久元 喜造ブログ

2016年12月31日
から 久元喜造

児童虐待対応の第一線

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大晦日。
今年、大きな社会問題になった児童虐待について記し、締めくくりたいと思います。
12月24日の朝日新聞天声人語は、こんな文章で始まっていました。
「子どもへの虐待事件が起きるたび、児童相談所の対応が問われる。なぜ助けられなかったのかと。しかし、日々の相談所の活動によって多くの子どもたちが危険な状況から逃れていることはあまり注目されない」

朝日新聞には、「児相の現場から」という連載が掲載されていました。
はじめから行政を批判するのではなく、ありのままの現実に目を向けようという報道姿勢に敬意を表します。

児童虐待の現場は、困難を極めます。
私も、こども家庭センター(神戸市の児童相談所)のほか、区役所、社会福祉協議会などの職員のみなさんから、できる限り話を聞くようにしています。
児童福祉司、保健師、保育士をはじめ、さまざまな職種のみなさんが連携して、子どもの命を救おうと、必死の対応をしてくれていることに頭が下がります。
もちろん、個々のケースを後から見れば、もっとベストの対応はあり得たということはあるかもしれませんが、現場のみなさんは、ぎりぎりのところで奮闘してくれています。

しばしば、虐待に走る親、その同居者、恋人は、社会から追い詰められた被害者だという見方に立った記事も目にします。
確かに、社会に背を向け、孤独のうちに追い詰められて虐待につながるケースもあります。
しかし、本当にこれが人間のするのことなのか、と言葉を失うケースがあることも事実です。

きわめて困難な問題ですが、新しい年も関係機関と連携しながら、組織一丸となって児童虐待の根絶に向け取り組んでいきます。


2016年12月29日
から 久元喜造

ノエスタ ハイブリッド芝の実験

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ノエビアスタジアム神戸。
ヴィッセル神戸、INAC神戸レオネッサ、神戸製鋼コベルコスティーラーズなど神戸を代表するトップチームのプレーが行われる、大事なスタジアムです。

とくに神経を使うのがフィールドに敷かれた天然芝です。
多くの技術者の力を得て、日々丹念に整備しているのですが、天然芝が健全に育つためには、適度な日照や風通しが必要です。
人には優しい最新鋭の屋根が、芝の成長には大きな影響をもたらし、開設以来、芝との格闘が繰り広げられてきました。
昨年は状態がとくに夏に悪化したため、今年は、天然芝の育成・確保のための特別の予算を計上し、6月には「夏芝」に、9月には「冬芝」に張り替える作業を実施いたしました。

しかし、現在の方式では張り替え作業時にスタジアムが使用できなくなり、毎年多額のコストを要するという問題があります。
そこで、次のステージとして、欧州で使われている「ハイブリッド芝」の導入に向けた実証実験を開始しました。

「ハイブリッド芝」とは、天然芝のフィールドにきめ細かな間隔で人工繊維を埋め込み、天然芝の根を絡ませて芝生の強靭化を図るものです。
これに合わせて、照度不足の解消のために照明装置による照射を行い、さらに、地中に埋設された配管により温水や冷水を通して地中の温度を操作する「地温コントロールシステム」を採用します。

少しでも良好なピッチコンディションを実現するため、来年にかけて「ハイブリッド芝」の実験を続行し、本格導入につなげていきたいと考えています。


2016年12月25日
から 久元喜造

自転車事故の想い出

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インフルエンザが流行るころになると、中二の時の自転車事故を想い起こします。
学級閉鎖になり、これ幸いと、同級生とふたりでサイクリングに出かけました。
鈴蘭台から二軒茶屋に出て有馬街道に入り、箕谷から山田中学の前を通り、われわれはペダルを漕ぎづつけました。
「餓鬼の喉」を越え、山田の田園風景を眺めながら颯爽と進みます。
途中で道は下り坂になり、右にカーブして山田川にかかる橋を渡るはずでした。
ところが・・・まるで分解写真を見ているようでした。
先を走っていた私は、カーブを曲がりきれず、橋の欄干に激突してしまったのです。

