兵庫県同調会のコンサートに行きました。
国立音楽大学のほか、京都市立芸術大学、大阪音楽大学など、ほかの大学のOBのみなさんも出演されていました。
モーツァルトのリート、アリアとスメタナのピアノ・トリオ以外は初めて聴く作品でしたが、いずれもたいへん素晴らしい演奏で、感動しました。
武田忠善国立音楽大学学長の、自在で見事なクラリネットの演奏で締めくくられました。

帰宅して入浴後に体重計に乗り、驚きました。
3つの指標が著しく変化しているのです。
それも、良い方に。

基礎代謝量(kcal/日)は、1400台前半から多くても 1450 くらいなのですが、初めて、1500を超えていました。
体脂肪率は、22-23%くらいなのですが、初めて20%を切っていました。
内臓脂肪レベルは、11.5 か 12.0 のどちらかなのですが、11.0 に改善されていました。

こんなに数字が大きく変化したのは、初めてです。
なぜこのようなことが起きたのか、不思議だったのですが、思い当たるのは、この日に聴いたコンサートくらいしか考えられませんでした。
素晴らしい演奏を聴いた体が、何らかの反応をしたのでしょうか。
優れた音楽は、体に良いのかもしれません。

残念ながら、2日後には、いずれの数値も、もとの水準に戻っていました。


2015年9月9日
から 久元喜造

入場人数にふさわしい会場選択を。

さまざまな式典やイベントに出席して、会場がガラガラというのは、さびしいものです。
主催者にとっても、来場者の方にとっても、また、その式典やイベントのために出演したり、協力していただいたみなさんにとっても、残念な結果となってしまいます。

あるイベントで、小学校、中学校、高校のコーラス、ブラスバンドのみなさんが出演してくれていたのですが、会場は、4分の1も埋まっていませんでした。
「しあわせ運べるように」を歌うために来てくれた、ひとりの小学生が、舞台裏で
「お客さん少ないわ。ガラガラや」
と、がっかりした表情でつぶやくのを聞いて、主催者として申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

もし、十分な来場者が見込めないのであれば、会場は来場者に見合った、より規模の小さなところを選ぶべきです。
式典やイベントを主催する担当者が、もし、座席数よりもたくさんの来場者があって座れないようなことになると、苦情を言われる可能性があり、それが嫌だから、余裕を見て大きな会場を選んでいるとすれば、そのような感覚や対応は疑問です。
ましてや、とにかく来場者を収容できる会場で空いているところを選びました、というような仕事の仕方は、論外だと思います。

来場者を見込むのは難しい場合も多いとは思いますが、主催者本位、つまり、役所本位の発想ではなく、来場者、出場者のみなさんが、来てよかったと思っていただけるような会場選択をすべきではないでしょうか。


2015年9月6日
から 久元喜造

『風にそよぐ葦』の神話

ashi
三宮のジュンク堂でふと目に止まったのが、 石川達三『風にそよぐ葦 上・下』 でした。
かつて映画にもなった有名な小説です。
まだ読んだことがないこの小説が気になったのは、だいぶ前に読んだ、 佐藤卓己『言論統制』 (中公新書)の強烈な印象があるからです。
sato

本書の序章には、「『風にそよぐ葦』の神話」という題が付けられています。
『風にそよぐ葦』は、中央公論社に対する軍部の言論弾圧がモデルになっていますが、この序章では、小説の内容が、いかに不正確で誇張に満ちているかが、詳細に明らかにされていきます。

小説の中で、軍部の情報将校、佐々木少佐は、こう言い放って恫喝します。

「一番大事なのは、・・・国家の立場だ。国家の立場を無視して自分の雑誌の立場ばかりを考えて居るからこそ、こういう自由主義の雑誌をつくるんだ。君のような雑誌社は片っぱしからぶっ潰(つぶ)すぞ」

この一節は、文庫本の帯にも記されています。(上の写真)
粗野で無教養な軍人が、良心的な文化人を罵倒し、恫喝するさまは、戦後、広く受け入れられてきた光景でした。
この小説は、そのような期待に応えたと思われます。

この佐々木少佐のモデルとなったのが、陸軍の情報将校、 鈴木庫三 でした。
『言論統制』では、鈴木庫三が、小説のイメージとは全く異なり、知的で学者のような人物であったことが描かれます。
そして、彼の言動を通じて、戦時下における言論統制の実態が、見事に再現されていきます。
それは、一方的な恫喝ではなく、陸軍、海軍、出版社、新聞社、大学、民間右翼、無産政党、文化人などさまざまな組織、人々の思惑、正義感、打算、懐柔、迎合が入り乱れる、複雑極まりない世界でした。(文中敬称略)


