久元 喜造ブログ

2018年11月29日
から 久元喜造

街を奏でろ!「駅ピアノ」の音空間


NHK BSのドキュメンタリー「駅ピアノ」の録画を見ました。
舞台は、チェコの首都プラハ。
プラハの鉄道駅で最も古いマサリク駅に、1台のピアノが置かれています。
さまざまな人がピアノの前に座り、思い思いの曲を奏でていきます。

それぞれの事情を抱えたプラハの市民、この街で音楽を学んでいる留学生、たまたまこの街を訪れた観光客のカップル・・・
びっくりするくらい上手な弾き手もいれば、たどたどしく、うろ覚えの曲を弾く子どももいます。
定点カメラは、そんな駅の佇まいを淡々と捉えます。

駅を行きかう多くの人々は、「駅ピアノ」が別に珍しいものではないようで、ただ通り過ぎていきます。
そうかと思えば、ときどき立ち止まってピアノの音に耳を傾ける人もいます。
弾き手と通りすがりの人が会話を交わすこともあるようで、このピアノの前で出会ったことが縁で、付き合いが始まり、結婚にこぎつけたる人もいるようです。

「駅ピアノ」について教えてくれたのは、市役所の幹部でした。
「神戸ではむずかしいでしょうね」と申し上げたのですが、若手有志がトライしてみたいと言っています、とのことでした。

いざ進めるとなると賛成、反対両方の意見があるでしょうし、ひとつひとつ解決していかなければならない課題もたくさん出てくるでしょう。
それでも、若手有志のみなさんが、「駅ピアノ」の可能性を求めて、神戸の街を歩き、街の音風景を感じながら、街のにぎわいのためにどうすればよいのかを考えてくれることは、とてもよいことではないかと思います。
そのような試行錯誤を経て、大方の理解が得られ、「駅ピアノ」が実現できれば、とても素晴らしいことと感じます。


2018年11月26日
から 久元喜造

神戸市職員採用試験「デザイン・クリエイティブ枠」


平成31年度(2019年度)の神戸市採用試験に、新たに「デザイン・クリエイティブ枠」を新設することとし、先日の定例記者会見で発表しました。
美術や音楽、映像、デザインなど芸術分野の素養を備えたみなさんに入ってきていただき、人材の多様化を図ることが目的です。

神戸市をはじめ、多くの自治体では、試験区分は大きく、事務系と技術系に分かれます。
事務系の試験を受ける人材の多くは、法学部、経済・経営学部出身で、技術系は、工学部、理学部、農学部出身です。
これはこれでよいのですが、これからの大都市経営を考えるとき、もっと多様な人材に入っていただく必要も感じてきました。

人口減少時代を迎え、もはやいたずらに都市の規模を拡大させていく時代ではありません。
むしろ、都市の価値を上げていくことが求められる時代に私たちは生きており、いかに創造性を発揮して魅力ある街づくりを展開し、生活の質を上げていくことが必要です。
こうした認識に立つとき、魅力のある人材群として立ち現れてくるのが、芸術系の大学、短大、高専に学んだみなさんです。

自治体はこれまで芸術系のみなさんに目を向けてきませんでした。
現実には極めて少数ながら、これらの学校、学科を卒業した職員が存在し、活躍してくれています。
しかし、彼ら、彼女たちは、予備校などに通い、自治体の試験のために特別の勉強を余儀なくされたと思われます。
そのような苦労を経るのではなく、真正面から芸術系の若者たちを迎えたい、そして、神戸市役所で思う存分、能力を発揮してほしいと思います。

現時点における受験資格、試験日程などについては、神戸市ホームページ をご覧ください。


2018年11月24日
から 久元喜造

見田宗介『現代社会はどこに向かうか』

どういうわけか、たぶん違う書店で、本書を2冊購入してしまい、1冊を大学時代の同級生に送りました。
彼は1970年代初め、気鋭の若手社会学者として頭角を顕していた見田宗介助助教授の講義を聴き、何冊かの著作を読んでいたからです。
すぐに、「楽天的だなあ」という感想を送ってくれました。
確かに、著者の以下のような問題意識は、楽天的と言えるかもしれません。

「近代に至る文明の成果の高みを保持したままで、高度に産業化された諸社会は、これ以上の物質的な「成長」を不要なものとして完了し、永続する幸福な安定平衡の高原(プラトー)として、近代の後の見晴らしを切り拓くこと」

