久元 喜造ブログ

2019年7月2日
から 久元喜造

住宅街にお店があってはいけないのか?


金曜日の夜遅く、阪急六甲の八幡神社の近くを散策しました。
雨が降りしきり、神社の境内と周辺には神々しい気配が漂っています。
静かな住宅街の中に、雰囲気のよさそうなバーがあり、入りました。

もともとここには、ご夫婦でやっておられる居酒屋があったことを思い出しました。
マスターのお話では、この居酒屋を改装し、6月9日に、”Bar Stray Dog” をオープンされたばかりだそうです。
カナディアン・クラブのロックの後、アイリッシュ・ウイスキーを2種類いただきました。

マスターのお話によれば、このあたりには、最近、お洒落なお店が増えているそうです。
静かな住宅街の中に、素敵なレストラン、割烹店、居酒屋、バーなどが点在する街は、魅力的ではないかと思います。

ところが、現在の都市計画のルールは、このような街の姿に背を向けています。
住居専用地域に店舗などを建てることは、厳しく制限されているからです。
いま、住居専用地域に指定されている多くの地域で、人口流出が見られ、空き家・空地が増えています。
そのような中、むしろ、お店やオフィス、工房を増やし、職住近接の街づくりが求められるのではないのか。
先日もこのような問題意識で都市計画担当部局のみなさんと議論しました。
いくつかの方法はあるようですが、「地域の合意」が不可欠とされ、複雑な手続きが必要とされるようです。
これで良いのか。
商業地域では高層タワーマンションが次々建設されているのに、住居専用地域での厳しい立地規制はバランスを欠いているように感じます。
これまでの規制に固執するのではなく、あるべき街の姿をしっかりと描き、その実現のためのルールが求められています。


2019年6月29日
から 久元喜造

牧原出『崩れる政治を立て直す』

振り返れば、もう何十年もの間、行政組織、公務員制度、さらには政官関係について、改革が繰り返されてきたように思います。
牧原出教授は、「いつ頃からか、こうした改革を抱え込むことが重苦しくなってきたように見える」と観察されます。
「改革が思わぬ結果を生み、コストばかりがかかったり、現場が過重な負担にあえいだり、という事態が目立つようになったはいないだろうか」と。
このような問題意識から出発し、本書では、「制度をどう設計するか、という問いかけの前に、設計された制度がどう作動しているか」を考察の対象とします。
こうして本書では「作動」という言葉が頻繁に登場し、「作動学」による分析が試みられます。
歴代政権において実施された改革は、意図されたとおりに「作動」したのか。

私は、小泉内閣、第1次安倍内閣、福田内閣、麻生内閣、民主党政権、そして第2次安倍内閣の時代、課長、審議官、部長、局長としてその真っただ中にいましたので、たいへん興味深く拝読しました。
牧原教授は、「静かに変化が起こるように仕組まれた改革こそが、成功した改革」であるとし、例として、省庁再編と地方分権改革をを挙げます。
一方で、公務員制度改革については、「過去の失敗事例が関係者の間でそもそも共有されて」おらず、改革を牽引する集団は「その制度が果たして当初の目的を達成できるのか、副次的作用をもたらさないのか、またそもそもどうやって既存の運用から新しい運用へと「円滑に移行」できるのか、といった諸点に答えるところがなかった」とされます。
私は、公務員制度改革には直接は関わりませんでしたが、その過程をごく近くで見ていた者として、同じ印象を持ちます。


2019年6月19日
から 久元喜造

高層タワマンが林立する都市をめざすべきだろうか。


高層タワーマンションのあり方に注目が集まっています。
都心居住へのニーズは強いものがあり、高層タワーマンションの立地を厳しく規制することは、適当ではないし、現実的でもありません。
しかし、人口増加を図るために、都心など極めて狭い地域にタワマンを林立させるという政策は、とるべきではないと思います。
特定の地域への極端な集住は、災害時への対応を困難にする可能性がありますし、将来一気に街の老化が進み、予想を超える困難な事態が現出するおそれもあります。