2015年9月2日
から 久元喜造

神戸を舞台にしたミステリー

ifu
8月30日の朝日新聞に、
神戸「ミステリー発祥の地?」
という見出しの記事が出ていました。

神戸文学館の中野景介館長によれば、日本でミステリーが広まり始めたのは昭和の戦前期。
神戸港に来る外国船に積まれたミステリーが古書店に出回り、親しまれていったのだそうです。
海野十三、山本禾太郎、戸田巽・・・といったミステリー作家が続々生まれたのだそうですが、知らない名前です。
さらに、若い頃よく読んだ横溝正史の出生地、現在の中央区東川崎町に、横溝正史の生誕記念碑があることも知りませんでした。
お恥ずかしい限りです。

神戸が舞台のミステリーも少なくありません。
旅情ミステリー作家、内田康夫さんには、その名もズバリ『神戸殺人事件』がありますが、最近読んだ 『遺譜 上・下』 にも、神戸がたくさん登場します。
ホテルオークラ、女性の死体が発見される埠頭、新神戸トンネル、北区の山中にある古い神社、元町の古風なレストラン、やはり元町にあるお好み焼き屋・・・・
内田康夫さんは、神戸をかなり丁寧に取材されたものと思われます。
そして、神戸を楽しまれたことでしょう。

昨年、家内は、篠山市で開催されている音楽祭「シューベルティアーデ」に出演しましたが、このとき、楽友に勧められて買ってきたのが『遺譜』でした。
物語は、「シューベルティアーデ」が重要な舞台となり、 浅見光彦は、神戸と篠山の間を頻繁に行き来します。
改めて、両市がとても近いことを認識しました。


2015年8月30日
から 久元喜造

『今夜もひとり居酒屋』

ikeuchi-o
ドイツ文学者の池内紀さんとは、家内が親しくさせていただいています。
とても酒を愛しておられ、お酒の席では、穏やかな中に鋭い批評眼を見せ、ユーモアの中に真実を語る方だそうです。

本書の中で池内さんが語られる居酒屋の世界は、何と奥行きが深いことでしょう。
本書は、ある意味で、良質の哲学書です。
居酒屋という一見、閉じられた空間の中に現出される光景から、人間の感情の襞や身の処し方、あるいは人生そのものが語られます。

池内さんは、「居酒屋人種」の生態を、注意深く観察します。
しかし、同じ観察者であっても、池内さんは、永井荷風とは違います。
永井荷風は、東京の路地を歩き回りましたが、冷徹な傍観者の立場に徹し、決して市井の人々と交わろうとはしませんでした。
池内さんは、居酒屋のカウンターにひとり座り、亭主や女将との、あるいは、相席の客との、さりげない会話を楽しみます。そんな中から、本書は生まれたのでしょう。

池内さんは、温かいまなざしを、居酒屋に、そして「居酒屋人種」に注ぎます。
そして「居酒屋人種」に、こうエールを送るのです。

「居酒屋人種はみな、しっかりした自分の考えを持っている。出来合の意見や、借り物の見方を口にしても、それはその場の必要に応じたまでであって、口ではどうあれ腹の底はお愛想にすら同意していない。・・・この世で暮らしていくにはたくさんの知恵がいるのだ。それは体験のつみかさねから生まれ、くり返し修正され、いつしか身についた知恵であって、だから大半が瞬間の勘として発揮され、よほど注意していないと見落としてしまうだろう」

自分も、いつの日にか、そんな「居酒屋人種」に仲間入りできれば、と願っています。


2015年8月27日
から 久元喜造

身近なクールスポット活用策の不発。

摩耶山は、市街地から気軽に行ける山として、親しまれています。
山上の気温は、市街地よりも、5度くらい低く、「天然のクールスポット」となっています。

このクールスポットに、たくさんのみなさんに足を運んでもらおうと、『まやビューライン』 (ケーブルとロープウェイ)の無料運行を考えました。
夏休みの最後の週、8月24日(月)から31日(月)までの8日間、一人往復、最大1540円をすべて無料にしようという試みでした。

猛暑の市街地を離れ、摩耶山上で涼をとっていただければ、 少しでも、エアコンの使用抑制につながり、電力の節減が図られます。
摩耶山の魅力を、改めて、たくさんのみなさんに知っていただくことにもつながります。
夏休みの最後の週、子供さんたちには、眼下に広がる神戸の景色を眺めながら、のびのびと過ごして欲しいという願いもありました。

住宅都市局交通担当のみなさんは、交通事業者間の調整に奔走し、何とか実現一歩手前まで行きました。
しかし、最後の最後で、一部の交通事業者から「民業圧迫だ」との強い意見が出て、断念せざるを得ませんでした。
交通事業者は、採算ラインぎりぎりの経営をされているところが多いのは事実ですが、わずか8日間の社会実験に理解が得られなかったのは、残念でした。

今回の反省を踏まえ、周到な準備を行って、来年の実現を期したいと思います。