久元 喜造ブログ

2023年11月5日
から 久元喜造

新幹線・ワゴン販売の終了


つい先日の10月31日、東京での用務を終え、夕方の新幹線に乗りました。
ちょうど夕食どきで、「駅弁屋 祭」で弁当を買い込み、車内でワゴン販売を利用しました。
車内放送は、ワゴン販売がきょうで終了すると案内していました。
一抹の寂しさを覚えますが、これも時代の流れで致し方ありません。
最近の人手不足も影響していることでしょう。

思い起こせば、新幹線の中での食事のとり方は、変遷を重ねてきたように記憶します。
だいぶ前は、東京での弁当のメニューがあまり充実しておらず、それぞれの駅で個性ある弁当が売られていました。
浜松駅のホームでは、うなぎ弁当が売られていて、たぶん停車時間が今よりも長く、急いで購入し、発車に間に合いました。

新幹線には、食堂車もありました。
1987年か88年のことだったと思いますが、当時、京都府庁に勤務していて、東京出張のとき、東京駅を発車するとすぐに食堂車に並びました。
発車して食堂が開くと、テーブルに座り、ビールとアテを注文、次に日本酒の熱燗を頼んで、一人飲みを楽しみました。
向かいの席には、会社勤めらしい男性がやはり熱燗をチビチビ飲っていました。
30分ほどお互いに無言で飲んでいたのですが、どちらともなく話が始まり、熱燗はどんどん進み、すっかり意気投合してしまいました。
お互いの仕事のこと、京都の街のことなどが話題になりました。
お嬢さんは、京都工芸繊維大学で学んでいるとのことで、大学の様子なども聞くことができました。
気が付くと、京都駅到着の予告アナウンスが流れました。
こんな客がいるから、食堂車の採算は上手く取れず、しばらくして廃止になってしまったのかと、改めて反省します。


2023年10月29日
から 久元喜造

久元祐子 ベートーヴェン・リサイタル

家内の久元祐子は、これまでピアノに打ち込んできました。
昨年は、モーツァルトのピアノ・ソナタ全曲演奏会を完結。
今年からは、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会をスタートします。
初回は、11月7日(火)19:00 開演。
サントリーホール(ブルーローズ)です。

使用楽器は、ベーゼンドルファー280VC ピラミッド・マホガニー を搬入します。
モーツァルト、ベートーヴェン時代の息遣いと繊細さを残しながら、現代の音楽シーンにおいても埋もれないパワーをも併せ持つウィーンの名器です。
ご来場いただきベートーヴェンの音楽、そしてウィーンの音から生まれる波動を共有いただければ幸いです。


2023年10月27日
から 久元喜造

最初の選挙から10年が経ちました。


10年前の今日、2013年(平成25年)10月27日、神戸市長選挙が行われました。
私にとり、最初の選挙でした。

もともと私は、公務員として職業生活を全うするつもりだったので、選挙に出ることは考えていませんでした。
選挙への出馬は、人生を大きく変えます。
迷うところもありましたが、生まれ故郷の神戸のためにお役に立つことができればと思い、2012年(平成24年)秋、神戸市副市長への就任をお受けしました。
40年ぶりの神戸の日々が始まりました。
自分なりの実感として、市長選挙は極めて厳しいものになることはわかっていました。
2013年6月、副市長を辞職し、6月7日に立候補の記者会見を行いました。
神戸新聞は「久元氏、全区でリード」の見出しで選挙情勢を報じましたが、私にはそのような実感は全くありませんでした。

選挙当日、自宅に居た私に、知り合いの報道関係者から、相手候補にリードされているとの情報が寄せられました。
夕方から市内で待機しましたが、出口調査の情報も同様の状況でした。
開票が始まり、相手候補のリードが報じられました。
敗北を覚悟し、頭の中で敗戦の弁を考えました。
11時が過ぎ、携帯に私の当確が知らされ、頭の中が真っ白になりました。
全速力で選挙事務所の会場に駆け付け、しどろもどろになりながら、挨拶を申しあげました。
夜中の事務所は、歓声に包まれました。
遅くまで待機していただき、祝福していただいたみなさまのお顔が今でも浮かびます。

