久元 喜造ブログ

2015年10月29日
から 久元喜造

『都市政策』震災復興20年特集

151029
神戸都市問題研究所発行の季刊誌『都市政策』10月号の特集は、「再考 阪神大震災からの復興20年」です。

市街地・住宅復興の足取りはどうであったのか、企業はどのような軌跡をたどって厳しい現実と格闘してきたのか、高齢者見守り活動はどのように展開されてきたのか、NPO・NGOの活動はどのように始まり、現在に至っているのか、神戸市財政は復興の道筋の中でどのように対応してきたのか ― などの課題に関する論文が掲載されていました。
執筆には、学界、行政、行政OBの方々が当たられました。

最初の論文、「阪神大震災における市街地・住宅復興の施策形成と実践 ― 神戸市における被災自治体主導の取り組み ― 」では、地震発生直後からの市役所の動きが克明に綴られます。
震災からわずか2か月後の3月17日には、六甲道、新長田などの震災復興都市計画事業が決定されますが、この間の国、県とのやりとり、住民のみなさんとの折衝などが、関係者への詳細な聞き取りにより、見事に再現されていました。

批判を受けながらも、神戸のまちの復興がスピーディーに進んだのは、戦災復興事業を経験された職員のみなさんの力量が大きく与ったと聞きます。
このときに中心的な役割を果たされた幹部・中堅のみなさんは、すでに引退され、この論文の執筆者に当時の模様を語ってくださいました。

そして、震災からの復興に、係長や担当として苦労を重ねられたみなさんは、いま、市役所の幹部として神戸の都市行政をリードしてくれています。
その経験やご苦労は、三宮や都心の再生、神戸の各地の街づくりに間違いなく生かされていくことでしょう。


2015年10月25日
から 久元喜造

ピケティ『21世紀の資本』

piketty
一年ほど前に話題になった トマ・ピケティ『21世紀の資本』 (みすず書房)は、時間を見つけて少しずつ読み続けてきましたが、ようやくメキシコ出張(10月17日のブログ)からの帰りの機中で読了することができました。

たまたま、第12章の中に、2010年以降の世界のお金持ちランキングのトップは、メキシコ人だという記述があり、複雑な想いにかられました。
ピケティが引用しているランキングは、有名な『フォーブズ』誌のものですが、メキシコ人事業家カルロス・スリムの資産は、直近のデータでは、771億ドル(約9兆円)を誇ります。
メキシコは、経済の成長が約束されている国のようですが、街中のインフラはいまだ未整備で、物乞い、とくに夫婦とおぼしき高齢の男女の姿が目立ちました。

さて、本書の主張は、一貫しています。
rを資本収益率、gを経済成長率とすると、第1次、第2次世界大戦を挟む一時期を除き、長期的には、常に
r>g
という傾向が見られるというものです。

そして、資本収益率は、今後、一貫して経済成長率を上回ると見込まれ、この結果、格差は一層拡大していくとの見通しを示します。
フランス、英国、ドイツ、米国を中心に、豊富なデータを駆使する一方、バルザックなどの小説の場面を挿入し、当時の相続観に触れながらの記述は、興味深かったです。
「世襲型資本主義」への警告も、本書の重要なテーマです。

ピケティは、来日してマスメディアでも大いにもてはやされましたが、一時のブームに終わらせることなく、本書の問題提起をじっくりと吟味、検討することには意味があると感じます。(文中敬称略)


2015年10月23日
から 久元喜造

荒廃と向き合う。そして、闘う。

観光やシティセールスは、重要な分野です。
神戸の魅力を発信する取り組みを強化していかなければなりません。
この取り組みは、美しい場所、魅力的な雰囲気を効果的にPRしていくことが眼目です。

