久元 喜造ブログ

2019年11月8日
から 久元喜造

朝日新聞社説「強行」処分批判に答える。⑤


前回
分限・懲戒処分は、事前審査手続きを経ることなく、任命権者の判断と責任で行うというのが、地方公務員法の立法趣旨です。
分限懲戒審査会を任意で設けるにしても、その意見はあくまでも参考です。
しかも、今回の審査会の見解は、条例の規定を適切に解釈したものとは言えず、法律論としても説得力を持ちません。
私がそのように考える根拠については、神戸市のウェブサイト で公表しています。
神戸市教育委員会における分限処分決定に関する市長コメント

朝日社説は、審査会の見解は「まっとうな指摘」とし、私がこの声明を出したこと自体を批判しますが、市長が見解を表明することは許されるのではないかと思います。
上記コメントがおかしいのであれば、ご教示いただきたいと思います。

加害教員は、神戸市の職員です。
もし仮に、審査会の意見を尊重し、今回の処分を行わなかったとしたら、その理由を問われた関係職員は「審査会が決めたことです」と答えたでしょう。
そんな答えに市民は納得したでしょうか。
処分については、これを行った任命権者、神戸市教育委員会がその理由をしっかりと説明しなければなりません。
それが行政としての説明責任です。

かつて地方公務員法案の審議で、鈴木俊一政府委員は「事前審査の制度は、・・・責任を委員会に転嫁いたしまして、真に利益を保障するゆえんでない」と答弁しています。
職員の不祥事の責任を他人のせいにしてはいけない ― そんな思いで先人は地方公務員法案を立案したのだと思います。
今回は、そのような無責任な事態を回避し、教育行政の混乱を防ぐ上で最低限の対応をすることができました。
私は、これで良かったと考えています。(つづく


2019年11月7日
から 久元喜造

朝日新聞社説「強行」処分批判に答える。④


前回
1950年11月、地方公務員法案は国会に提出され、審議が行われました。
分限・懲戒処分を行う手続きとして、事前・事後のいずれかを採るべきかについて、鈴木俊一政府委員は、次のように答弁しています。(1950年11月27日)

「事前審査の制度は、・・・責任を委員会に転嫁いたしまして、真に利益を保障するゆえんでない。むしろ事後において人事委員会なり公平委員会というような機関がこれを取り上げて、さらに審査し、あるいはこれを取消すというようなことがあり得るというような事後審査の制度にいたしました方が、さらに身分保障の趣旨も徹底するように思うのであります」

この答弁からは、地方公務員法の立案者は、戦前の分限委員会のような機関による事前審査を経ることなく、任命権者が自らの責任と判断において分限・懲戒処分を行う方が身分保障の観点からは優れていると考えていたことがわかります。
このような立法意図から言えば、審査会のような第三者機関を設けて処分の可否、内容を審議し、この結果に拘束力を持たせ、あるいはこれに従うこととする慣行を形成することは、運用としては不適当であると言えます。
神戸市の分限懲戒審査会の設置根拠は、地方自治法202条の3第1項に基づき附属機関を設置する条例であり、地方公務員法28条3項、29条4項に基づき分限・懲戒の手続き・効果を定める条例ではありません。
これは上記の立法趣旨を踏まえたものと考えられます。

分限・懲戒処分は、審査会の意見を参考にしながらも、任命権者の責任と判断で行われるべき です。
神戸市教育委員会は、このような観点から、今回の処分を行ったものと考えられます。(つづく


2019年11月6日
から 久元喜造

朝日新聞社説「強行」処分批判に答える。③


前回
分限処分と懲戒処分は、職員に対する不利益処分ですから、身分保障の観点から公正に行われなければなりません。
公正な処分を担保するための手続きとしては、従来から二つの方法があると考えられてきました。
一つは、処分権者とは別に審査会などの組織を設け、この意見を尊重して、処分の可否、その内容を決める 事前審査手続き です。
もう一つは、処分は任命権者が行い、事後に独立性の高い機関が処分の当否を判断する 事後審査手続き です。

