久元 喜造ブログ

2018年3月24日
から 久元喜造

「神戸開港と神戸事件」


今年は、明治維新、そして兵庫県制150年の年です。
昨年は、神戸開港150年記念事業が一年を通して開催されました。
1868年は、我が国にとり、そして神戸にとっても、近代の幕開けを告げる重要な年でした。
激動の時代にあって、予期せぬ事件も発生しました。
いわゆる神戸事件です。

1868年2月4日(旧暦1月11日)、三宮神社前を進んでいた備前藩の隊列の前を外国人が横切り、この外国人を備前藩砲兵隊第三隊長、瀧善三郎の手槍が直撃、さらに発砲を加えたという事件です。
間もなく海岸に外国兵が散開して備前藩の隊列に射撃を開始し、数時間の銃撃戦となりました。

神戸史談」1月号は、「神戸開港と神戸事件=近代日本外交史の第一頁=」と題された島田清氏の論文を掲載しています。
この論文は、神戸開港120年の年、1987年(昭和62年)に掲載されたものの復刻です。
当時の政治情勢、世情、事件勃発までの経過とその後の対応がドキュメンタリー風に記され、興味深く読ませていただきました。

事態収拾のための交渉は、2月8日(旧暦1月15日)、運上所、今の税関で行われました。
フランス、英国など各国の公使と東久世通禧を代表とする新政府の幹部が向かい合いました。
外国側の要求は発砲を命じた士官の極刑、関係諸国への陳謝で、明治政府は備前藩を説得してこれを受け入れ、瀧善三郎の切腹は、3月2日(旧暦2月9日)、神戸の永福寺において各国公使検証のもとに行われました。
島田論文のサブタイトルが示すとおり、この交渉は「近代外交の第一ページ」であり、発足間もない明治政府の事態収拾能力を内外に示す結果となりました。

 


2018年3月22日
から 久元喜造

介護保険料の上昇を抑えるために


65歳以上の介護保険料は、3年毎に改定されます。
第7期(平成30年度から32年度)の神戸市の介護保険料は、6,260円になります。

介護サービスの費用は、利用者負担を除き、国・県・市が公費で50%を負担し、27%を40~64歳の保険料で、23%を65歳以上の高齢者の保険料で賄う仕組みになっています。
充実した介護サービスを提供するとともに、その経費の増加を緩やかなものとし、保険料の上昇を抑制することが大きな課題です。

保険料の上昇を抑制するためには、要介護認定率(65歳以上の方のうち、介護保険サービスが利用できると認定された方の割合)の上昇を抑制することが重要です。
近隣の大都市の保険料と比較すると、神戸市の保険料は低い水準にとどまっていますが、これは、要介護認定率が相対的に低いからです。
神戸市 6,260円(平成29年12月末の要介護認定率 20.1%)
大阪市 7,927円(同 24.6%)
堺市  6,623円(同 22.4%)
京都市 6,600円(同 21.7%)

健康寿命の延伸が要介護認定率の抑制につながります。
「フレイル」-年齢とともに筋力や心身の活力が低下し、介護が必要な状態に移行しやすい状態にならないようにしていくことが必要です。
65歳までは、主にメタボなどの生活習慣病の予防がポイントとなります。
65歳ごろからは、「身体活動」「栄養」「社会参加」を柱としたフレイル予防が大切になります。
健康寿命を延伸し、元気で長生きできる地域社会をつくることは、それ自体とても大切なことです。
そして、それがシニア世代、現役世代の負担を減らすことにつながります。


2018年3月18日
から 久元喜造

「民主主義って本当に最良のルールなのか、世界をまわって考えた」


本書は、2011年12月から2013年2月まで、朝日新聞に連載されたシリーズ「カオスの深淵」をまとめたものです。
シリーズの問題意識は、「ひょっとして、民主主義や市場や選挙などが、うまく機能しなくなっているのではない」か、ということだったようです。
「民主主義が、民意をうまくすくい取れなくなっているのではないか」-そんな疑問を抱えた記者のみなさんは、橋下徹市長の大阪、村長の無投票当選が続く大分県姫島村、市長のリコールと議会の解散を繰り返す鹿児島県阿久根市へ、さらには、ニューヨーク、フィンランド、フランス、ベネズエラ、ギリシア、ブータン、ハンガリーなどへと散り、取材と識者へのインタビューを繰り返します。