しかし、行政が、魅力の発信ばかりにかまけていたら、それは一種の欺瞞であるし、行政としての使命を果たしているとは言えません。

残念ながら、神戸市内でも、外に発信できないような荒廃した地域の広がりが見られ、そのような現実としっかりと向き合って行くことが大切です。
地域の荒廃の大きな原因が、空き家と空き地の増加です。
空き家の中でもとくに老朽家屋については、その除却に向け、しっかりと対応していく必要があります。
今年度は、空き家対策に関する協議会で精力的な議論が進められ、老朽空き家対策がとりまとめられつつあります。
関係者のみなさんのご努力に感謝申し上げます。
住宅都市局のみなさんも頑張ってくれています。
雑草の繁茂や不法投棄、害虫発生をもたらしている空き地についても、効果的な対策を講じていきたいと思います。

いわゆるゴミ屋敷についても、環境局が体系的な対策をとりまとめつつあり、これから条例改正も含め、精力的に取り組んでいきます。

このように、これまであまり目が向けられてこなかった、地域の荒廃という難問に対して、心ある職員のみなさんが立ち上がってくれていることは、心強い限りです。

華やかな広報宣伝や国際イベントばかりが基礎自治体の任務ではありません。


2015年10月20日
から 久元喜造

高校受験の頃

秋深まりゆく頃になると、中三のときのことを想い出します。
いよいよ高校受験に本腰を入れようとしていた矢先、母が突然ベーチェット病と診断され(後年違うことがわかりましたが)、神戸大学附属病院に入院してしまったのです。

このときから、私の生活は一変しました。
中学は神戸電鉄の箕谷にあり、自宅は鈴蘭台駅から歩いて15分ほどのところでした。
いったん家に帰ってカバンをおろし、駅にとって返して湊川に出て、附属病院まで歩き、母を見舞い、また湊川に戻って、東山商店街やダイエーで食材を買い、家に帰って、父と弟の分も含めて夕食をつくる ― 週に2、3日がそんな日々になりました。

母を見舞う時間がなく、買い物だけして帰ることもありました。
少しでも安い食材を買おうと、商店街をウロウロしましたが、物心ついた時から見知った界隈をひとりで歩くのは、むしろほっとする時間でした。

歳月が流れ、先日、あるパーティーで、女性の方から、こう話しかけられたのです。
「失礼ですが、お母様は、神戸大学の附属病院に入院しておられませんでしたか?」

当時のことをお話していると、間違いなく、母でした。
その方は、当時、看護学生として研修を受けられていたそうです。
私は、大変驚きながらも、
「母は突然、難病を告げられ、私の受験のこともあって、心理的に不安定だったと思います。ご迷惑をおかけしました」
と感謝とお詫びを申し上げたところ、その方は、
「そんなことはありません。お母様は、とても難しい病状だったにもかかわらず、息子のためにも必ずよくなると確信をもっておられました。むしろ元気をいただいたのは、私の方です」
とおっしゃていただき、感謝の気持ちがあふれました。

47年前の病室の光景などがよみがえってきました。


2015年10月17日
から 久元喜造

メキシコシティでOECD円卓会議

image

国土交通省からの要請で、メキシコシティで開催されているOECD 第6回首長と閣僚の円卓会議に出席しています。

米国、スペインなど16ヶ国から9人の閣僚、マドリード、バンコク、豊田など15都市の市長などが出席しています。

テーマは、大都市圏の世紀 レジリエントで包括的な都市政策です。

昼の分科会では、公共交通政策と住宅政策との関わり合いなどについて、議論が行われました。

また、夕方の分科会では、都市の持続可能性がテーマとなり、私からは、突然の震災から得られた教訓と神戸の取り組み、特に匿名性社会の中での模索などについて、テーマに即しながら説明しました。

山田駐メキシコ大使からメキシコ情勢、とくに経済交流の可能性についてご説明いただき、短時間でしたが、メキシコの魅力と課題に触れることができました。


2015年10月14日
から 久元喜造

市役所は city hall か?