話は戦前に遡ります。
大正から昭和にかけて、政党の官僚人事への介入に対して批判が高まり、官僚の身分保障のあり方が問題になりました。
もともと文官分限令6条4号には「官庁事務ノ都合ニ依リ必要ナルトキ」に休職にすることができるとの規定があり、4号休職などと呼ばれていました。
政党はこの4号休職の規定を活用して、意に沿わぬ官僚を次々に休職に追いやったのです。
このため、1932年(昭和7年)に文官分限令が改正され、4号休職については、分限委員会への諮問を要することとなりました。
分限委員会は議決機関ではなく、諮問機関でしたが、その後の運用を見ると、事実上の拘束力を有していたと考えられています。

1950年(昭和25年)に地方公務員法が制定されたとき、分限・懲戒処分を行うにあたり、分限委員会のような事前審査手続きをとるのか、第三者機関に不服申し立てできるとする事後審査手続きをとるのかが議論になりました。
地方公務員については、人事委員会・公平委員会が設けられ、後者の方法をとることとされました。
法案が提出された国会では、この点についてどんな議論があったのでしょうか。(つづく

 


2019年11月5日
から 久元喜造

朝日新聞社説「強行」処分批判に答える。②


前回
今回の条例改正は、加害教員が職務に従事できないようにし、給与の支給を停止するもので、職員に対する 不利益処分 に当たります。
不利益処分は、職員の身分保障の観点を踏まえ、公正に行われなければなりません。
職員が理由もなく首になったり、格下げされたりするようでは、安心して仕事をすることができず、結局は行政サービスが低下するおそれがあるからです。
このような観点から、地方公務員法は、職員の不利益処分として、分限処分と懲戒処分を定めています。

分限処分は、職員に非違行為など一定の事由がある場合に身分上の変動をもたらす処分であり、公務能率の維持を目的にしています。
これに対し、懲戒処分は、非違行為などを行った職員の責任追求です。
懲戒処分が広い意味での懲罰であるのに対し、分限処分の目的は、問題のある職員が職務に従事することにより公務の遂行に支障が生じるのを防ぐことにあります。
職員の意に反する不利益処分は、法が定める分限処分と懲戒処分以外にはありません。(同法27条2項、3項)。

これに対し、朝日社説は「緊急に職員の出勤を差し止める必要が生じた際の制度について、腰をすえて検討」すべきだとします。
職員の意に反して出勤を差し止め、給与を支給しなければ、それはまさに不利益処分です。
朝日新聞は、分限処分と懲戒処分以外の不利益処分を、自治体が条例で自由に創設できると考えているのでしょうか。
いくら地方分権の時代でも、そのような条例は違法であり、職員の身分保障を著しく損ないます。
今回の事案に対する対応としては、法律の委任による条例に基づく休職処分事由の追加が最も適切な措置であったと考えます。(つづく


2019年11月4日
から 久元喜造

朝日新聞社説「強行」処分批判に答える。①


きょう11月4日朝日新聞社説 は、神戸市の「教員間暴力」を取り上げ、「有識者審査会の反対を押し切った処分は危うく、公正の原則を揺るがしかねない」と批判します。
そして、「処分と条例改正について再考するべきだ」と結論付けます。
批判は批判として受け止めたいと思いますが、「再考」の意味が、条例の再改正と加害教員の職務復帰、給与支給再開を意味するとすれば、それはあり得ません。

なぜ、条例改正を急いだのか。
それは、加害教員のおぞましい行為に対する市民の怒りが頂点に達し、給与支給に対する批判が殺到して、とくに教育行政の現場が大混乱に陥ったからです。
教育委員会には抗議の電話が殺到し、通常業務にも大きな支障が出ていました。
市教委の電話がつながらないので、抗議電話は市長部局にもかかってきていました。
このような市民の批判は、理由があるものであったと考えます。

朝日社説は「緊急に職員の出勤を差し止める必要が生じた際の制度について、腰をすえて検討する」ことが「市や議会の役割である」とします。
腰を据えて」じっくり検討し、もしも今回の措置を取っていなければ、現場の混乱は続き、行政サービスの提供に支障が生じる事態に立ち至ったことでしょう。
自治体は、現実と格闘しているのです。

同時に、とにかく事態を乗り切るため、なりふり構わず手続きを進めたわけではありません。
また、Yahooニュース が指摘するように「世論に流され、冷静さを失った」わけでもありません。
公務員の身分保障に関する地方公務員法の規定を読み込み、制定当時の国会審議も調べ、法律と条例の関係も吟味したうえで、条例改正案を立案したつもりです。(つづく