連載時から6,7年しか経っていないのに、民主主義を取り巻く状況や各国の国情、リーダーたちの顔ぶれなどが大きく変わってしまったことを痛感します。
同時に、本書で指摘されている本質的な問題は、今日まったく解決の糸口すら見いだせていません。
「市場はそんなにえらいのか」の章で語られる民主主義と市場との相克は、欧州においてとりわけ深刻化しています。
1000分の1秒を争い、コンピューターで取引する高頻度取引は一層肥大化し、金融と実体経済の乖離はグローバルな規模で進行中です。
「立ちすくむ税金」の章で取り上げられているテーマも、 とてもリアルで考えさせられます。

「頼りなさそうな民主主義だが、より良い手段がほかにあるわけではない」 ―そのとおりだと思います。
「正しい答え」が見つからないことを知りながら、「正しい問い」を探すために費やされた膨大な取材や執筆、編集の成果を多としたいと思います。

 


2018年3月16日
から 久元喜造

トイレを洋式に、そしてきれいに。


神戸市役所で働き始めた5年ほど前のことです。
市役所も含め、神戸市内の公共トイレに和式が多いことに気づき、ある幹部に話したところ、
神戸市民は、和式が好きなんですわ
という答えが返ってきたことがありました。

しばらくして、どうもこの答えは市民感覚からずれているのではないかと考え、トイレの洋式化に舵を切ることにしました。
それなりに進んではいるのですが、さらに加速させたいと考え、今市会で議決をいただいた2月補正予算を中心に、トイレの改善策を講じることにしました。
市の施設全体で、887基を洋式化し、47基を増設、さらに文化・観光施設において、164基の温水洗浄便座を設置します。

まず大事なのは、小中学校のトイレの洋式化です。
2月補正予算では、市立小中学校において604基の洋式化を進め、洋式化率も約49%から約54%まで引き上げます。
平成33年度までに洋式化を完了させます。
少数ながら和式便器を希望する児童・生徒もいることから、洋式化率の目標は約70%にしています。

次に公園のトイレについては、2月補正予算で129基の洋式化を行うとともに、平成30年度に「公園トイレチェンジアクションプラン」を策定し、平成32年度までに公園全体で洋式化率約70%をめざします。

また、年間50万人のみなさんにご利用いただいている 神戸文化ホール (上の写真)では、しばしば女性用トイレの前に長蛇の列ができています。
そこで、女性用トイレを61基から106基に45基増設するとともに、洋式化率も、約75%から約93%まで引き上げます。

トイレのきれいなまちをめざし、改善・充実を進めます。


2018年3月12日
から 久元喜造

的場順三氏は、喋り過ぎではないですか。


平成の時代が終焉に近づく中、次の元号が何になるのか、どのようにして決まるのかについて関心が集まっています。
マスメディアが今の元号である「平成」がどのように決まったのかについて、関係者に取材するのも当然のことです。
しかし、デリケートな問題であるだけに、当時の関係者が何でも喋ってよいというものでもないと思います。
とくに、実務を支える官僚は、慎重な発言が求められるように思います。

こうした観点からは、朝日新聞(2018年3月5日)に掲載された元内閣内政審議室長、的場順三氏の発言には正直驚きました。
的場氏は、「元号の考案を依頼する識者」について4つの具体的な基準を挙げ、「出身大学は東大だけでなく、京大など西日本地域の大学を含めることにも留意した」と述べておられます。
また、当時の官房長官、故小渕恵三氏が以前、元号懇談会で出されたある意見について証言しておられましたが、的場氏はその意見はご自身が「とっさに思いつき、懇談会の席で発言した」と答えておられます。
官僚はあくまでも黒衣です。
官僚が重要な人事に関与したり、元号の決定に影響を与えたりしたと誇示するが如き発言は、適切なのでしょうか。

元号は天皇の在位と直結する一方、天皇には元号を決定する権限はなく、内閣が政令で定めるという微妙な緊張関係を孕んでいます。
元号の制定過程についての回想は政治家や学識経験者に委ね、官僚が奔放な発言をするのは慎むべきではないかと考えます。
官僚には退職後も守秘義務が課せられるのであり、とくに元号のような微妙な問題については、矩を超えないようにしていただきたいと希望します。