あれから10年。
私は、少しでも神戸ために仕事が出来ていることに、日々大きな幸せを感じています。
初心を忘れることなく、引き続き神戸市民の幸せと神戸の発展のために全力を尽くします。


2023年10月22日
から 久元喜造

「朝日地球会議」に出席


10月9日(月・祝)に、東京・有楽町朝日ホールで開催された「朝日地球会議」に参加しました。
テーマは「里山~自然と文化の交差点 持続可能なくらしとは」です。
俳優の財前直見さん、NPO法人よこはま里山研究所(NORA)理事長の松村正治さん、東京都立大学国際センター准教授の佐々木リディアさんとディスカッションを行いました。
コーディネーターは、朝日新聞GLOBE+創刊編集長/ソーシャルソリューション部長の堀内隆さんでした。
小中学生の頃から、里山に親しみ、その価値を大切に感じていたことを申し上げ、里山の保全・活用についての神戸の取組みを紹介しました。

里山は、長い時間をかけて築き上げられてきた我が国の貴重な財産です。
神戸でも古くから里山の暮らしが維持されてきましたが、小著『ひょうたん池物語』で描いたように、ちょうど東京オリンピックの頃から都市化が進み、急速に変貌していきました。
手入れが行き届かず、暗い森となり、竹藪の繁茂が広がり、ため池の水質も悪化していきました。
外来生物が侵入・繁殖したことも影響して、生物多様性も失われています。

いま神戸では、市街地に近い特性を生かし、里山の再生が始まっています。
そのような取組みのひとつが「こうべ再生リン」です。
神戸市の下水処理場では下水からリンを効率的に回収し、「こうべハーベスト肥料」として加工しています。
この肥料を使った野菜や米が栽培され、それを市民が食し、下水道に排出され、リンの資源循環を実現しています。
かつては農村集落単位で存在していた循環型社会を、都市と農村がつながることによって、より大きな形で実現し、里山地域の再生にもつなげていく試みです。


2023年10月14日
から 久元喜造

自治体も経験者採用に軸足。


神戸市では、今年度の採用試験から経験者の採用を大幅に増やすことにしました。
背景にあるのは、転職によるスキルアップ志向です。
若い世代の間に、成長できる環境を求める傾向が強まっています。
また「社会貢献度の高さ」が重要視されるようになり、民間企業に就職したものの社会貢献への姿勢に失望し、自治体で働くことに目を向ける傾向も見られます。
そこで、今年度の経験者採用の割合を、全体の3割程度から5割程度に拡大することにしました。

対象年齢も拡大しました。
25~27歳のいわゆる第二新卒と呼ばれる方は、これまでは新卒者と同じ枠での採用でした。
専門知識などを問う筆記試験のための準備が必要で、転職を考えている方の負担が大きいという意見がありました。
そこで、経験者採用の年齢要件を、28~39歳から25~39歳に拡大しました。
加えて、これまでは経験者採用は春と秋の年2回の試験実施でしたが、通年での募集に変更しました。

試験方法も、筆記試験から面接中心にシフトさせ、面接の時間を25分から60分に拡大しました。
試験区分も「総合行政」として一つの試験区分にまとめ、本人のスキル・経験・専門性・配属の希望と、職場が求める人材とを試験区分にとらわれることなくマッチングすることにより、より柔軟に配属先を決定します。

東京圏から優秀な人材の受験を促すために、6月24日には東京国際フォーラムで開催されたマイナビ転職フェアにブースの出展を行いました。
7月23日には神戸市主催の経験者採用説明会を東京の渋谷スクランブルスクエアで開催し、私からもプレゼンを行いました。
優秀な人材に、神戸市役所を選んでいただくことを期待しています。


2023年10月9日
から 久元喜造

『「池の水」抜くのは誰のため?』


著者は、本書の刊行当時、東京本社科学医療部に所属する朝日新聞記者です。
タイトルは、テレビ東京の「緊急SOS!池の水をぜんぶ抜く大作戦」から取られています。
最近はテレビ大阪であまり放映されていませんが、私もよくこの番組を見ていました。
放送内容は、池から水とヘドロを排出し、出演者が泥の中を格闘して魚やカメなどを捕まえ、外来種と「在来種」をより分け、外来種は駆除、「在来種」は池に戻し、池を綺麗にするというものです。
一種の「かいぼり」です。
タレントが泥まみれになりながら格闘し、カミツキガメなどを捕獲するシーンが出てきます。
センセーショナルな字幕が頻繁に現れ、大音量の効果音が使われています。