2019年11月1日
から 久元喜造

審査会の判断は受け入れがたい。


昨日、教育委員会は、職員の分限及び懲戒に関する条例の改正規定に基づき、東須磨小学校の加害教員4人に対する分限休職処分を行いました。
これについて、分限懲戒審査会は「本件について、改正条例を適用することは不相当である」と判断しましたが、条例の解釈・運用上極めて疑問であり、到底受け入れがたいものです。

審査会は「起訴される蓋然性が高いとは言えない」あるいは「その蓋然性が非常に低い」ので、「本件について、改正条例を適用することは不相当」としています。
しかしながら、改正条例は「起訴されるおそれがある」ことを分限休職の事由としており、「起訴される蓋然性が高い」ことまで求めてはいません。
本件事案においては、すでに被害者から被害届が警察に提出されており、4人のおぞましい加害行為が被害者の意思に反し、著しい苦痛を与え、被害者に重大な損害を生じさせたことは明らかです。
これらの行為は刑事罰の対象になると考えられ、少なくとも「起訴されるおそれがある」と判断されます。

また審査会は、本件の場合には「懲戒処分として停職や免職を命ずるべき」としますが、分限処分と懲戒処分はその目的、内容、効果を異にしており、同一の事実に対して両方の処分を行うことができるというのは確定した法律解釈です。
今後正確な事実認定に基づき、懲戒処分が行われることを前提として、分限休職処分事由を追加したものであり、懲戒処分を行うべきであるから分限処分を行うことができないものではありません。

加害教員を職務に従事させ、給与を支払うことは、極めて不適当 です。
分限休職処分は、法律論としても間違っておらず、教育委員会の判断を支持します。


2019年10月28日
から 久元喜造

神戸は、ストリートピアノの街。

神戸市が設置を進めている、ストリートピアノ
お陰様で、さまざまなみなさんの参画を得て、広がっています。
最近では、JR新神戸駅、ポートターミナル、神戸空港へ設置しました。
神戸の陸・海・空の玄関口に登場したことになります。
このほか、北神区役所がある エコール・リラ にも、お目見えしました。
コンサート仕様の本格的グランド・ピアノです。
また、期間限定ですが、神戸ハーバーランド umie にも設置しました。
これで、神戸市が設置したストリートピアノは、9か所になりました。

また、民間の商業施設での設置も始まっています。
神戸サウナ&スパ、メイン六甲、灘区民ホール、ジ・アンタンテ マーケットシーン、そして先日オープンした神戸阪急と、5か所に設置されました。
合計、14か所でストリートピアノを楽しんでいただけます。

そして、今回のショパン展の期間中、日本初公開を含む「ショパン自筆の楽譜」の複写を、市内のストリートピアノで展示しています。
自筆の楽譜は2種類ありますので、ショパン展とともに、神戸のストリートピアノを巡ってお楽しみください。

誰でも弾くことができるストリートピアノは、神戸の街に新しいシーンを創り出しています。
新しい出会いやコミュニケーションが生まれています。
ある意味、実験ですから、場所によってはうまくいかないことがあるかもしれませんが、試行錯誤しながらも、広げていきたいと思います。
今回、マップを作成しました。
ご協力をいただきましたストリートピアノ設置関係者のみなさま、また「自筆の楽譜」の複写の展示についてご理解、ご協力をいただきました神戸新聞社にお礼を申し上げます。

 


2019年10月23日
から 久元喜造

TRANS- 作品めぐり。


アート・プロジェクトKOBE 2019:TRANS- が、いま兵庫区、長田区の南部で 開催されています。
ディレクターは、林寿美さん。
街なかの閉鎖空間に置かれているのは、ドイツ人の世界的アーティスト、グレゴール・シュナイダーさん の作品です。
題して 『美術館の終焉ーー12の道行き』 。
12の作品を、第1留(りゅう=station)から第12留へと順を追い、地下鉄や自転車で移動しながら鑑賞します。

以下の3つの作品は、2か所の個人の住宅にあり、住所は公開されていません。
新開地の 神戸アートビレッジセンター にある、第5留の作品を見て場所を知らされ、訪れることができます。
2軒とも、この辺りの懐かしい雰囲気を漂わせる、趣のあるお家です。