2018年3月10日
から 久元喜造

「土地 マイナンバーで管理」


昨日(3月9日)の読売新聞朝刊の一面トップの見出しです。
土地 マイナンバーで管理 政府検討
「「所有者不明」に歯止め」

「増え続ける所有者不明土地に歯止めをかけるため、政府は登記簿や戸籍などの関連データをマイナンバーで一括管理することを検討している」という内容です。
現行制度では登記は義務ではないため、登記簿の情報は不正確で、このことが所有者不明土地問題が生じている大きな要因とされてきました。
マイナンバーが活用されることになれば、登記簿情報の正確性が格段に向上します。
たとえば、自治体に死亡届が提出されると、法務局が所有者の死亡を把握し、相続人に登記を促すことができます。
登記の住所変更の手続きも、自動的に行われます。
自治体も、登記簿上の所有者を把握することが容易になり、用地買収や老朽危険家屋への対応を進めることにつながります。
記事によれば、政府は、今年の夏にまとめる「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)にこの方針を盛り込み、早ければ、来年の通常国会にマイナンバー法改正案などを提出する考えのようです。

私は、昨年12月25日、所有者不明土地問題への対応策を考える「国土計画シンポジウム」(上の写真)に参加したとき、マイナンバーの活用を提言したことがあり、今回の報道をたいへん喜んでおります。
所有者不明土地問題は、ブログでも何回も取り上げてきたとおり、官民挙げて取り組んでいかなければならない重要な政策課題です。
シンポジウムではマイナンバーの活用について反対の意見も出されましたが、誤解を解く努力を重ね、早期実現に向けて取り組んでいく必要があります。


2018年3月6日
から 久元喜造

神戸空港には市税は使われていない。


少し前のことになりますが、2月18日の日経新聞に地方空港の収支に関する記事が載っていました。
地方空港は、訪日外国人観光客の増加を背景に便数が増加しているが、収支は赤字で一般財源が投入されている、また、国管理空港の工事費負担も多額に上っている、という内容でした。

空港事業は、道路や公園などと同様に公共事業で、国や地方自治体が一般財源、すなわち税金を投入することは初めから想定されています。
ところが、神戸空港には、建設にも管理にも市税は使われていません。
これは、かつて空港建設について市民の賛否が分かれ、また、震災後の厳しい財政状況の中で復興を進める必要があったことから、市会で「市税は一切使わない」と決議されたからです。
神戸空港は、設置自治体の税金を使わずに建設・管理が行われている、我が国で唯一の地方管理空港なのです。

この方針は、4月の民営化後も変わりません。
神戸空港の建設のために発行した市債の残高は、平成30年度末見込みで165億円で、これに新都市整備事業会計からの借入金やこれらの利子を合わせた債務は454億円となる見込みですが、民営化後は、㈱関西エアポート神戸から支払われる運営権の対価などの財源で確実に返済していきます。

一方、空港の利用状況は好調を維持しています。
昨年は、300万人を越える方々にご利用いただくとともに、平均で8割近い搭乗率でした。
このような状況を受け、㈱関西エアポート神戸株式会社が発表した中期計画では、5年後の目標としていた旅客数300万人を上方修正し、327万人としました。

明るい雰囲気の中、民営化の日を迎えられることをありがたく感じています。


2018年3月4日
から 久元喜造

野里洋『汚名 第26代沖縄縣知事 泉守紀』


戦前最後の沖縄県知事、島田叡氏が発令されたとき、前任の知事はすでに沖縄から東京に出張中で、その後香川県知事に任じられました。
本書は、この人物、第26代沖縄県知事、泉守紀氏を取り上げたノンフィクションです。
泉氏には、米軍上陸が必至の沖縄から「逃げ出した」との「汚名」が着せられてきました。
その実像はどのようであったのか・・・

