本書は、2011年12月から2013年2月まで、朝日新聞に連載されたシリーズ「カオスの深淵」をまとめたものです。
シリーズの問題意識は、「ひょっとして、民主主義や市場や選挙などが、うまく機能しなくなっているのではない」か、ということだったようです。
「民主主義が、民意をうまくすくい取れなくなっているのではないか」-そんな疑問を抱えた記者のみなさんは、橋下徹市長の大阪、村長の無投票当選が続く大分県姫島村、市長のリコールと議会の解散を繰り返す鹿児島県阿久根市へ、さらには、ニューヨーク、フィンランド、フランス、ベネズエラ、ギリシア、ブータン、ハンガリーなどへと散り、取材と識者へのインタビューを繰り返します。
連載時から6,7年しか経っていないのに、民主主義を取り巻く状況や各国の国情、リーダーたちの顔ぶれなどが大きく変わってしまったことを痛感します。
同時に、本書で指摘されている本質的な問題は、今日まったく解決の糸口すら見いだせていません。
「市場はそんなにえらいのか」の章で語られる民主主義と市場との相克は、欧州においてとりわけ深刻化しています。
1000分の1秒を争い、コンピューターで取引する高頻度取引は一層肥大化し、金融と実体経済の乖離はグローバルな規模で進行中です。
「立ちすくむ税金」の章で取り上げられているテーマも、 とてもリアルで考えさせられます。
「頼りなさそうな民主主義だが、より良い手段がほかにあるわけではない」 ―そのとおりだと思います。
「正しい答え」が見つからないことを知りながら、「正しい問い」を探すために費やされた膨大な取材や執筆、編集の成果を多としたいと思います。