久元 喜造ブログ

2020年1月6日
から 久元喜造

神戸を見違えるような街に。


今年、神戸は、震災から25年を迎えます。
この間、市民、企業、行政が力を合わせ、意見の違いを乗り越え、街を蘇らせることができました。
その一方で、震災がなければできたこと、やらなければならなかったことに取り組むことができず、先進的な街づくりは先送りにされてきました。
私たちは、この遅れを取り戻し、神戸をさらに魅力的な街にしていかなければなりません。

神戸が日本を代表する大都市に成長した原点は、港です。
神戸は、交通の要衝であり続けてきました。
陸・海・空の交通の拠点としての神戸の強みを、さらに発揮していくことが必要です。
大阪湾岸道路、神戸西バイパスの工事は、いよいよ本格化します。
昨年、神戸空港に関する規制緩和が初めて実現し、新規就航路線も続々と開設されました。
今年は運航時間の延長も実現します。
神戸の港湾と空港が、一体となって関西全体の発展に寄与できるよう取り組んでいきます。

公共交通網が充実している強みを活かし、バランスのとれた街づくりを、急ピッチで進めていきます。
都心に高層タワーマンションを林立させて、人口を増加させていく政策はとりません。
三宮の駅前では、商業・業務機能に特化した整備を進め、その周囲では、居住機能と共存できる街づくりを進めます。
都心に人口を一極集中させるのではなく、JR、私鉄、地下鉄、ポートライナー、六甲ライナーの交通ネットワークを活かし、駅前を活性化させ、快適な街づくりをすすめます。
拠点性の高い 名谷西神中央垂水 の駅前を、魅力的で美しい公共空間に再生させ、民間投資の誘導につなげていきます。
神戸の歴史を大切にしながら、神戸を見違えるような街にしていきましょう。


2019年12月30日
から 久元喜造

本庶佑『がん免疫療法とは何か』


ノーベル生理学・医学賞を受賞され、神戸医療産業都市推進機構理事長としてご指導をいただいている本庶佑先生のご著書です。
がんとは何か、から説き起こされ、画期的ながん治療法、PD−1抗体による免疫療法がどのようにして確立されたかについて説明されます。
門外漢の私にとり、すべて理解できたわけではありませんが、PD−1抗体とは何か、それがどのように発見され、試行錯誤を経て免疫療法として使われるようになったかについて、分かり易く説明されています。

PD−1抗体の章の後に置かれているのは、「第3章 いのちとは何か」です。
ここでは、人間を含む生物の生・老・病・死が幅広い文脈の中で語られます。
「第4章 社会のなかの生命医科学研究」では、科学技術政策に関する今日的課題に関するお考えが示されています。
本庶先生によれば、「物理化学の分野では、基本原理が明らかになると、それを実装していくための一定の将来予測が可能」になりますが、生命科学はそうはいきません。
生命科学は、膨大な要素の複雑性・多様性・階層性に関わるからです。
「驚くべき階層性によって保たれた、多重の安全装置を備えたしくみが、まさに「いきる」ということ」だと本庶先生は説かれます。

医学は、一人ひとり異なる遺伝子、それぞれ異なる環境と生活習慣を持った人間に関わります。
医師は、「一般解」ではなく「特殊解」と向き合います。
「生命科学と医療が、一体的に捉えられることで、医療の特殊性ということも十分に評価され、そしてそれを国民が理解し、個人の健康と社会の調和を目指すことが必要である」という本庶先生のお考えは、大きな説得力を持っていると感じました。


2019年12月28日
から 久元喜造

神戸市・都市技術研究室の挑戦


前向きの政策展開につながる説明を聞き、率直に議論する時間は、楽しいひとときです。
先日、有用な新技術を集約的に調査・研究し、実務に繋げる取組みを行っている建設局都市技術研究室から、最近の研究成果について説明を受けましたが、すべて知らない分野の話で、たいへん勉強になりました。

市民生活に不可欠なインフラ施設は老朽化が進む一方、現場は人口減少と高齢化による担い手不足に直面しています。
このような状況への対応方策が、i-Constructionです。
ICTを活用し、測量・設計から施工、維持管理まですべての建設サイクルを三次元データでつなぐ新たな手法です。
都市技術研究室では、i-Construction導入に向け、三次元データの利活用について調査を進めています。
昨年12月には、市役所二号館北にあった花時計を三次元レーザー測量し、VR花時計を作成、市民のみなさんにも体験していただきました。

