久元 喜造ブログ

2025年3月1日
から 久元喜造

神戸の街の再生(つづき)

令和7年度神戸市予算の柱は、持続可能な形での「神戸の街の再生」です。
都心の再生」、「既成市街地・ニュータウンの再生」、「森林・里山の再生」を一体的にすすめることとし、新しい施策も数多く盛り込んでいます。

都心の再生」は、ほぼ計画どおり進捗しており、三宮、ウォーターフロントにおいて姿を現し始めています。
既成市街地・ニュータウンの再生」は、西神中央、名谷、垂水などの駅前リノベーションが進められており、駅前が次々に変わってきています。
高齢化や人口減少が進んでいるニュータウンの活性化にはさらに力を入れていく必要があり、現在策定中の基本計画の中において具体化を図ります。

森林・里山の再生」は、ここ数年、個別の施策をスタートさせており、いよいよ神戸市の重要政策として、強力に、そして体系的に進めようとするものです。
神戸は、都心に近接した海と山、先人たちから受け継いだ豊かな里山を有しています。
これらの自然環境は、神戸の大きな財産です。
一方、世界的な潮流として、政府・企業・財団や国際機関が森林の保全・再生に力を入れ、大規模な投資を行うようになっています。
神戸の強みを活かした森林の再生は、このような潮流に沿うものであり、グローバル社会の中でブランド価値を獲得できると考えます。
黒田慶子副市⾧をトップとする推進本部を設置し、市民、企業、NPO、大学など多様な主体との協働を積極的に進めていきます。
たくさんのみなさんの参画を得て、暗い森に手を入れて明るい森とし、広葉樹林の木材活用を進めます。
生物多様性の回復にもつながることでしょう。
山の樹木を都心部に移植するなど、街なかの緑と木陰を増やします。


2025年2月28日
から 久元喜造

神戸の街の再生


令和7年度神戸市当初予算の目指す基本的方向は、「神戸の街の再生」です。
これまでの神戸の街づくりを踏まえた上で、持続可能な大都市経営を目指した政策展開です。

かつて神戸市は、山を削って海を埋め立て、ポートアイランド、六甲アイランドを創り、郊外には産業団地やニュータウンを造成していきました。
「山、海へ行く」の開発手法は、「株式会社・神戸市」としてその名が轟きました。
しかしこの開発手法は、いずれ終焉を迎えることが宿命づけられており、震災前の1990年前後には、限界を迎えていたと想像します。
そして神戸の街を、あの地震が襲いました。

震災後の神戸市政は、災害応急対策、震災復旧・復興に全力を注ぎました。
国の財政措置顔が不十分な中、巨額の市債の償還は神戸市の財政力を超え、矢田立郎市長の断固たる決意の下、行財政改革が進められました。
この結果、財政状況は改善していきました。
実質公債費比率、将来負担比率とも、近年は良好な水準で推移しています。

財政対応力が回復した神戸市は、新しい視点で大都市としての発展を期することにしました。
都心・三宮再整備、ウォーターフロントの活性化、郊外の駅周辺のリノベーションなどをスタートさせました。
これらの取り組みが、いま姿を現しつつあります。

今年の4月、神戸空港は、国際空港となります。(2024年12月7日のブログ
神戸空港の国際化により、神戸は、陸・海・空の要衝としての地位を確固たるものとし、飛躍的な発展に向けた可能性を手にすることができました。
この可能性を現実のものとし、かつての姿とは異なる、新しい国際都市として神戸を蘇らせ、再生させることが求められています。(つづく


2025年2月22日
から 久元喜造

エンデ『鏡の中の鏡』


岩波現代文庫(丘沢静也訳)で読みました。
30の短編が収められています。
出版元の岩波書店のウェブサイトには、「ひとつずつ順番に,前の話を鏡のように映し出し,最後の話が最初の話へとつながっていく」とありましたが、短編同士のつながりは、理解できませんでした。
それぞれの物語も、幸福感のあるファンタジーではなく、不気味な、まるで悪夢のような世界が次々に現れます。
ほとんど、意味が分かりませんでした。
そこで、たまたまどこかの書店で目にした絵本のことを想い出し、ネットで購入しました。
絵本画家・junaida(ジュナイダ)による『EDNE』(白泉社)です。