著者は、番組が「かいぼり」の認知度を高めた点を評価しつつ、いくつかの疑問を呈します。
まず番組が外来種を一律に「悪者」扱いしている点です。
「生態系や人の社会にリスクがあるか」という観点が重要だと。
また、番組の池を抜く作業は1回限りですが、「かいぼり」は、地域が主体的に、継続的に取り組む必要があると指摘します。
そして、外来種を宿敵扱いする番組制作の姿勢を批判します。

この番組を扱っている箇所は、全体の中のわずか10ページ足らずで、生き物に関して近年起きている事象が幅広く紹介されています。
特にネット空間での生き物の売買の実体には、改めて驚きを禁じえませんでした。
神戸市は「里山SDGs戦略」を策定し、この中で、市民との協働による外来生物対策や「かいぼり」の実施、在来生物の保全などを掲げています。
生き物との距離も大事です。
本書で紹介されている豊富な事例や課題は、この戦略を推進していく上で参考になりました。


2023年10月3日
から 久元喜造

國分功一郎『スピノザ』


スピノザ(1632-77)の哲学の一端に触れたいと思い、本書を紐解きました。
著者は独特のアプローチでスピノザの哲学を読者に提示していきます。
副題は「読む人の肖像」。
先人の著作を読み、悩み、考えながら、自らの哲学を形成していった過程が語られます。

若きスピノザは、デカルトの『哲学原理』(1644年刊行)を読み、『デカルトの哲学原理』を執筆しました。
スピノザによれば、デカルトは自分が考え得るものをすべて疑い、「疑ったり考えたりする限りでの」自分を発見し、次の言葉を発します。
「私は疑う、私は考える。故に私は存在する」。
「私は考える、故に私は存在する Cogito,ego sum」。
「コギト命題」として知られるこの命題こそ、一切のものがその上に構築されるべき第一の真理です。
スピノザは、第一命題がいかなる命題も前提としていないはずであるにも関わらず、大前提が存在している矛盾を指摘し、「私は考えつつ存在する」という単一命題を得ます。

続いて「準備の問題」の章が置かれ、スピノザの代表作『エチカ』について語られるのですが、その内容は、著者渾身の努力にも関わらず、かなり難解でした。
また改めて読み返してみたいと思います。

『エチカ』の執筆は中断され、執筆されたのが『神学・政治論』でした。
冒頭「哲学する自由を認めなければ道徳心や国の平和が損なわれる」と強く主張し、宗教を肯定した上で、迷信がどこから生まれるのかなどの考察が行われます。
スピノザの論理は明快で、政治のありようなどを含め、新鮮な視点を提示してくれているように感じました。
現代に生起する現象を考える上でも、有益な示唆を得ることができました。


2023年9月24日
から 久元喜造

規制・手続きの見直し


神戸市ホームページ上に専用の窓口を設置し、「規制・行政手続き見直し提案」の受付を行っています。
神戸市が定める規制や行政手続きについて、市民や民間事業者のみなさんが感じている疑問や問題点を直接出していただき、改善につなげようとする試みです。

自治体行政には、法令に基づく規制、独自の規制など数多くの規制が存在しています。
特に神戸市のような指定都市は所掌する事務が幅広く、規制の種類は市民生活や民間事業者の活動のすみずみにまで及びます。
また、規制に関する許可、協議、報告、届出のほか、行政サービスを受けるための申込み、応募などさまざまな手続きがあります。

これらの規制は必要なものではありますが、規制の内容が目的と手段との関係において合理的なものであるか、時代の変化に適合しているかなどの視点から、不断に見直していく必要があります。
手続きについても、市民目線に沿ったものになっているか、不必要な負担を市民や民間事業者にかけていないか、DXが適切に活用されているかなどの視点から、点検を行うことが必要です。