また、高所や災害現場など危険箇所の点検・調査にドローンを活用する検討も進められています。
人間が足場に登り、壁面を打診棒で叩いて確認する公共建築物の外壁調査を、ドローンに搭載した赤外線カメラの画像診断で代替出来ないか実証試験を行っています。

もちろん、AIの利活用も対象分野です。
カメラ画像から道路の状況を自動で診断出来れば、効率的な維持・管理が実現します。
放置自転車台数の計測、陥没など路面異常の検知を、カメラ+AIで行うシステムの実証開発を進めています。

各職場からベテラン職員が少なくなり、インフラ施設の整備や維持管理を少数の若手職員で担っていく必要があります。
都市技術研究室の調査研究の実用化が楽しみです。


2019年12月21日
から 久元喜造

異常高温対策ワークショップ


季節外れの話題で恐縮ですが、近年の夏の高温は異常です。
海に面し、冬は温暖で、夏は京都などに比べて比較的過ごしやすいとされてきた神戸でも、今年は炎暑の日々が続きました。
神戸市では、打ち水の呼びかけやミストの設置などを行いましたが、もっと抜本的な対応が考えられないのでしょうか。

12月18日、「異常高温対策ワークショップ」を開催しました。
講師は、日本工業大学建築学部の三坂育正教授、神戸大学大学院の竹林英樹准教授、神戸大学の森山正和名誉教授。
コーディネーターは、神戸大学学術・産業イノベーション本部の鶴田宏樹准教授が務められました。

私も最初から最後まで拝聴しましたが、大変興味深い内容でした。
樹冠・藤棚による緑陰、壁面緑化、人工日除け、屋根散水、保水性ブロック塗装、遮熱舗装、水盤などの水景施設、外構への散水、光触媒を塗布した親水性のルーバー(クールルーバー)、冷却ルーバー、冷却ベンチ、ファン付き微細ミストなどなど。
さまざまな試みがすでになされてことがわかりました。
これら一つひとつの効果は小さくても、組み合わせたり、複合化させることによって効果を発揮させることも考えられます。
また、雁木(がんぎ)や融雪パイプなど雪対策で使われている設備が異常高温対策としても効果を発揮する可能性があるとのご指摘も、雪国暮らしの経験のある私には興味深かったです。

参加した本市の技術職員のみなさんも積極的に発言し、具体的な事例を交えて有意義な議論が行われました。
たまたまこの日の午前中に発表した名谷、垂水、西神中央の駅前再整備にも、異常高温対策を盛り込むことができないか、庁内で議論を進めていきたいと感じました。


2019年12月13日
から 久元喜造

取材が報道の原点ではないか。


神戸市立小学校の教員間いじめ問題。
毎日新聞の春増翔太記者は、12月5日の「記者の眼」で、加害教員に対する分限休職処分について、「こうした重みを、久元市長や市教委はどこまで考えたのか」と問題提起されました。
この記事は、全国紙の全国面での署名入り記事です。
このような場面で指摘されるのであれば、やはり取材をして、疑問点を訊いていただきたかったと思います。

もちろん、取材があらゆる場面において求められるとは思いません。
客観的事実、記者会見や国会・議会の答弁などをもとに記事を書かれる場合には、要らないことも多いでしょう。
しかし「どこまで考えたのか」と指摘される以上は、その人物が何を考えているのかについて、取材されて然るべきではないでしょうか。
取材相手が話す内容、そして、相手の視線、表情、しぐさなどから、本当のことを言っているか、いい加減なことを言っているのかを吟味する。
報道の原点は、丁寧な取材にあるはずです。
この点が閑却されたことは、残念です。

今回の分限休職処分については、確かに多岐にわたる論点がありました。
だからこそ、当事者からの取材が大事だったのではないでしょうか。
せっかくこの問題に関心を持っていただいたのですから、議論もしてほしかったと思います。
私は、ツイッターで、定例記者会見に春増記者にお越しいただき、疑問点はとことん訊いてください、と呼びかけました。
しかし、前回の定例記者会見に春増記者の姿はありませんでした。
当日の事情もあったこととは思いますが、たいへん残念です。