どの絵も合わせ鏡で描かれていて、不思議な迷宮の世界に連れて行ってくれます。

最後のお話、第30話では、冬の夕暮れ、雪におおわれた境界(はてし)ない平原の真ん中に、廃墟の残骸がそびえ立ち、扉がひとつ付いています。

この扉の中に入り、帰ってきた者はいません。
若い闘牛士が王女に促され、扉を通り抜けます。
王女はこう呟くのでした。
「私は、この扉のむこうにいる弟のことを考えていた。かわいそうな弟ホルのことを」
彼女は、向きをかえて立ち去りながら、もう一度つぶやきます。
「かわいそうな、かわいそうなホル」

第1話の主人公は、ホル。
ホルは、からっぽの巨大な建物に住んでいて、そこでは、声に出された言葉は、ほとんど終わるこのない、こだまとなるのです。
絵本には、こう記されています。

Why go through this door.
When, and from which side.
And, who is that actually walks inside.


2025年2月14日
から 久元喜造

楡の町ーーー百田宗治


書棚を整理しているとき、たまたまこの詩集を見つけました。
ずいぶん久しぶりに、開きました。
高校2年のとき、おそらく元町の海文堂で購入したと思われます。
詩集の中に、「楡の町」がありました。
小学生の5年生か6年生のとき、教科書に載っていた詩です。
私は、この詩がとても好きでした。

見渡すかぎりのささ原や、沼や、湿地や、林の中に
高いにれの木が一本あった。
春になると、芽をふいた。
・・・・・・
広い原っぱの西の方には
まるい山や、三角形の山がいくつもかさなり、
その向こうから、原っぱの真ん中をつっきって、
川がひとすじ東北の方角へ流れていた。
夜になると、きつねが鳴いた。
山のかげがくろぐろとせまった。
寒い、お月さまもこおりそうな冬の晩に、
その山の上でおおかみもほえたかもしれぬ。
・・・・・・
――そして、ある冬の寒い日、
にれの木ははじめて自分の方に近づいてくる
見なれぬ人間たちの姿を見た。
いちめんの根雪の上に、
まだ白い粉雪が降り積っていた。
人びとは武者ばかまの上に
陣ばおりのような外とうをかさね、
腰にはみんなまだ刀をさしていた。
・・・・・・
にれの木はなにもかも知っていた。
にれの木はなにもかも見ていた。
――しかし気のついたとき、
うさぎ、りすはもう自分のそばにはいなかった。
きつねの鳴き声も聞えなくなった。
にれの木は自分だけを道ばたにのこして
りっぱなコンクリートの道路が
まっすぐ走っているのを見た。
・・・・・・
北海道の札幌の町がこうしてできた

月が輝く山の上で吠えるオオカミの姿を、小学生の私は想像しました。
大人になって、札幌で仕事をしていたとき、知らず知らず、「楡の町」の一節を口遊んでいたのを思い起こします。


2025年2月8日
から 久元喜造

西桂『兵庫の庭園ものがたり』

神戸新聞の書評で本書を知り、興味深く読みました
著者は日本庭園史家の西桂先生で、神戸市文化財保護審議会の副会長なども歴任されています。

冒頭、写真で紹介されるのは、西区伊川谷・太山寺の安養寺庭園です。
神戸市内をはじめ、兵庫県内各地の庭園が取り上げられています。
さまざまな庭園が、築かれた時代や背景、現代までの変遷とともに紹介されています。
幕末から近代にかけては煎茶道が隆盛した時代で、庭園は「自然の中で茶を煮る」煎茶の空間に近かったとされます。
明治維新になると大名庭園は衰退し、政財界の指導者たちが庭園を営みます。
そこでは、「文人煎茶の庭」の要素と「抹茶の空間」が融合していきました。
このような「煎茶的意匠」を持った庭園の代表が、垂水区の旧木下家住宅です。
北側の中庭は茶庭風の和風庭園で、四畳半茶室「青松庵」に付随しています。
改めて、旧木下家住宅を訪れてみたいと思いました。