また、そのような政策は、神戸のこれまでの歩みや都市としての特性から見ても適切とは言えません。
神戸は、戦前から鉄道網が発達してきた便利な都市です。
西日本で最も早く鉄道が走り、国有鉄道だけではなく、今の阪急電鉄、阪神電鉄、山陽電鉄、神戸電鉄の各私鉄が戦前から運行されてきました。
戦後は、地下鉄・西神山手線、海岸線が開業し、ポートライナー、六甲ライナーが自動運転で海上文化都市との間を結びます。
沿線にはバランスのとれた形で市街地が形成されてきました。
これは、神戸という大都市の貴重な財産です。

そのような都市としての歩みを無視して、都心に人口を集住させる都市政策をとれば、我が国全体が人口減少時代を迎えている中、沿線人口の減少、鉄道事業の採算性の悪化、鉄道の利便性の低下、さらなる沿線人口の減少という悪循環を招く恐れがあります。
何十年後かに、都心が一気に老化し、郊外が過疎化し、荒廃するという事態は悪夢です。
神戸は、人間らしい都市を目指したいと思います。
便利な公共交通網のインフラを活かし、バランスのとれた、持続可能な街づくりを進めていくべきではないでしょうか。


2019年6月8日
から 久元喜造

松宮宏『アンフォゲッタブル』


松宮宏さんの今回の作品も、神戸が舞台です。
主人公は、ずばり、ジャズ。
そしてジャズの名曲たちです。
私は、音楽はどちらかというとクラシックの方が好きで、ジャズは深夜にビル・エバンスなどをときどき聴く程度ですが、改めて神戸が発祥の地であるジャズの世界に分け入っていきたいと思いました。

登場人物は、川崎造船所を退職した元潜水艦のエンジニアをはじめ、みんな何らかの形でジャズに関わっています。
現実の世界で活躍中のジャズミュージシャン、広瀬未来さん、高橋知道さんが実名で登場します。
そして、神戸近郊の中学生・高校生が参加するジャズ・ユース・オーケストラは、ストーリーの中で重要な役割を果たすのです。
市長も、ついでにほんの少しだけ顔を出します。
多くの企業、大学、商店街、行政機関、そして老舗テーラー「柴田音吉洋服店」、楠町の老舗寿司店「鮨いずも」などのお店も、実名で登場します。

ジャズが多くの人々を結び、つなぎ、絆をつくっていきます。
そして、つながりを深めていくのです。
試行錯誤や挫折、行きつ戻りつを重ねながら、登場人物たちは、神戸の街を舞台に互いにつながることによって、未来への力を手にしていきます。
定年退職後、自分で周りに壁をつくり、トラブルも絶えなかった元潜水艦エンジニアは、もう一度好きだったジャズの世界を再発見することによって、若者たちに大きなプレゼントを贈ることになります。
そして、先だった妻への愛情を胸に、人生の終焉を迎えます。
終活のエピソードが関わることによって、物語は一層の深みを増すことになったように感じました。
ラストシーンでは、ビル・エバンスの《ワルツ・フォー・デビー》が奏でられます。


2019年5月31日
から 久元喜造

地方選挙・低投票率の背景⑤


かつて、例えば30年ほど前、郡部において投票率が極めて高かったという事実の背景には、人々にとり、町村役場や町村議会が身近な存在であったということがあるのではないかと思います。(2019年4月25日のブログ
月日は流れ、社会のありようは大きく変わりました。
人の周りに、現実の人間関係の距離に応じて、同心円状に世界が存在しているというモデル(2019年5月16日のブログ)は、おそらくは完膚なきまでに破壊されたのではないかと思います。
その最大の要因が、ネット空間が世界を覆い尽くしてきたという現実にあることは言うまでもありません。
ネット化の進展は、リアルな世界において存在していた人間同士の距離感を根底から変容させました。
遠い世界を近く、身近なものとするともに、かつて現実に存在してきた身近な世界を相対的に遠いものに変えたと思います。
人がスマホなどでネットを通じ、どこにでもアクセスできるようになり、ネット空間に身を置く時間が長くなったことに伴い、現実の身近な世界との関わりは疎遠にならざるを得ないからです。
地方選挙における投票率の低下は、ネット世界の進展と密接に関連しているように思えます。

ネット世界は、いまやリアルな存在となりました。
ツイッターでトランプ大統領といつもつながっている人にとって、すぐ近くにいる市長や議員の方が縁遠い存在になってしまったのかもしれません。
これは残念なことですが、それが現実です。
ネットをツールとして活用しながら、顔の見える地域社会を復権させていくことが、迂遠なようですが、地域社会への関心を高め、地方選挙の投票率向上につながる可能性を有しているのではないかと愚考します。