その上で、こう述べるのです。

経済競争の強迫から解放された人類は、アートと文学と思想と科学の限りなく自由な創造と、友情と愛と子どもたちとの交歓と自然との交感の限りなく豊饒な感動とを、追求し、展開し、享受しつづけるだろう

ひとり居酒屋のカウンターに佇むひとときを持つことができたとしたら、この美しい文章を反芻しながら、冷や酒をちびちび味わうことでしょう。
現実としての「永続する幸福な安定平衡の高原」は見えないかもしれないが、ある種の幸福感に浸ることはできるだろうと想像します。

著者は、日本の1970年代の若者(つまり、われわれの世代!)と、現代の若者の意識を調査し、とりわけ現代の若者に、生活満足度の増大と保守化の傾向が見られることを指摘します。
「未来に希望を託し今を犠牲にする」生き方から、「今を満足に生きること」への変化です。
そこからさらに進んで、「幸福感受性の再生」を果たすことができるかどうかが問われていると感じました。


2018年11月20日
から 久元喜造

自由にモノが言える市役所になってほしい。


きょうで、市長に就任して、5年になりました。

神戸市は、我が国の自治体の中でも素晴らしい実績を誇り、名誉ある地位を占めてきました。
多くの神戸市職員は、震災時、自らを犠牲にして、献身的に対応に当たりました。
外から神戸市役所に入ってきた私は、これまでの伝統を尊重し、そこから学びたいと思ってきました。
その思いは、今でも変わっていません。

同時に、神戸市役所には、ある種の閉鎖的雰囲気があることも、少しずつ感じるようになりました。
1980年以前に遡るとも言われる「ヤミ専従」は、そのような雰囲気の中で続けられてきたのではないかと想像します。
閉鎖的空間の中で、外の世界の非常識が「常識」とされ、その「常識」に対して異を唱えることができない雰囲気がつくられてきた可能性があります。

仕事をしているはずの職員がほとんど職場にいないことは、周囲のみなさんはわかっていたはずです。
気づいていながら、おかしいと声を上げられない。
疑問の声すら発することができない。
おかしいことを目の当たりにしながら、見て見ぬふりをしないと生きていけない。
そのような職場に身を置くことは、良心的に生きていこうとしてきた人々にとっては、つらいことであったはずです。

ようやく、理不尽な状況を変えていく道筋がつけられようとしています。
まだまだ、逆方向のベクトルが働いている現状も聞こえてきますが、そのような抵抗を排除して、明るい、自由にモノが言える市役所を、みんなでつくりあげていきたいものです。

「市役所改革」は、私がお約束した政策の中で最も立ち遅れています。
心ある職員のみなさんにしっかりとサポートしていただき、断固たる決意で臨んでいきます。


2018年11月18日
から 久元喜造

麻田雅文『日露近代史』


折しも、安倍総理がプーチン大統領と会談され、二島先行返還論がマスメディアなどで議論されている中、タイムリーな読書体験となりました。
ここのところテレビや新聞によく登場する元外務省欧亜局長、東郷和彦氏の祖父 東郷茂徳 は、太平洋戦争開戦時の外務大臣で、本書にも頻繁に登場します。

サブタイトルに、「戦争と平和の百年」とあるように、幕末における日露の接触に始まり、1950年の東郷茂徳の病没までを描きます。
年代記風の叙述ではなく、それぞれの時代おいて日露、日ソ外交に積極的に関与した政治家に焦点が当てられます。

まず、日露戦争前後までの明治期ですが、主人公は 伊藤博文2018年1月28日のブログ) です。
融和的な対ロシア外交を進め、その背後には明治天皇が控え、皇室外交を通じてロシアとの友好を深めていきました。

日露戦争の後、日露協約が締結され、日露は同盟国になりました。
伊藤の暗殺後、大きな役割を果たしたのは、後藤新平2018年7月1日のブログ)でした。
満鉄総裁として、ロシアとの提携を進めるとともに、1928年1月、モスクワでスターリンと会談したことは、本書で初めて知りました。

満州事変から日ソ中立条約までの時代の中心人物は、松岡洋右です。
この頃からの政府の対応は、読むのが苦痛になるほど一貫性を欠き、松岡をはじめとする要路にあった人々の対応はあまりに無責任でした。
戦局は悪化し、破局を目前にした東郷茂徳などの重臣たちは、ソ連の和平仲介に一縷の望みを託すのですが、その結果は悲劇的でした。