一方、本書では「崩壊の危機に瀕する名園」という見出しで、人が住まなくなり、荒れ果てている庭園が見られるようになっていることも報告されています。
そのような事例として、但馬地方に現存する飛蚊泉庭園と古茂池庵庭園があり、著者もその再生に尽力されているようですが、継続的な取り組みには困難を伴うようです。
とても残念なことです。
県内における地域の衰退が、文化遺産の保全にも影響を与えていると危惧されます。
神戸市内では、北区の淡河宿本陣跡が長い間荒れ果てていましたが、神戸市の支援もあり、地元のみなさんの手によって再生されました。
庭園も見事に蘇りました。(2017年6月17日のブログ
こうした努力を今後とも続けていきたいと思います。

 


2025年2月2日
から 久元喜造

野澤千絵『2030-2040年 日本の土地と住宅』


都市部では不動産価格が高騰し、住宅は入手困難になっています。
東京23区の2023年新築マンションの平均価格は、1億1,483万円になりました。
これでは、パワーカップルでも手が出ません。
マンションの高騰は、東京のみならず、大都市のほか中小都市でも見られます。
都心では新築マンションの価格高騰を背景に、中古マンションや新築・中古戸建住宅の価格も上昇しています。
著者は、その要因の一つに、市街地再開発事業の多用を挙げます。
市街地再開発事業では、保留床を多く生み出すために建物を「高く大きく」しがちで、地権者への補償や従前の老朽ビルの解体も加わり、全体事業費を押し上げます。
さらに、円安を背景に外資・外国人による不動産購入が旺盛になり、不動産投資・転売目的の購入が活発になっていることも要因として挙げられます。
価格の上昇が続く一方で、東京圏では供給数が減少しています。
もはや都市圏は都市化しきってしまい、マンション建設の適地が少なくなっているのです。

中古マンションの供給数は減っておらず、郊外でも旧耐震基準のマンションが”ビンテージマンション”などと称され、それなりの価格で売れています。
このように、住宅市場の中で、高額すぎて「手が出ない住宅」と、立地や古さなどから「手を出したくない住宅」が増えている一方、「手が出せる」「手を出したい」住宅の数が増えていないため、住宅の入手が困難になっているのです。
著者は、一般的な世帯に入手可能な「アフォーダブル住宅」の供給が不可欠と指摘します。
人口減少が続く中、将来の解体に困難が伴う集合住宅一辺倒ではなく、手頃な戸建て住宅の供給にも目を向ける必要がありそうです。

 


2025年1月24日
から 久元喜造

兵庫県育才会「尚志館」


1972年(昭和47年)、高校を卒業して上京すると、ほとんど地震がなかった神戸に比べ、かなりの頻度で地震があるのには驚きました。
大学に入学して入ったのが、兵庫県育才会が運営する兵庫県学生寮「尚志館」でした。
兵庫県育才会は、旧篠山藩主直系の青山家が社団法人篠山育才会を創業し、郷土出身の有為な人材を育成しようとしたのが始まりです。
しばらくは兵庫県立篠山鳳鳴高校の卒業生が対象でしたが、その後、県内の他の高校卒業生にも門戸が広がりました。

尚志館は、小田急線・参宮橋駅から歩いて5分くらいの閑静な住宅街にありました。
学園紛争は下火になっていましたが、多くの大学でストが続き、授業もなかなか始まりませんでした。
新宿駅周辺ではときどきデモや騒乱が起きていました。
ニクソン大統領が訪中し、世界中を驚かせたと思うと、ほどなくウォーターゲート疑惑が発覚し、泥沼の様相を見せていきました。
田中角栄内閣が発足し、日本列島改造ブームが国中を席巻しました。