気が付いたら、自宅の布団の中でした。
ずいぶん長い間、気を失っていたのでしょう。
何が起こったのか、理解できませんでした。
しばらくして激しい吐き気に襲われ、私は何回も洗面器に吐き続けました。
往診に来られた先生が、脊髄から水を抜きました。
めちゃくちゃ痛かったです。

歳月が流れ、4年前、神戸に戻ってしばらくして、四十年ぶりに同級生と再会しました。
新開地の居酒屋で酒を酌み交わし、自転車事故のことを尋ねました。
彼は鮮明に覚えていて、あのときのことを詳しく説明してくれました。
橋の欄干に激突した私の体は、2メートルか3メートル跳ね上がって宙に舞い、道路の上にたたきつけられたのだそうです。
「川に落ちたら死んどったで」
確かにそうでした。

自転車は、自らに対しても、他者に対しても、凶器になり得ます。
くれぐれも運転には気を付けてください。


2016年12月21日
から 久元喜造

新しい消防艇の名前は「たかとり」に。

神戸港開港150年の来年、新しい消防艇が就航します。
神戸市では、艇の名前を「たかとり」と決定し、きょう発表しました。
(「たかとり」のイメージ図)
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現在、神戸市には2艇の消防艇がありますが、このうち「たちばな」の老朽化が進み、現在、新しい消防艇の建造を行っています。
そこで、新しい消防艇の名前をどうするのかについて、まず、消防職員に候補となる船名を募集し、100ほどの案が出されました。
そしてこれらの中から、現在の「たちばな」を含む5つの候補に絞り、12月1日から15日にかけて、広く市民に投票を呼び掛けてきました。

投票結果は、次のとおりです。
たかとり 248票
あじさい 230票
たかはま 127票
たちばな 119票
せんこう  85票

僅差でしたが、投票結果を尊重し、「たかとり」と命名することにしました。
たかとり」は、神戸市の市街地西部の長田区と須磨区の境界に位置する「高取山」に由来します。
高取山は、古くから漁民や航海者の安全を守る守護神が座す御山(おやま)とされてきました。
また、神戸港沖からは高取山をくっきりと望むことができます。
神戸の風景、海と港の歴史を体現する名前だと思います。
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消防局の関係職員の発案と工夫により、市民のみなさんの参加をいただき、新しい消防艇にふさわしい命名ができたことを喜んでいます。
就航式は、来年の3月を予定しています。


2016年12月20日
から 久元喜造

名古屋市・都市ブランド調査

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名古屋市が都市ブランドに関する調査を行い、その結果に関する記事が、少し前の新聞に掲載されていました。(たとえば、 朝日新聞デジタル
名古屋市観光文化交流局が、名古屋に対して抱かれているイメージやブランドを把握するために行った調査です。
名古屋市を含む全国8都市(札幌市、東京23区、横浜市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市、福岡市)に在住する人に対し、それぞれの都市に対する愛着や誇り、推奨度合などについて調査しました。 (調査結果

調査期間は、平成28年6月1日から6月6日で、各都市とも418サンプル、質問項目は、次のとおりです。

愛着度 都市に愛着を感じるか
誇り度 都市に誇りを感じるか
推奨度 買い物や遊びなどで訪れることを友人・知人に勧めるか

名古屋は、8都市中、「愛着度」「誇り度」で下から2番目、「推奨度」では最下位でした。
ちなみに、神戸は、「愛着度」「誇り度」で上から2番目、「推奨度」では3番目でした。

神戸市民が自らの都市を評価していることの一端が読み取れ、ありがたく感じていますが、ここで触れたいのはそのことではありません。
自らに厳しい結果が出るかもしれない調査を実施し、その結果を公表して今後のプロモーションを考えていこうとする名古屋市の姿勢です。
客観的に見れば、名古屋は、人口が増加し、経済指標や財政指標は全体的に見て神戸を上回っています。
そのような現状に安住せず、自らを客観視してその欠点は何かを模索し、解決策を見出していこうとするアプローチには共感を覚えます。
神戸市も見習わなければなりません。
独善と自己満足、内向き志向からは何も生まれないからです。


2016年12月17日
から 久元喜造

Bellst(ベルスト)って何ですか?