これから未来志向でロシアとの連携協力を進める上でも、過去の日露関係を頭に入れておくことは重要だと感じます。


2018年11月15日
から 久元喜造

スマスイ「『尼崎産魚』をひもとく」展


いま、須磨海浜水族園では、企画展「『尼崎産魚』をひもとく~江戸時代はおさかな天国!?~」が開催されています。
『尼崎産魚』 とは、江戸時代中期に描かれ、尼崎藩領内で見ることができた海産物をカラーで記録した書籍で 、尼崎市教育委員会が所蔵されています。
この書籍と実際の生きものを照らし合わせながら、当時のこのあたりの海にはどのような生きものがいたのかについて紐解いていく企画展です。

きっかけは、だいぶ前に目にして朝日新聞の記事でした。
「尼崎藩古文書の魚の正体は?」の見出しの記事で、『尼崎産魚』の存在と、この古文書の中に登場する魚などが紹介されていました。
厚かましいお願いとは感じつつ、尼崎市の 稲村和美市長 に直接電話をさせていただき、『尼崎産魚』に関する展覧会を、須磨海浜水族園で開催することができないか相談いたしました。
稲村市長から、前向きの答えをいただき、関係者間で協議が進められ、須磨海浜水族園での企画展が開催される運びとなりました。

今回の企画展では、『尼崎産魚』原本とともに、『尼崎産魚』に掲載されている、カンパチ、コンゴウフグ、マヒトデ、タコノマクラなどが展示されています。
江戸時代の人々は海の生きものをどのように捉え、表現したのか?
今日では見られない、あるいは謎の生きものはいたのでしょうか?

神戸市埋蔵文化センターの学芸員とスマスイ飼育員がタッグを組み、生物展示を通して書籍をさまざまな角度で解明していきます。

企画展は、12月2日(日曜)まで、本館1階、波の大水槽前エントランスホール東壁で開催されています。
江戸時代から続く、「おさかな天国」の豊かな恵みを感じていただければ幸いです。


2018年11月14日
から 久元喜造

「みんなの掲示板」の画びょう


神戸市では、主要な駅前や繁華街に「みんなの掲示板」を設置しています。
ネット広告が花盛りですが、「みんなの掲示板」のようなアナログのやり方も、意味があるのではないかと思います。
少しは街のにぎわいに役立つかもしれないと思い、去年から今年にかけて、西神山手線、山陽電鉄、神戸電鉄沿線など市街地西北部を中心に、10か所増設することにしました。(2017年12月21日のブログ
私は、市内を移動するとき、少しでも時間があれば、駅前や公園などをよく見に行くことにしていますので、「みんなの掲示板」も目に入ります。

あちこちの掲示板を見て、少し気になるのは、掲示板に刺してある画びょうです。
ごらんのとおり、昔からある、古典的な金属製のものが使われています。

画びょうは、掲示物を貼る方が持参することになっていて、委託業者が月末に掲示物をはがすとき、画びょうも撤去することになっているようです。
これで良ければよいのですが、むしろ、簡単に押したり、抜いたりできる押しピンを、掲示板上に用意しておく方が便利だし、委託業者の方の手間も楽になるのではないかと感じます。
もちろん、この辺の事情は担当者が一番よく知っているでしょうから、利用者にとり便利で、掲示板の管理も楽になるような方法を考えてもらえればと思います。

市長にはもっとほかに大事なことがあるやろ」、と思われるかもしれませんが、街中で起きていること、神戸市が設置している施設・設備の状況をできるだけ自分の目で見て、現状でよいのかどうか、常に利用者本位の視点で改善していくことは、必要ではないかと感じています。


2018年11月11日
から 久元喜造

環境DNAによる生物分布探査


昨日の午前中、王子動物園ホールで「生物多様性シンポジウム」が開催されました。
環境保全活動を行っている団体、高校生などのみなさんに多数参加していただき、私から、これまでの活動に対し感謝を申し上げました。

シンポジウムでは、まず「環境DNA:水をくんで生物分布を知る新たな手法」と題された、神戸大学大学院人間発達環境学研究科 源利文 准教授の講演が行われました。
神戸市では、源准教授のご指導を得て、環境DNA調査に取り組んでいますが(2018年3月1日のブログ)、直接先生のご講演を聴くことができ、たいへん勉強になりました。