市役所は、英語では、city hall と表示されます。
神戸市でもそうしています。
しかし、欧米やオーストラリアなどの city hall は、日本の市役所とはかなり趣を異にしているように感じます。

多くの city hall は、その自治体のシンボルとなっていて、歴史的建造物も多いようです。
ウィーンやミュンヘンの市庁舎 Rathaus も、そのような建造物で、観光名所になっています。

今年の7月、神戸の姉妹都市ブリスベンを訪れましたが、 City Hall の偉容に圧倒されました。
正面玄関を入ると、大きなホールがあり、巨大なパイプオルガンが鎮座しています。
image

アジア太平洋都市サミットの市長主催歓迎晩餐会も、たくさんの招待客を集めてこのホールで開かれ、コンサートのほか、華やかなマジックショーも演じられました。
日本でこんなことをしたら、批判の嵐に晒されることでしょう。

日本では、役所の庁舎に費用をかけることには、批判がつきまといますが、放っておくわけにもいきません。
震災で被災した神戸市役所の2号館(昭和32年竣工)は、老朽化が進んおり、三宮再開発構想の具体化に応じて、いつまでも今のままでよいのかという議論も出てくることでしょう。
同じころに庁舎が建設された他の指定都市では、庁舎建替えの議論が進んでいるところもあります。

city hall のようなイメージを目指すにしても、当然、民間活力の活用を中心に据え、税金の投入を最小限にしなければなりません。
そろりと研究を始めたいと思います。


2015年10月11日
から 久元喜造

WORK SHIFT ワーク・シフト

work

リンダ・グラットン著『ワーク・シフト』(プレジデント社)
<ポイント>
未来を形づくる要因
1.テクノロジーの進化
2.グローバル化の進展
3.人口構成の変化と長寿命化
4.社会の変化
5.エネルギー・環境問題の深刻化

働き方をシフトする
第一のシフト ゼネラリストから「連続スペシャリスト」へ
第二のシフト 孤独な競争から「協力して起こすイノベーション」へ
第三のシフト 大量消費から「情熱を傾けられる経験」へ

エピローグに、政治家への手紙も記されています。
その理由
「私たちが働き方の未来を築くうえで最も大枠となる環境をつくり出すのは、国と政府だ。私たちの職業人生は数十年単位で動くが、政府の指導者は企業経営者と同様、数年単位で職を務める。そのため、未来を考える際に近視眼的になることが避けられない。しかも、選挙で再選されることが最大の関心事である政治家は、社会保障の財源など、未来に関する不愉快な真実をはっきり国民に語りたがらない」。

ポイントだけ見れば、平凡の感じられるかもしれませんが、私たちが、世界の大きなトレンドの中で、どのようにして働き方を「シフト」させる必要があるのか、その方向性は何なのか、とても大きな示唆を得ることができました。
とくに、私もどちらかと言えばゼネラリストですが、単なるゼネラリストでは、民間でも公務部門でも、大きな限界があることが改めてよくわかりました。


2015年10月7日
から 久元喜造

日経「神戸港 よみがえる競争力」

昨日、10月6日の日経新聞朝刊に、タイトルの記事が掲載されていました。
「貨物量、95年以降で最高 上期」
「船会社・荷主への補助金奏功」
「ハブ・釜山から物流奪還」
と、うれしい見出しが並びます。

記事が伝えているのは、神戸港の2015年上期(1~6月)のコンテナ取扱個数が、135万TEU(TEUは20フィートコンテナ換算)と、阪神大震災が発生した1995年以降、最高を記録したことです。
「(神戸以外の)他の5大港が中国経済の低迷を受けて減少する中、神戸港だけが伸びている」(神戸市みなと総局の吉井真局長)状況です。