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きょうの神戸新聞は、北区鈴蘭台の駅前に建設を進めている再開発ビルの名称が「Bellst(ベルスト)」に決まったと報じていました。
一般公募390点の中から選ばれたようで、鈴蘭台の鈴を意味する「bell(ベル)」と、駅の「station(ステーション)」、出発の「start(スタート)」からとった「st」を組み合わせた造語だそうです。

がっかりしました。

この再開発ビルは、総事業費約157億円を投じ、北区の発展を願って整備を進めている事業です。
ビルには、商業施設とともに北区役所も入り、神戸電鉄鈴蘭台駅とも直結されます。
駅前広場も整備し、交番の駅前移転も実現します。
公共性の高い事業で、その鍵を握る再開発ビルの名称は大切です。
わざわざ由来を説明しなければならないような、カタカナ横文字の名称で本当によいのでしょうか。
もっとわかりやすい名称は考えられないものなのでしょうか?

再開発ビルの名称を決める権限は、㈱大和リースにあり、神戸市にはないようなので、私が何を言っても犬の遠吠えかもしれませんが、北区民のみなさんをはじめ、関係の方々には、今一度立ち止まってお考えいただければ幸いです。


2016年12月17日
から 久元喜造

吉川洋『人口と日本経済』

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本書の結論は、人口の減少が経済を衰退させることはなく、人口減少下でもイノベーションにより経済は成長し続ける、という点にあります。

筆者は、まず歴史を鳥瞰図的に眺め、人口がある時代には急激に増え、逆に減少する時代もあったことに触れた上で、明治以降の我が国においては、「過剰人口」が大きな問題であったことを指摘します。
戦前は、過剰人口問題を解決するため、移民や海外進出が奨励されました。
戦後間もなく、大内兵衛など我が国を代表する経済学者が執筆した『日本経済序説』には、「戦後の過剰人口問題は、一段とその重要性を加えた」という指摘が見られます。

その上で、アダム・スミス、シュンペーター、とりわけマルサスの人口論が詳しく取り上げられます。
ケインズ、ヴィクセル、ミュルダールの人口論も紹介されていましたが、とりわけ、スウェーデンの経済学者、ミュルダールの
「人口政策の一般的方法は、個々人や子どものいない家庭から子どものいる家庭への所得移転として描写されるだろう」
という指摘は今日的にも有効です。

筆者は、経済成長の必要性を強調し、「人口減少ペシミズム」を克服するため、企業のイノベーションへの挑戦を促します。
所得水準が高く、マーケットのサイズが大きく、超高齢社会の日本は、日本企業に絶好の「実験場」を提供すると。

すでに企業に対しては、イノベーションを促進するための税制や融資、助成制度が用意されており、それらが十分に機能していないのはなぜか、さらに何が求められるのかについて示唆が欲しかったところですが、この辺は、政治や行政にいる者が分析を行い、政策提案を行う責務を負っているとも感じました。(文中敬称略)


2016年12月12日
から 久元喜造

職員採用試験は自前でつくるべきだ。

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これまで職員採用試験について触れてきました。(9月29日10月11日10月31日 のブログ)
職員の採用試験をどのように実施するのか、出題内容はどうするのかは、優れた人材を確保する上で大事な課題です。
そうであれば、試験問題は、自治体が自前で作成すべきではないでしょうか。
現在は、神戸市をはじめほとんどの自治体は、(公財)日本人事試験研究センター に委託して実施しています。
神戸市では、同センターが用意している問題集から選択して、問題を作成しています。