沖縄戦から40年近い歳月が流れた昭和58年10月、著者は、埼玉県所沢市の古い屋敷を訪ねます。
樹木が生い茂る広大な屋敷の門柱には「泉守紀」と記された表札が。
著者は屋敷を二度訪ね、泉氏の夫人、そして泉氏本人にも面会します。
元知事は、黒い革表紙の日記帳に、そのときどきの出来事を万年筆で几帳面に書き残していました。
筆者は、この日記を手掛かりに泉氏の足跡をたどります。

沖縄に赴任した泉知事は、ほどなく軍と激しく対立するようになりました。
怒りを込めて、次のように記します。
<兵隊という奴、実に驚くほど軍紀を乱し、風紀を紊す。皇軍としての誇りはどこにあるのか・・・>
米軍機の来襲が相次ぐ中、行政の長である知事の苦悩は深まるばかりでした。
任務への責任感、その一方で、できれば立ち去り、愛妻と暮らしたいという思いが交錯します。
そして上京し、沖縄を去ることになるのです。

泉氏に対する沖縄県民の視線は戦後もずっと冷たいものでしたが、筆者は、泉氏を知る人々の証言を織り交ぜながら、当時の状況を忠実に蘇らせようと試みます。
行間からは、当人の心情に寄り添いながら、先入観を持つことなく、過酷な時代を生きた人々の姿を公正な視点で書き残したいという筆者の思いが伝わってきました。


2018年3月1日
から 久元喜造

環境DNA調査に挑戦


いま、川や池から水を採取して分析するだけでそこに棲む生物が分かる「環境DNA調査」が注目を集めています。
神戸市は、この環境DNA調査を活用して、希少な生物や外来種を調査する試みを、全国の自治体に先駆けて行います。
神戸市会に提案されている平成30年度予算案に、必要な経費を計上することにしました。

DNAは、生物の設計図とも言われており、全ての生物の細胞にはDNAが存在します。
動植物が排泄したり、組織片が体から離れたりして水中に存在するようになったDNAの断片を「環境DNA」といい、自然の水にはこの環境DNAが多量に含まれています。
環境DNA調査の利点は、川や池の少量の水を分析するだけで、生息する生物の把握ができることです。
実物を発見できなかった生物でもそこにいる可能性があることがわかり、これまで実物を見ることができなかったために「存在しない」とされてきた生物の生息可能性を確認することができます。
調査に要する手間や費用も大幅に減らすことができます。

現時点では調査の対象となる生物種が限られているため、来年度は、ヒダサンショウウオなどの希少な生物の生息の確認、外来種であるアカミミガメの駆除効果の検証に活用します。
実績を積み重ね、対象種の拡大にもつなげていきます。
環境DNA調査技術は、神戸大学発達科学部の源利文准教授が先駆的に取組んで来られました。
神戸大学と連携して取り組み、技術の確立と環境アセスメントなどへの活用を模索していきたいと考えています。


2018年2月26日
から 久元喜造

美術館の入館料を高校生以下は無料に。


神戸市立の博物館、美術館としては、旧居留地に「市立博物館」(現在リニューアル工事中)があり、六甲アイランドには、神戸を舞台に活躍した芸術家の作品を集めた「小磯記念美術館」と「神戸ゆかりの美術館」、ファッションをテーマにした「神戸ファッション美術館」(上の写真)があります。

私は、かねてより、若い世代のみなさんが美術作品に親しむとともに、美術を通して神戸の歴史への理解を深めることはとても大切ではないかと考えてきました。
そこで、昨年の市長選挙では、博物館・美術館の入館料を、市内高校生の料金を無料にし、大学生には特別料金を設定することを公約に掲げました。

入館料の改定については条例の改正が必要ですので、2月市会に、「小磯記念美術館」、「神戸ゆかりの美術館」、「神戸ファッション美術館」の入館料を改定する条例案を提案しました。
美術館では、常設展・企画展のほかに特別展が催されますが、3つの美術館とも、特別展も含め、高校生以下は無料、大学生は半額とします。
条例案が可決されれば、今年の4月から実施します。
なお、「市立博物館」は、来年11月までリニューアルのため休館しますので、リニューアル後に軽減策を講じることとします。

今回の措置は、市内在住・在学かどうかを問わないことにしています。
神戸市域外の高校生、大学生のみなさんにも六甲アイランドを訪れてもらい、優れた美術品を鑑賞してほしいと願っています。