報道機関の社会的使命は大きいと思います。
丁寧な取材と開かれた議論に立脚した記事を期待したいと思います。


2019年12月11日
から 久元喜造

犯罪被害者への支援をさらに拡充。


犯罪被害に遭われた方々に対し総合的な支援を行うことを目的として、2013年(平成25年)4月に「神戸市犯罪被害者等支援条例」が施行されました。
昨年7月には条例改正が行われ、子どもに対する教育支援や区役所での行政手続きのワンストップ対応など支援メニューの拡充を行いました。(2018年6月13日のブログ
犯罪被害者の方々は、被害を受けたことによる心理的な不安に加え、被害者が置かれている状況によっては、生活面での影響が出ると考えられます。
そこで、神戸市では、この11月から、犯罪被害者の方々への支援をさらに拡充することとしました。

まず、被害を受けた住居の復旧や防犯対策の費用として、30万円を限度に、実費の半額を補助します。
また、二次被害により外出困難を余儀なくされなど、日常生活に支障を来した場合などを想定し、30日間の配食サービス費を補助します。
危険が差し迫り、一時避難が必要な場合には、兵庫県警が実施する宿泊費用の補助が受けられますが、必要に応じ、延泊7日分の補助を行います。
そして裁判の出席に要する交通費として、10万円を限度に補助するとともに、未解決事件の情報収集活動において犯罪被害者の方々の支援を行っている「ひょうご被害者支援センター」に対し、資料の作成や配布にかかる費用(1事件あたり10万円)を補助します。
さらに、犯罪被害者、お子さんの奨学金の返還の支援として、年間30万円を限度に返済額の半額を補助します。

今回の拡充により、自治体としてトップレベルの支援メニューを整えることができました。
今後とも犯罪被害者の方々が受けた苦痛に想いを馳せ、充実を図っていきます。


2019年12月7日
から 久元喜造

西村友作『キャッシュレス国家』


著者は、北京の対外経済貿易大学の教授。
中国のキャッシュレス社会の日常、そしてキャッシュレス国家がどのように進化してきたのか、どこに向かおうとしているのかについて、わかりやすく描かれます。

中国の「新経済」の大きな特徴は「決済」が起点になっている点だと、著者は冒頭指摘します。
決済サービスは、アリババのアリペイと、テンセントのウィーチャットペイがしのぎを削っており、独自のビジネス形態でユーザーを囲い込み、そこから得られるビッグデータを活用して大きな収益につなげています。

鮮魚売り場の水槽から生きた魚や貝を選び、アリペイのアプリを使って支払いを済ませると、あとは料理ができるのを待つだけ。
出来上がったら電話が鳴り、受け取り場所でレシートのついたバーコードを専用機械で読み取ると、チケットが出てくるので、引き換えに料理を受け取るというシステムです。
北京の街角で胡弓を演奏する老人の前には「おひねり」を入れる箱が置いてあり、そこにはQRコードが貼られています。
著者は、彼らへの「おひねり」にウィーチャットペイを使うのだそうです。

アリペイやウィーチャットペイには、利用者の膨大な決済情報が蓄積されていきます。
プラットフォーム側は、決済情報以外の学歴や職歴、資産、交友関係などの情報も収集し、個人ごとにスコア化します。
アリペイ系の「芝麻信用」には5つのランクがあり、それぞれのランクに応じて、デポジットが不要になったり、融資面などでの優遇が受けられるようになります。

イノベーションを支える高度な人材育成も含め、中国の「新経済」がものすごいスピードで進化し続けていることを改めて痛感させられました。


2019年11月24日
から 久元喜造

アイヴァス『もうひとつの街』


チェコの作家、ミハエル・アイヴァス (1949~)の話題作です。(阿部賢一訳、 河出書房新社)
作者の生まれ故郷、プラハが舞台です。

「私」は、雪の降る日、古本屋で不思議な菫色の本に出会います。
そこには「痙攣して締めつけられ、髪が逆立っているような」不思議な文字が書かれていました。
「私」は、この本を携え、大学図書館を訪ねます。
図書館員によれば、プラハには「もうひとつの街」への裂け目があるとのこと。
しかし彼は、向こう側の街に探検にでかけようとする「私」の頼みを遮り、「境界を越えてあちらに行くなんて、興味がないね」と拒むのでした。
「私」は、その日の午後、ペトシーンの丘に出かけます。
そして、雪の積もった木々のあいだの谷間にあった円柱から、「もうひとつの街」に分け入っていくのでした・・・