神戸港で貨物取扱高が伸びている一番大きな要因は、西日本の諸港から神戸港で積み替えられ、基幹航路で輸出入されているフィーダー貨物が伸びていることです。
記事にもありますように、今年の上半期は、5.7%増加しました。
震災以降、西日本の港からのフィーダー貨物は、釜山港などに流れていましたが、神戸港経由に転換しつつあることは、喜ばしい限りです。
関係者のみなさまのご努力に、敬意を表したいと思います。

かつて神戸港は、コンテナ取扱量で世界第2位だったこともあることを思えば、2013年で56位という現状は、決して満足できるものではありません。
神戸が国際港湾都市としての存在感をさらに発揮できるよう、懸命の努力をしていきたいと思います。


2015年10月5日
から 久元喜造

日本の夜景ランキング

rokkou
10月9日(金)に、「夜景サミット2015 in 神戸」が開催されます。
7回目の「日本夜景サミット」です。

あわせて、東遊園地では、10月9日(金)から11日(日)までの三日間、サテライト会場をオープンし、イルミネーションイベントを開催します。
「ハウステンボス(長崎県)」、「あしかがフラワーパーク(栃木県)」、「江の島 湘南の宝石(神奈川県)」が登場します。

少し前になりますが、朝日新聞(9月19日)「be ランキング」は、「一度は眺めてみたい日本の夜景」と銘打った記事を掲載していました。
調査は、朝日新聞デジタルウェブサイトで会員登録者へのアンケートとして行われ、1673人が回答しました。
その結果は、次のとおりです。

1位 函館山(北海道) 1126票
2位 東京タワー    418票
3位 六甲ガーデンテラス 382票  (上の写真)
4位 あべのハルカス(大阪) 360票

以下、横浜ランドマークタワー、稲佐山(長崎)、六本木ヒルズ大展望台東京シティービューが続き、
8位 神戸ポートタワー、206票
9位 摩耶山      158票
が入っていました。
10位は、東京都庁です。

10位までに、神戸の夜景スポットが3カ所入っていたのは、嬉しかったです。
神戸は、海、山、建物などからの多様な景観に恵まれ、魅力的な夜景スポットがたくさんあります。
「夜景サミット」では、ほかの地域から来られたみなさん、専門家のみなさんといっしょに、夜景の魅力をさらにアップさせる方策や、夜景を生かした観光、地域の活性化の方策について議論を深めたいと思います。


2015年10月2日
から 久元喜造

ルポ保育崩壊

kobayashi

著者は、毎日新聞記者出身のジャーナリスト。
現場取材と詳しいインタビューで構成されています。

タイトルのとおり、保育現場の実態が赤裸々に描かれます。
保育サービスの劣化、疲弊する保育士たち、そして、保育園の厳しい経営状況ですが、保育園の置かれている状況がバランスよく記述されているかどうかは、よくわかりません。

役所の対応にも矛先が向けられます。
どこの自治体も待機児童の数に神経をとがらせますが、認可外保育所の園児は待機児童としてカウントされるため、ある自治体では待機児童の解消のため、次々に認可外保育所を認可しているそうです。

ひるがえって、神戸市では、とにかく待機児童を減らすために、なりふり構わず対応するというやり方はしていません。
待機児童ゼロという目標が自己目的化すると、さまざまな歪みが生じるからです。
神戸市の今年4月1日現在の待機児童は13人ですが、これをゼロにするために無理をすることがないよう、かねてより申し上げてきました。
保育所や認定こども園などの定員枠を広げることにより、結果的に待機児童がゼロになることを目指しています。

震災を経験した神戸市は、子どもたちには「いのちを大切にする子ども」に育ってほしいと願っています。
神戸の保育現場では、この願いを実現するため、公立、私立が手を携えて、実践的な研修を実施し、保育士の資質の向上を図っています。

保育には、量の拡大とともに、質の確保、向上がきわめて重要です。
限られた財源を有効に活用し、保育現場の実態をしっかりと見極め、関係者が知恵を結集して、現状を少しでも改善していきたいと思います。