種特異的検出」と呼ばれる調査法では、ある特定の種の在・不在が明らかになります。
実際にこの手法により、神戸市北区とその周辺の82の池を調査したところ、7つの池で、カワバタモロコのDNAが検出され、実際に、6つの池でカワバタモロコが捕獲されたそうです。
また、希少種のオオサンショウウオと、外来種のチュウゴクオオサンショウウオは、外見での区別は困難ですが、この手法を使うと判別することができます。

メタバーコーディング」は、複数の種をまとめて検出する手法です。
兵庫県内の河川、225地点でこの手法により生物分布調査をしたところ、在来種 43種、外来種 15種のDNAが検出されました。
在来種のうち、16種は希少種です。

生物分布を正確に知ることは、希少種を含む生物を保護し、生息環境の保全のあり方を検討する上で大きな手掛かりとなります。
今後とも、環境DNA調査手法を有効に活用して、できる限り正確に生物分布を把握し、生物多様性の保全に役立てていきたいと考えています。


2018年11月8日
から 久元喜造

東遊園地の変貌


少し前のことになりますが、10月20日(土)に「灘の酒と食フェスティバル in 神戸」が、東遊園地 で開催されました。
ものすごい盛況でした。
たくさんのみなさんが、芝生の上で、灘五郷をはじめとした兵庫県の日本酒を楽しんでいました。

振り返れば、以前、東遊園地は、土がむき出しのグラウンドでした。

東遊園地が大きく変わったのは、2年前にスタートした芝生化の実験(2016年6月14日のブログ)からです。
公園部の総力を挙げた本格的な実験の結果、いったんは擦り切れた芝生も、春から夏にかけて一定期間の養生や部分的な補植を経て、回復させる目途がたちました(2017年5月7日のブログ)。

平成28年からは、アーバンピクニック も始まりました。
拠点施設のカフェとアウトドアライブラリーを設置し、芝生広場を活用した演奏会などさまざまなプログラムが開催されてきました。

土曜日には地産の農産物を扱うファーマーズマーケット2017年12月29日のブログ)が開催され、アーバンピクニックとの相乗効果でにぎわいを見せています。

夜にもさまざまな催しが行われています。

アーバンピクニックやファーマーズマーケットのような新しい公園の使い方には、木々の緑と芝生の緑がおりなす景観や雰囲気が欠かせません。

今、東遊園地では、ルミナリエの準備が始まっています
これから、東遊園地は、冬の季節を迎え、来年には、1.17のつどいが開催されます。
神戸にとり、とても大切な行事ですが、芝生には過酷な環境になります。
芝生がこれらの試練に耐え、また来春、元気に芽ぶき、たくさんの皆さんを迎えてほしいと願っています。


2018年11月5日
から 久元喜造

「健康的で文化的な最低限度の生活」


関テレで放映されていたドラマを録画していたのですが、ようやく見終わりました。
すでに9月中旬に放映が終了していますので、時期外れの内容になってしまい申し訳ありません。

安定志向で区役所に入った新人女性公務員が、生活保護の担当課に配属され、ケースワーカーとして奮闘する姿を描いたドラマです。
何か月か前に、福祉職のみなさんと意見交換をしたときに、このドラマのことを話題に出したところ、少なくとも多くの職員がそんなに違和感を感じていないようでした。
もちろん、現実の方がはるかに複雑で困難なケースが多いようですが、たんねんに取材してドラマが制作されたのではないかと思われます。

前にも書きましたが、生活保護行政は、自治体の仕事の中でもひじょうに難しい分野の一つです。(2014年9月24日のブログ
とくに区役所のケースワーカーのみなさんは、日々厳しい現実と格闘しています。
そのような職場に、社会経験がない新規採用職員を配属することが適切なのかどうかは難しい判断で、試行錯誤が続いています。
若手職員のみなさんと議論したときにも、両方の意見がありました。

以前人事当局からは、「職員のなり手が少ないので、新人を配属せざるを得ないのです」という説明を聞いたことがありますが、大いに違和感を感じました。
自分たちがやりたくないから、何もわからない新人にその仕事を押しつける、という発想は倒錯しています。
困難な職場であるからこそ、人事当局を含めた本庁の管理職が職場の実態をしっかりと把握し、少しでも職員のみなさんの苦労を和らげ、気持ちよく仕事ができる職場環境を整えていかなければなりません。