久元 喜造ブログ

2020年1月19日
から 久元喜造

池内紀『ヒトラーの時代』


昨年8月30日にお亡くなりになったドイツ文学者、池内紀 さんの最後のご著書です。
池内さんは、ドイツ文学やモーツァルトの音楽を語りながら、最後までナチス・ドイツとヒトラーに並々ならぬ関心を持ち続けられました。
本書には、「ドイツ国民はなぜ独裁者に熱狂したのか」という副題がつけられています。
優れた哲学、文学、音楽、絵画などドイツ文化を生み出したドイツの人々がなぜこのようなことになってしまったのかという疑問を、池内さんは最後まで抱き続けたのだと感じます。

本書では、ヒトラーが無名の扇動政治家から権力を掌握し、国民の圧倒的な支持を得て、人気を博していくまでの過程が、写真、車、マイクロフォン、ジュタリーン文字などユニークな視点も交えながら語られます。
労働者や公務員の休暇を組織化し、音楽会や映画会、スポーツ、旅行などをごく安価に斡旋しました。
ドイツ人が山以上に海に対して特有の憧憬を持っていることに注目し、バルト海や北海への船旅にも力を入れたのでした。

国民の支持と熱狂をとりつけるための工夫が次々に紹介されますが、副題の問いに対する明確な答えは示されていないように思えます。
池内さんご自身、「むすびにかえて」の中でこう述懐されます。
「ナチズムについては、・・・数限りなく論じられてきた」「にもかかわらず今にいたるまで解明がつかない」と。
その上で、「ナチズムの妖怪は異常な人間集団のひきおこしたものではなく、その母胎にあたるものは、ごくふつうの人々だった」との感想を述べられます。
本書と並行して読んだ「独ソ戦」に描かれているように、「ごくふつうの人々」が支払った代償は余りにも大きなものでした。

 


2020年1月16日
から 久元喜造

名谷「躍動する多世代共生のまち」へ。②


名谷駅①へ
名谷駅ビルの再整備に合わせ、商業施設もリニューアルします。
今年オープン40周年を迎えるパティオは、外観を美装化し、屋上広場やキッズスペースを整備するなど、若年・子育て世代にも優しい空間づくりに取り組みます。
商業施設の中心である 買い物広場 については、上のパースのようなお洒落で広やかな空間をイメージし、令和3年度までにリニューアルを進めます。

落合中央公園 は、名谷駅の北側に立地し、多くの市民のみなさんに親しまれています。
広々とした伸びやかな雰囲気が魅力ですが、中央の樹木群が眺望を阻害している面もあるので、一部を伐採し、子供さん向けの魅力ある遊具や親子で楽しめる幼児コーナーを新設します。
水辺の眺望も楽しんでいただける空間を整備します。
名谷駅から公園への動線の改良も行います。
令和5年度末ごろの完成を目指し、事業化を進めます。

ニュータウンの街づくりでは、職住近接の視点が重要です。
あおぞら幼稚園跡には、ジョブシェアセンター「神戸名谷ワークラボAOZORA」がオープンしています。
女性を中心に、仕事と育児、介護、勉強などとの両立を目指し、多様な時間帯で働くことができる、新しいタイプのオフィスです。
名谷駅前にも、子育てしながら働けるシェアオフィスを誘致していきたいと思います。

さらに、駅周辺の住宅を増やします。
市有地などを有効活用して民間投資を呼び込み、マンションなどの住宅を、今後5年間で約600戸供給できるよう作業を進めます。
これらの施策を連携させながら実施し、「名谷」が、躍動する多世代共生の街として発展していくことができるよう、全力で取り組みます。(おわり)


2020年1月15日
から 久元喜造

名谷「躍動する多世代共生のまち」へ。①


神戸市では、昭和30年代後半から「山、海へ行く」という独自の街づくりを展開しました。
山を削り、土砂をベルトコンベアと船で運搬して臨海部を埋め立て、採取跡地には良質な住宅地を造成しました。
「須磨ニュータウン」もこのようにしてできた開発団地で、白川台・北須磨・名谷・落合・横尾・高倉の6つの団地から成ります。
街びらきから半世紀以上が経過した現在、当初の世代は高齢化、その子供たちはエリア外に流出し、空き家が増加するなど徐々に街の魅力が低下してきました。
このような状況を踏まえ、「須磨ニュータウン」の中心・名谷の活性化を図るため、地下鉄・西神山手線の名谷駅周辺を再整備し、魅力のある公共空間を創出することにしました。