今回の見直しにあたっては、利便性を第一に考え、誰もが目にしやすい場所に一元化窓口を設置し、シンプルなフォーマットで、スマートフォンから入力できるようにしました。

受け付けた意見・提案は、行政書士、司法書士、社労士などの専門家と職員で結成した「規制・行政手続き見直しチーム」で整理し、所管部局において見直しを検討して、市長・副市長が入った場で改善方針を決定します。
改善方針は、随時ホームページ上に公表していきます。

募集期間は、来年の3月31日までです。
みなさんからの提案をお待ちしています。


2023年9月16日
から 久元喜造

前田啓介『昭和の参謀』


著者は執筆当時、読売新聞東京本社文化部の現役記者。
本書も記者らしい取材記から始まります。
2019年に行われた取材の相手は、東部ニューギニア戦線を戦った元第18軍参謀、堀江正夫でした。
当時104歳の堀江は、2時間以上、矍鑠とした態度を崩さずに語り続けます。
堀江の瀬島龍三、辻政信に対する評価はかなり異なったものでした。

本書では、瀬島、辻など7人の参謀が取り上げられます。
著者は、実子がいなかった石原莞爾を除き、ほかの6人の参謀のご子息、ご息女に会うことができたそうです。
こうして、戦争遂行の中枢を担った参謀たちの戦後と人生模様が浮き彫りになっていきます。

石原莞爾、辻政信、瀬島龍三はよく知られた人物ですが、本書ではあまり知られていない戦後の言動も明らかにされます。
服部卓四郎、池田純久、堀栄三、八原博通のことは全く知りませんでした。
参謀としての任務遂行、そしてそれぞれの戦後が語られます。
服部は、参謀本部中枢のポストを歴任し、戦後は再軍備に関わり、軍人に自衛官登用の途を開きました。
「統制派」の理論的支柱であった池田は、戦後歌舞伎座サービスの社長などを務め、エチオピア顧問団長として国づくりに貢献しました。
印象に残ったのは、情報参謀出身の堀栄三です。
堀は晩年、故郷の奈良県吉野郡西吉野村(現・五條市西吉野町)の村長を務めました。
1991年(平成3年)、当時77歳の堀栄三は、村長選挙に出馬して当選。
村の職員にはワープロを使うよう指導し、パソコンを導入。
村おこしや情報発信においても斬新なアイデアを編み出し、実績を挙げていきました。
戦後沈黙を守った八原博通の生きざまにも感銘を覚えました。(敬称略)


2023年9月4日
から 久元喜造

『明石の野鳥』


9月1日、神戸市と明石市は「生物多様性を守り育てるための連携・協力に関する協定」を締結しました。
これに先立つ8月18日、丸谷聡子明石市長がご挨拶にお越しになり、明石市立文化博物館発行の『明石の野鳥』をいただきました。
著者は、丸谷市長ご夫妻です。
2006年(平成18年)の刊行で、昨年に改訂されています。
丸谷市長の素敵なサイン入りです。

本書では、明石で見られる主な野鳥80種が、写真入りで紹介されています。
このうち半数の40種が、カイツブリ、ゴイサギ、マガモ、バン、タシギ、カワセミなど水辺で見られる野鳥です。
明石川が流れ、たくさんのため池がある明石の自然の特徴が、野鳥の種類にも現れているようです。
野鳥の種類毎に、生息地、見分け方、餌の取り方などの行動特性が、美しい写真とともに記されています。
たとえば、カワセミは、「コバルトブルーに輝く背中と、おなかのオレンジがとてもきれいな鳥です」。
「大きさ7㎝ぐらいまでの小魚をエサにし」、「とった魚は木に何度もうちつけた後、頭からまるのみします」とあります。

野鳥図鑑のような鳥の紹介にとどまらず、鳥が空を飛ぶ仕組みが分かりやすく解説されていたり、野鳥が森を育てる上で大きな役割を果たしていることが説明されていたり、とても充実した内容になっています。
増えた野鳥、減った野鳥に関する考察もあります。
カワウが激増していることは知っていましたが、かつて珍しい鳥だったカワセミが増えていることを知り、うれしかったです。
一方で、ヨシ原の減少で数が減ったオオヨシキリなどの鳥もあります。
野鳥を通して、人間と生き物との関係について考える機会をいただきました。