「奇妙な生命が宿り、私たちの街よりも古くから存在する、だが私たちがなにも知らない世界が私たちのごく身近に存在することなどあるだろうか?」
「私」は答えます。
「それは十分にありうる話だ、私たちの生き方を反映しているにすぎない、と」。

向こう側の世界は、それはそれは不可思議で、混沌としており、色彩的、幻惑的な世界が繰り広げられます。
サメやエイが空を舞い、路面電車のドアは勝手に閉まって動き出し、マグロはヤン・フスの彫像の前でばたっと倒れ、タコは触手を使ってキンスキー宮殿の正面をよじ登るのでした。

私は小学生の頃、新開地の付近のあちこちに存在していた狭い路地の奥に分け入り、ここから先には別の街があるのではないかとおそれながら引き返したりしたことを、懐かしく思い出しながら、この不可思議な本を読み終えました。


2019年11月18日
から 久元喜造

駅前を明るく、快適に。


神戸市の街は、中心部に高層タワーマンションを林立させて人口増を図るのではなく、市内それぞれの地域にバランスよく人口を配置していくことが重要だと考えてきました。
地域の核となる場所が、駅前です。
神戸では戦前から鉄道網が整備され、戦後も、地下鉄、ポートライナー、六甲ライナーと公共交通網の整備が行われてきました。
駅前は、住みよい街づくりを行っていく上で大切な場所です。
駅は、周辺に住んでおられる方や電車で通学通勤される方が必ず通る場所ですから、駅前やその周囲を、明るく魅力的で、にぎわいのある空間にしていくことは大変重要です。
駅前を刷新し、魅力的でにぎわいのある空間にできれば、そこを核として周辺地域への民間投資を呼び込んでいくことにもつながります。

そこで、まちなか街灯の大幅増設・LED化対応(10月6日のブログ)に加え、市内全駅(約110駅)の駅前空間に、景観に配慮した約5,000灯のLED街灯を設置することにしました。
一駅当たり、おおむね50灯のLED街灯が増設されます。
駅前を明るくし、見違えるような姿にチェンジし、リノベーションするという試みです。
急ピッチで作業を進め、今年度中に整備する予定です。
さらに令和2年度末までに、駅周辺の市営駐輪場の照明を全てLED化します。

このほか、JR神戸線の甲南山手、六甲道、灘、鷹取の各駅、地下鉄・西神山手線の伊川谷駅の駅前では、シンボル的な樹木のライトアップやベンチ、モニュメントなどを効果的に組み合わせ、思い切ったリニューアルを行います。
令和2~3年度末にかけて整備する予定で、その効果を見ながら、今後ほかの駅にも広げていきたいと考えています。


2019年11月13日
から 久元喜造

朝日新聞社説「強行」処分批判に答える。⑩

前回
朝日社説は、今回の一連の措置について「疑問を禁じ得ない」とし、「市民の声に耳を傾けることは大切だが、公務員の身分保障を軽んじてよいわけではない」と指摘します。
ずいぶん腰が引けた表現ですが、公務員制度について、二つの相反する要請があるという指摘は、重要な視点です。
ひとつは、公務員制度、あるいは公務員の任用に民意を反映させること。
もうひとつは、公務員の身分を保障し、無用の心配をすることなく職務に従事できるようにすること。
この二つの要請は相互に緊張を孕み、この間でバランスをとることが求められます。
どちらかに偏っても問題が生じ、行政サービスの提供に支障が生じます。

歴史上有名な事例は、米国第7代大統領、アンドリュー・ジャクソンのジャクソニアン・デモクラシーです。
ジャクソン大統領は、職業的官僚制を忌み嫌い、普通の市民が公務員になるべきだ、そして公務は普通の市民が務めることができるような平易なものでなければならないと考えました。
自由任用制、短期任期制が広く採用され、この結果、官職は、政治家の獲物(Spoils)とみなされるようになっていきました。

このような過度な政治の介入を排除しながら、公務員の任用に民意を反映させる方法は、身分の得喪に関するルールを国民・住民の代表である議会が法律や条例で定めるようにすることでした。
法令による不利益処分の限定は、公務員の身分保障に資することになります。
地方公務員法の授権による条例の制定は、民意の反映と公務員の身分保障という、緊張を孕んだ両方の要請を満たすことになる解決方法であり、今回の対応は、正統的で適切なものであったと考えます。(完)