名谷駅から三宮駅までは、約20分。
拠点駅である名谷駅前において、商業・業務機能、文化機能、子育て環境などを充実させるとともに、駅周辺の居住機能を強化するための事業をスピード感を持って進めます。

まず、名谷駅ビルの再整備 です。
上のパースのようなイメージで、開かれた、明るい空間を目指し、リニューアルを図っていきます。
デザイン面も重視し、令和4年度までの完成を目指します。

駅前には、新しい図書館を整備します。
大丸須磨店のリニューアルにあわせ、4階フロアの一部を市立図書館として活用します。
昨年4月に北区の岡場駅前にオープンした「北神図書館」は、これまでにない斬新なデザインで注目を集めています。
新設する「名谷図書館」(仮称)も、また一味違う、洗練されたイメージの図書館を目指したいと思います。
令和2年度内の完成を目指し、大丸須磨店とよく連携しながら設計・工事を進めます。(つづく


2020年1月13日
から 久元喜造

神戸市 成人お祝いの会


きょう、ノエビアスタジアム神戸 で、令和になって初めての神戸の成人式、「神戸市成人お祝いの会」が開催されました。
今年は、震災から25年の年。
開会に先立ち、震災のときの映像が放映され、黙祷が捧げられました。
神戸の成人式は、毎年、華やかな中にも厳粛な雰囲気で行われます。
私からは、ネット時代であるからこそ、自分の眼で見、自分の耳で聴き、漂ってくる香りを嗅ぎ、手に直接伝わってくる感触を感じて、目の前の現実と向き合い、大人として生きる力を獲得してください、とお祝いの言葉を申し上げました。
6人の新成人の代表が、それぞれの想いを込めて「20歳の誓い」を述べました。

後半は、3人が同じ神戸高校の同級生、WEAVER のみなさんによるコンサートが行われ、最後は、新成人の代表6人も加わって、「しあわせ運べるように」の合唱で閉じられました。

今後の成人式のあり方ですが、民法の成人年齢が2022年4月に18歳に引き下げられることから、開催時期などが課題となってきました。
私は、以前から、現行どおり20歳になるみなさんを対象として、時期も1月のままで開催するのがよいのではないかと考えてきました。(2019年1月15日のブログ
18歳は、進学、就職の岐路に当たる大事な時期で、1月は大学受験シーズンに当たります。
そこで、2023年(令和5年)以降についても、現行どおり、その年度に20歳を迎える方を対象として、1月に開催する方針を決定しました。(神戸市ウェブサイト
法律上は、18歳で成人になるので、会の名称については、2月から3月頃にかけて若い世代のみなさんの意見を募り、検討したいと考えています。


2020年1月6日
から 久元喜造

神戸を見違えるような街に。


今年、神戸は、震災から25年を迎えます。
この間、市民、企業、行政が力を合わせ、意見の違いを乗り越え、街を蘇らせることができました。
その一方で、震災がなければできたこと、やらなければならなかったことに取り組むことができず、先進的な街づくりは先送りにされてきました。
私たちは、この遅れを取り戻し、神戸をさらに魅力的な街にしていかなければなりません。

神戸が日本を代表する大都市に成長した原点は、港です。
神戸は、交通の要衝であり続けてきました。
陸・海・空の交通の拠点としての神戸の強みを、さらに発揮していくことが必要です。
大阪湾岸道路、神戸西バイパスの工事は、いよいよ本格化します。
昨年、神戸空港に関する規制緩和が初めて実現し、新規就航路線も続々と開設されました。
今年は運航時間の延長も実現します。
神戸の港湾と空港が、一体となって関西全体の発展に寄与できるよう取り組んでいきます。

公共交通網が充実している強みを活かし、バランスのとれた街づくりを、急ピッチで進めていきます。
都心に高層タワーマンションを林立させて、人口を増加させていく政策はとりません。
三宮の駅前では、商業・業務機能に特化した整備を進め、その周囲では、居住機能と共存できる街づくりを進めます。
都心に人口を一極集中させるのではなく、JR、私鉄、地下鉄、ポートライナー、六甲ライナーの交通ネットワークを活かし、駅前を活性化させ、快適な街づくりをすすめます。
拠点性の高い 名谷西神中央垂水 の駅前を、魅力的で美しい公共空間に再生させ、民間投資の誘導につなげていきます。
神戸の歴史を大切にしながら、神戸を見違えるような街にしていきましょう。


