チェコの作家、ミハエル・アイヴァス (1949~)の話題作です。(阿部賢一訳、 河出書房新社)
作者の生まれ故郷、プラハが舞台です。
「私」は、雪の降る日、古本屋で不思議な菫色の本に出会います。
そこには「痙攣して締めつけられ、髪が逆立っているような」不思議な文字が書かれていました。
「私」は、この本を携え、大学図書館を訪ねます。
図書館員によれば、プラハには「もうひとつの街」への裂け目があるとのこと。
しかし彼は、向こう側の街に探検にでかけようとする「私」の頼みを遮り、「境界を越えてあちらに行くなんて、興味がないね」と拒むのでした。
「私」は、その日の午後、ペトシーンの丘に出かけます。
そして、雪の積もった木々のあいだの谷間にあった円柱から、「もうひとつの街」に分け入っていくのでした・・・
「奇妙な生命が宿り、私たちの街よりも古くから存在する、だが私たちがなにも知らない世界が私たちのごく身近に存在することなどあるだろうか?」
「私」は答えます。
「それは十分にありうる話だ、私たちの生き方を反映しているにすぎない、と」。
向こう側の世界は、それはそれは不可思議で、混沌としており、色彩的、幻惑的な世界が繰り広げられます。
サメやエイが空を舞い、路面電車のドアは勝手に閉まって動き出し、マグロはヤン・フスの彫像の前でばたっと倒れ、タコは触手を使ってキンスキー宮殿の正面をよじ登るのでした。
私は小学生の頃、新開地の付近のあちこちに存在していた狭い路地の奥に分け入り、ここから先には別の街があるのではないかとおそれながら引き返したりしたことを、懐かしく思い出しながら、この不可思議な本を読み終えました。