私は、問題の一部しか見ていませんが、その前提で申し上げれば、個々の問題はおおむね常識的な内容になっているものの、一部には、専門家にしかわからないマニアックな問題も含まれています。
これは、センターが問題作成を依頼している専門家の常識が自治体の常識と距離があるからだと思われます。
また、問題全体を見れば、脈絡なく寄せ集めたとしか思えず、個々の受験者の知識レベルを問う観点からコンセプトのある内容になっているかも疑問です。
根本的には、神戸市がそれぞれの行政分野においてどんな人物を求めているのか、そして、その目的に沿った試験内容になっているかという視点が欠如しています。

秘密保持の観点から、問題作成に関わる職員はごく限られており、個々の職員がいかに優秀であっても、今のやり方では限界があります。
やはり、複数の眼でチェックすることが最低限必要なのではないでしょうか。

将来的な方向性としては、市長部局の相当程度の職員を人事委員会に兼務発令して問題作成チームを編成し、自前で問題を作成するようにすべきだと感じます。


2016年12月8日
から 久元喜造

童話『ひょうたん池物語』

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お恥ずかしいながら、このほど、童話『ひょうたん池物語』を出版しました。
神戸新聞総合出版センターから刊行、定価は、税別1200円です。
書店に行かれることがありましたら、お手に取ってご覧いただければ幸いです。
絵は、有村 綾さんにお願いしました。

少し昔のこと。
港のある大きな街からほど近いところに、のどかな里山が広がっていました。
里山には、なだらかな山や丘に抱きかかえられるように、たくさんの池がありました。
それらの中のひとつの池「ひょうたん池」が、この物語の舞台です。

池の水は澄んでいて、それはそれはきれいな池でした。
水面は木漏れ日を受けてキラキラと輝き、ときどき魚が跳ねると波紋を作ります。
まわりをぐるりと取り囲む雑木林には、夏になるとカブトムシやクワガタが集まり、秋になると葉っぱが鮮やかに色づき…。季節によって様々な姿を見せるのでした。

1960年代に入ると、長い年月、平和なときを過ごしてきた神戸の里山に開発の波が押し寄せます。
そして、東京オリンピックが開催された年、ひょうたん池にも大きな危機が訪れました。
池で暮らす生き物たちはどうなるのでしょうか・・・・

本書は、当時の幼い日々を回想しながら記した、私にとってのノスタルジアです。
しかし当時の様子の再現ではなく、自由に想像力を飛翔させながら創り上げたファンタジーです。


2016年12月4日
から 久元喜造

高原英理『不機嫌な姫とブルックナー団』

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ジュンク堂にあったので、何となく購入しました。
不思議なタイトルと装丁が妙に気になったからです。

主人公の代々木ゆたきは、図書館に勤める非正規職員の女性で、ブルックナーのファンです。
サントリーホールのコンサートで、ひょんなことから、ブルックナーのオタク男3人組と出会います。
彼女は、違和感を覚えながらも、次第に3人組と心を通わせるようになり、「ブルックナー団」の存在を知るようになります。

「ブルックナー団」とはどのような人たちか。
・ブルックナーの交響曲は、全曲、全楽章ごとに主題の区別ができる、
・ブルックナーの版ごとの違いがすべてわかる。
・ブルックナーの弟子の名前を5人以上言える。
・・・・・
私もときどきブルックナーの交響曲を聴きますが、まったくレベルが違いすぎます。

物語は、彼女と3人の「ブルックナー団」メンバーとのやりとりを通して、ブルックナーの音楽と人間像を浮かび上がらせていきます。
そして、ブルックナーという偉大な作曲家がいかに不器用で、臆病で、生き方が下手な人物であったかが、ワーグナーとの出会いなどを絡めながら綴られます。

彼らは、ブルックナーの音楽を執拗に攻撃し、彼につらく当たった同時代の高名な音楽批評家ハンスリックを敵とみなし、ハンスリックのような権威的な人々を「ハンスリック団」と呼び、嫌悪します。
学生時代に読み、まったく共感を覚えなかったハンスリックの『音楽美論』を思い起こしました。
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とても温かな読後感でした。
本書を読んだ後、坂入健司郎指揮、東京ユヴェントス・フィルハーモニーが演奏する第8交響曲をかけると、これまでとは異なる響きが聞こえてくるような気がしました。