2019年12月30日
から 久元喜造

本庶佑『がん免疫療法とは何か』


ノーベル生理学・医学賞を受賞され、神戸医療産業都市推進機構理事長としてご指導をいただいている本庶佑先生のご著書です。
がんとは何か、から説き起こされ、画期的ながん治療法、PD−1抗体による免疫療法がどのようにして確立されたかについて説明されます。
門外漢の私にとり、すべて理解できたわけではありませんが、PD−1抗体とは何か、それがどのように発見され、試行錯誤を経て免疫療法として使われるようになったかについて、分かり易く説明されています。

PD−1抗体の章の後に置かれているのは、「第3章 いのちとは何か」です。
ここでは、人間を含む生物の生・老・病・死が幅広い文脈の中で語られます。
「第4章 社会のなかの生命医科学研究」では、科学技術政策に関する今日的課題に関するお考えが示されています。
本庶先生によれば、「物理化学の分野では、基本原理が明らかになると、それを実装していくための一定の将来予測が可能」になりますが、生命科学はそうはいきません。
生命科学は、膨大な要素の複雑性・多様性・階層性に関わるからです。
「驚くべき階層性によって保たれた、多重の安全装置を備えたしくみが、まさに「いきる」ということ」だと本庶先生は説かれます。

医学は、一人ひとり異なる遺伝子、それぞれ異なる環境と生活習慣を持った人間に関わります。
医師は、「一般解」ではなく「特殊解」と向き合います。
「生命科学と医療が、一体的に捉えられることで、医療の特殊性ということも十分に評価され、そしてそれを国民が理解し、個人の健康と社会の調和を目指すことが必要である」という本庶先生のお考えは、大きな説得力を持っていると感じました。


2019年12月28日
から 久元喜造

神戸市・都市技術研究室の挑戦


前向きの政策展開につながる説明を聞き、率直に議論する時間は、楽しいひとときです。
先日、有用な新技術を集約的に調査・研究し、実務に繋げる取組みを行っている建設局都市技術研究室から、最近の研究成果について説明を受けましたが、すべて知らない分野の話で、たいへん勉強になりました。

市民生活に不可欠なインフラ施設は老朽化が進む一方、現場は人口減少と高齢化による担い手不足に直面しています。
このような状況への対応方策が、i-Constructionです。
ICTを活用し、測量・設計から施工、維持管理まですべての建設サイクルを三次元データでつなぐ新たな手法です。
都市技術研究室では、i-Construction導入に向け、三次元データの利活用について調査を進めています。
昨年12月には、市役所二号館北にあった花時計を三次元レーザー測量し、VR花時計を作成、市民のみなさんにも体験していただきました。

また、高所や災害現場など危険箇所の点検・調査にドローンを活用する検討も進められています。
人間が足場に登り、壁面を打診棒で叩いて確認する公共建築物の外壁調査を、ドローンに搭載した赤外線カメラの画像診断で代替出来ないか実証試験を行っています。

もちろん、AIの利活用も対象分野です。
カメラ画像から道路の状況を自動で診断出来れば、効率的な維持・管理が実現します。
放置自転車台数の計測、陥没など路面異常の検知を、カメラ+AIで行うシステムの実証開発を進めています。

各職場からベテラン職員が少なくなり、インフラ施設の整備や維持管理を少数の若手職員で担っていく必要があります。
都市技術研究室の調査研究の実用化が楽しみです。


2019年12月21日
から 久元喜造

異常高温対策ワークショップ


季節外れの話題で恐縮ですが、近年の夏の高温は異常です。
海に面し、冬は温暖で、夏は京都などに比べて比較的過ごしやすいとされてきた神戸でも、今年は炎暑の日々が続きました。
神戸市では、打ち水の呼びかけやミストの設置などを行いましたが、もっと抜本的な対応が考えられないのでしょうか。

12月18日、「異常高温対策ワークショップ」を開催しました。
講師は、日本工業大学建築学部の三坂育正教授、神戸大学大学院の竹林英樹准教授、神戸大学の森山正和名誉教授。
コーディネーターは、神戸大学学術・産業イノベーション本部の鶴田宏樹准教授が務められました。