2019年5月16日
から 久元喜造

地方選挙・低投票率の背景④


1980年代、郡部での投票率は、たいへん高い水準でした。(4月25日のブログ
同じ頃に出版された、京極純一『日本の政治』(1983年 東京大学出版会)には、日本人の伝統的な秩序構造に関する興味深い記述があります。
故京極先生は、日本人が生きてきた伝統的な社会制度の中での人間交際の世界は、自分を中心において四重の同心円で表現できると考えました。
一番中心にある円は「身内」の世界。
母子一体の世界(ウチ)、自分と一体化した家族(マイ・ホーム)、親子、血族の世界です。
その外側には「仲間」の世界があります。
他人の中で「狭い世間」に属する人々がこの仲間に該当します。
「ムラ集合体、町場、市街地の近所合壁や同じ町内など地縁の上で「近い」人々、第二は勤め先集合体、とくに自分と同じ部課の仲間、第三は自営業主、経営者などにとって同業者、業界、あるいは、取引先や企業系列の組織などの人々」です。
ここでは、他人ながら個人識別があり、評判や噂などが伝わります。
外側にある三番目の同心円は「赤の他人」の「広い世間」。
クニ、天下、日本全体です。
そして、さらにその外に海外、外国、世界を示す「広い世界」があります。

近代化は、このような同心円構造を希薄化しましたが、1980年代の政治を考える際、このモデルはまだ有効でした。
この時期の町村は、「仲間」そのものではなかったけれど、少なくとも「赤の他人」の三番目の同心円ではなく、「身内」に近いところにある、顔見知りに近い世間ではなかったかと考えられます。
この時期における、今から考えれば異常に高い投票率は、選挙が身近な世間で起きる重大なできごとだったからだと思われます。


2019年5月6日
から 久元喜造

地方選挙・低投票率の背景 ③


去る4月7日に行われた神戸市会議員選挙の投票率は、全市で、39.98%と、過去最低を記録し、初めて40%を切りました。
区ごとに見てみると、かなり差があるのがわかります。

一番高いのは、須磨区で、43.85%。
次に、北区の 41.89%、東灘区の 40.90% と続きます。

一番低いのは、中央区で、33.52%。
次に、長田区の 36.37%、西区の 39.01% と続きます。

投票率が一番高い須磨区と、一番低い中央区との間では、10.33%もの差があります。
中央区は、とくに近年、人口が増えており、須磨区は、人口減少が目立っています。

8年前の統一地方選挙の年、2011年と、2019年の人口増減率を見てみると、
人口増加率が高いのは、
中央区 8.90%
灘区 2.03%
東灘区 1.92%

人口減少率が高いのは、
長田区 -5.86%
北区  -5.67%
須磨区 -4.68%

こうして見ると、人口増加率が一番高い中央区の投票率が一番低く、人口減少率が一番高い須磨区の投票率が一番高いのですが、ほかの区について見ると、人口増が見られる地域では投票率が低く、人口減が見られる地域では高い、と断定することもできません。
投票率は、それぞれの選挙区の選挙情勢にも影響されます。
ただ、今回、前回、前々回とも、中央区の投票率がいつも低く、全市で最低であることは特徴的です。

投票率の細かい地域毎の状況は、選挙管理委員会から公表されませんが、住民の転出入や高齢化の状況、高層タワーマンションの増加など地域の変容と投票率がどう関係するのか、あるいは関係しないのか、研究者の協力を得ながら、もう少し分析する必要がありそうです。


2019年4月25日
から 久元喜造

地方選挙・低投票率の背景 ②


自治体選挙の投票率は、以前から、郡部などでは高く、大都市部では低い傾向が見られてきました。
自治体の規模が小さいほど、住民との距離が近く、その存在が身近に感じられるからだと考えられます。

私は、1980年代、青森県で選挙管理委員会事務局長を務めましたが、当時の投票率は、とくに郡部で極めて高く、たとえば、津軽地方にあった当時の木造町の町長、町議会議員選挙の投票率は、以下のとおり、90%を超えていました。
町を二分する、極めて激しい町長選挙だったと記憶しています。

木造町長選挙(1983.4.24 執行)95.01% (有権者数 16,963人)
木造町議会選挙(1984.2.26 執行)92.69% (同 15,826人)