上の写真が、第6留『喪失』。
散らかった部屋で誰かが寝っ転がり、スマホをいじっています。

上は、第7留『恍惚』。
パチンコ台のイルミネーションがキラキラと輝く、不思議な空間です。

第8留は、《住居の暗部》。
まもなく取り壊される旧兵庫荘の内部全体が作品になりました。
懐中電灯を頼りに進みます。
かつて労働者が寝泊まりした一時宿泊所の雰囲気が再現されています。

地下鉄・駒ヶ林駅構内の某施設の中には、第9留《白の拷問》。
清潔な不気味さが感じられます。

私がこの日観ることができたのは、全体の一部の作品でしたが、作者のメッセージは何となく伝わってくるような気がしました。
残りの作品も鑑賞し、改めて、第1留から第12留までの全作品を、できれば順に観ることができれば、作者の意図はより明確な形をもって立ち現れてくるような予感がしました。

開催は、11月10日(日)までです。


2019年10月19日
から 久元喜造

タワマンは本当に大丈夫なのか?


台風19号は、東日本各地に大きな被害をもたらしています。
神戸市は、職員派遣、災害廃棄物処理、市営住宅への被災者の受け入れなど、被災地への支援に全力で取り組みます。
被害が広範囲に及んでいる中、川崎市中原区 武蔵小杉高層タワーマンション でも大きな浸水被害が出ています。
停電や断水などで、不自由な生活を余儀なくされている方々も多いようです。
被害に遭われたみなさまに、お見舞いを申し上げます。

私は、従来から、タワマンについて、いろいろな観点から疑念を表明してきました。(2019年6月19日ブログ など)
とくに分譲型タワマンについては、持続可能性の観点から問題があると申し上げてきました。
今回の台風19号による被害は、将来の問題だけでなく、いまここにある危機 を明らかにしました。
川崎市の武蔵小杉のタワマンで、浸水によって停電が発生し、深刻な被害が発生していることです。
停電により、エレベーターが動かなくなるなど日常生活に大きな支障が生じています。

タワーマンションの安全対策、災害対策を講じていかなければなりません。
そして、そのような対応において、タワマン居住者に特別の対策を必要とし、そのための費用が特別に求められるのであれば、受益と負担の公正の観点から、タワマン居住者に特別の負担をお願いする必要があります。
新たな負担に関する議論は、当然のことながら、大きな抵抗にあいますが、今回の事態は、我が国の大都市が、そのような議論が必要な段階に立ち至ったことを示しているように感じます。
そして、高層タワマンを林立させることにより人口の増加を図ることが本当に良いのか、真剣に考えるべきです。


2019年10月13日
から 久元喜造

総合教育会議を開きます。


すでに広く報道されているように、神戸市立東須磨小学校で、教員間のハラスメント事案が発生しました。
神戸市会本会議、定例記者会見 でも申し上げていますが、言語道断の行為であり、激しい憤りを感じるとともに、神戸市教育行政の信用を著しく失墜させたことは、極めて遺憾です。

まずは、事実を明らかにすることが必要です。
教育委員会とも協議し、外部の専門家から成る調査チームを立ち上げることにしました。
専門家の人選は、地方自治法の規定に基づき、教育委員会から委任を受けて、行財政局長が行います。
教育委員会は、選挙で選ばれた市長から教育の政治的中立性を確保するための制度ですが、人選の中立性を確保するために市長部局が関与することは、現在の教育委員会を巡る状況を反映しており、早急な信頼回復が不可欠です。
当然のことながら、このおぞましい行為に及んだ教員に対しては、正確な事実関係に基づき、教育委員会が厳正な処分を行います。

一方で、調査チームの調査を待つまでもなく、明白な事実は、積極的に公開していくことが求められます。
また、この深刻な事案にどのように対応し、ハラスメントの再発を防止していくのかについての方針を明らかにすることが必要です。
そこで、これらの課題について教育委員会と市長との間で議論し、大きな方向性を見出すため、法律に基づく「総合教育会議」を、10月17日に開催することにしました。
総合教育会議では、被害を受けた教員に対するケア、東須磨小学校の児童・保護者への対応なども議題になる見込みです。
併せて、かねてより問題になっている 組体操 についても議論を行います。
当然のことですが、会議は公開で行います。