私も最初から最後まで拝聴しましたが、大変興味深い内容でした。
樹冠・藤棚による緑陰、壁面緑化、人工日除け、屋根散水、保水性ブロック塗装、遮熱舗装、水盤などの水景施設、外構への散水、光触媒を塗布した親水性のルーバー(クールルーバー)、冷却ルーバー、冷却ベンチ、ファン付き微細ミストなどなど。
さまざまな試みがすでになされてことがわかりました。
これら一つひとつの効果は小さくても、組み合わせたり、複合化させることによって効果を発揮させることも考えられます。
また、雁木(がんぎ)や融雪パイプなど雪対策で使われている設備が異常高温対策としても効果を発揮する可能性があるとのご指摘も、雪国暮らしの経験のある私には興味深かったです。

参加した本市の技術職員のみなさんも積極的に発言し、具体的な事例を交えて有意義な議論が行われました。
たまたまこの日の午前中に発表した名谷、垂水、西神中央の駅前再整備にも、異常高温対策を盛り込むことができないか、庁内で議論を進めていきたいと感じました。


2019年12月13日
から 久元喜造

取材が報道の原点ではないか。


神戸市立小学校の教員間いじめ問題。
毎日新聞の春増翔太記者は、12月5日の「記者の眼」で、加害教員に対する分限休職処分について、「こうした重みを、久元市長や市教委はどこまで考えたのか」と問題提起されました。
この記事は、全国紙の全国面での署名入り記事です。
このような場面で指摘されるのであれば、やはり取材をして、疑問点を訊いていただきたかったと思います。

もちろん、取材があらゆる場面において求められるとは思いません。
客観的事実、記者会見や国会・議会の答弁などをもとに記事を書かれる場合には、要らないことも多いでしょう。
しかし「どこまで考えたのか」と指摘される以上は、その人物が何を考えているのかについて、取材されて然るべきではないでしょうか。
取材相手が話す内容、そして、相手の視線、表情、しぐさなどから、本当のことを言っているか、いい加減なことを言っているのかを吟味する。
報道の原点は、丁寧な取材にあるはずです。
この点が閑却されたことは、残念です。

今回の分限休職処分については、確かに多岐にわたる論点がありました。
だからこそ、当事者からの取材が大事だったのではないでしょうか。
せっかくこの問題に関心を持っていただいたのですから、議論もしてほしかったと思います。
私は、ツイッターで、定例記者会見に春増記者にお越しいただき、疑問点はとことん訊いてください、と呼びかけました。
しかし、前回の定例記者会見に春増記者の姿はありませんでした。
当日の事情もあったこととは思いますが、たいへん残念です。

報道機関の社会的使命は大きいと思います。
丁寧な取材と開かれた議論に立脚した記事を期待したいと思います。


2019年12月11日
から 久元喜造

犯罪被害者への支援をさらに拡充。


犯罪被害に遭われた方々に対し総合的な支援を行うことを目的として、2013年(平成25年)4月に「神戸市犯罪被害者等支援条例」が施行されました。
昨年7月には条例改正が行われ、子どもに対する教育支援や区役所での行政手続きのワンストップ対応など支援メニューの拡充を行いました。(2018年6月13日のブログ
犯罪被害者の方々は、被害を受けたことによる心理的な不安に加え、被害者が置かれている状況によっては、生活面での影響が出ると考えられます。
そこで、神戸市では、この11月から、犯罪被害者の方々への支援をさらに拡充することとしました。

まず、被害を受けた住居の復旧や防犯対策の費用として、30万円を限度に、実費の半額を補助します。
また、二次被害により外出困難を余儀なくされなど、日常生活に支障を来した場合などを想定し、30日間の配食サービス費を補助します。
危険が差し迫り、一時避難が必要な場合には、兵庫県警が実施する宿泊費用の補助が受けられますが、必要に応じ、延泊7日分の補助を行います。
そして裁判の出席に要する交通費として、10万円を限度に補助するとともに、未解決事件の情報収集活動において犯罪被害者の方々の支援を行っている「ひょうご被害者支援センター」に対し、資料の作成や配布にかかる費用(1事件あたり10万円)を補助します。
さらに、犯罪被害者、お子さんの奨学金の返還の支援として、年間30万円を限度に返済額の半額を補助します。

今回の拡充により、自治体としてトップレベルの支援メニューを整えることができました。
今後とも犯罪被害者の方々が受けた苦痛に想いを馳せ、充実を図っていきます。