木造町は合併し、つがる市になりました。
つがる市の市長選挙は、直近も含めて、無投票が続いています。
直近の、つがる市議会議員選挙(2019.1.27 執行)の投票率は、72.36%(有権者数 28,376人)でした。

大都市部よりもかなり高い水準ですが、旧町のときよりも、20%程度、低下しています。
合併により、市長・市議会との距離が遠くなったからかもしれません。
合併だけが原因であるとは断定できませんが、旧郡部においても、お互いに顔が見えていた地域社会が変容してきている可能性もあります。

4月21日に執行された統一地方選挙では、町村長・町議会議員選挙の投票率とも、過去最低となりました。
投票率の低下傾向の背景には、人々の投票行動に影響を与える構造的な変化があるように思えます。
投票率低下の背景や対応策を含め、各方面から多角的な考察・分析が求められるように感じます。(続く)


2019年4月19日
から 久元喜造

地方選挙・低投票率の背景 ①


自治体選挙の投票率が低下し続けています。
神戸市議会議員選挙の投票率は、39.98%と、40%を割り込み、前回に続き、過去最低となりました。

地方自治への関心の低下を嘆く社説や論説が多い一方、その背景、要因を分析した記事・解説は多くはありません。
そのような中、現場を取材し、要因について触れた記事がありました(朝日新聞 平成31年3月25日朝刊)。

「「住民の声を」形だけでは 低投票率 高砂市から考える」と題されたこの記事では、建設が進む新庁舎の基本設計に関し、市が行ったパブリックコメントが取り上げられていました。
これまでのパブリックコメントに対し「意見ゼロ」が半数以上に上ったことについて、
「説明会や意見公募を形だけ済ませればいい、では逆に市政への無関心を誘発し、投票率の低下にもつながっていく」という専門家の声を紹介しています。
さらに、別の専門家の意見として、「地方衰退と均質化の中で政治的な地域性が失われてきた」こと、「決して政治的な争点がなくなったわけではないのに、(オール与党化などで)争点が見えにくくなった」ことが指摘されます。
そして、「今年2月の沖縄県民投票のように、民意が一顧だにされないような現実を見せつけられれば無力感は強まる」と締めくくります。

この分析について、どう思われるでしょうか?
高砂市での選挙の投票率が低いのは、市のパブリックコメントのやり方が悪いからなのか?
沖縄県の住民投票に対する政府の対応が悪いからなのか?

率直に申し上げて、ちょっと違うのではないかと感じます。
長年続いてきた、地方選挙の投票率の低下には、もっと根本的な要因があるような気がします。(続く


2019年4月15日
から 久元喜造

熊本地震から3年


熊本地震から、昨日で3年となりました。
神戸市では、地震発生後、直ちに情報収集を開始し、緊急消防援助隊として消防職員が現地に向け出発しました。
関係方面からの要請を受け、4月16日には水道局の応急給水隊を、17日には危機管理室の先遣調査隊を派遣しました。
4月18日、「平成28年熊本地震 緊急応援対策本部」を設置し、各局から次々と職員を派遣しました。
派遣された職員のみなさんは、避難所の運営、健康・衛生面での支援、廃棄物の処理、応急給水、下水道施設の復旧支援、建物の応急危険度判定など幅広い支援業務に従事しました。

任務を終えて帰還した職員から、現地の状況について報告を受けたことを想い起します。
阪神・淡路大震災の災害対応に経験のある職員からは、当時の経験を踏まえながら、必要なアドバイスを行ったとの話も聞きました。
同時に、多くの職員からは、被災自治体で活動する中で生起している事象について、生々しい説明を聞きました。

この3年の間、熊本県内へは、神戸市民や市内企業からの支援も活発に行われてきました。
さまざまな活動に従事し、支援に貢献していただいてきたすべてのみなさまに、感謝を申し上げたいと思います。

神戸市は、今年度、熊本市に1名、益城町に2名の職員を派遣します。
このほか、引き続き、東日本大震災被災自治体の名取市、石巻市、南三陸町に、4名の職員を派遣します。
健康に留意し、復興のために頑張ってほしいと願っています。

神戸市も、熊本市も、震災で大きな被害を受け、試練を乗り越えてきました。
お互いの経験や想いを共有し、議論を重ね、災害への備えを強化していく努力を重ねていきたいと、改めて感じます。