激動の時代の中で、尚志館の寮生たちは青春の日々を過ごしました。
寮には、県立篠山鳳鳴高校のほか八鹿高校、柏原高校、社高校、姫路西高校、加古川東高校など県内各地の高校の卒業生がいました。
お互いの部屋を行き来して政治談議を戦わせる一方、それぞれの郷里の話を聞くのは楽しいひとときでした。
篠山鳳鳴高校の卒業生は、デカンショ節を教えてくれました。
「デカンショ、デカンショで半年暮らす あとの半年寝て暮らす」
ときには、何人かで替え歌をつくって歌い継ぎました。

篠山でお盆の時期に行われるデカンショ祭りにも呼んでくれました。
会場には、浴衣姿の坂井時忠知事の姿もありました。


2025年1月18日
から 久元喜造

佐藤卓己『あいまいさに耐える』


著者の主張は、「はじめに」で端的に述べられます。
「輿論主義」を復活させるべきだと。
世論(空気)を批判する足場としての輿論(意見)を取り戻すこと、その前提として輿論と世論をもう一度使い分けることを提唱します。
そしてこの「輿論主義」のためには、リタラシー(読み書き能力)よりもネガティブ・リテラシー(消極的な読み書き能力)が必要だとされます。
ネガティブ・リテラシーとは、「あいまいな情報を受け取ったき、あいまいなまま留め置き、その不確実性に耐える力」です。
「SNSなどにあふれる情報を必要以上に読み込まず(やり過ごし)、不用意に書き込まない(反応しない)だけの忍耐力」と説明されます。
そのように考えるに至った筋道として、世論駆動の「ファスト政治」、東日本大震災後の「メディア流言」、安保法制をめぐる「デモする社会」、「情動社会」における「快適メディア」などに関する考察が想起されます。

このような思考過程を経て、AI時代に求められる態度が、「ネガティブ・リテラシー」だとされます。
白黒、善悪、優劣などの判断を急がず、あいまいな状況に向き合う態度です。
いま、真偽不確かな情報がネット空間に溢れていますが、情報の真偽はすぐには誰にも分かりません。
それを明らかにするのは、時間の経過です。
時間の経過によって真実が明らかになるのを待つ我慢強さということなのかも知れません。
人間性はあいまいさの中にあり、人間は誤りから学ぶことができる存在です。
「ON/OFF、白/黒のデジタル思考への抵抗力を高めること、あいまい情報の中で事態に耐える人間力こそが、AI時代に求められるリテラシー」だと結論づけられます。


2025年1月10日
から 久元喜造

谷原つかさ『「ネット世論」の社会学』


帯には、「「民意」を作るのは、0.2%のユーザだった」「ネット上で多数派に見える意見は、必ずしも実際の支持率や選挙結果とは相関しない」とあります。
2012年衆院選、2022年参院選、2023年大阪府知事選について、ネット世論に関するデータを集めて分析し、このような結果が導かれます。
たとえば大阪府知事選挙における吉村洋文候補に関する投稿では、ネガティブが62,1%、ニュートラルまたは態度不明が26,1%、ポジティブが11.8%でしたが、選挙結果では吉村候補の圧勝でした。
このような相違が生じる背景について、「フィルターバブル」「エコーチェンバー」「沈黙のらせん理論」などの概念を用いて、「ネット世論」の実態が分析されます。

興味深かったのは、ジャニーズ問題に関するネット世論と報道に関する分析から導かれる「少数派が力をつけるストーリー」です。
「ソーシャルメディア時代においては、エコチェンバーにより孤立の恐怖を感じにくい」ため、「自分の周囲において自分に似た意見が可視化され、容易に意見表明ができるようにな」ります。
「自身が少数派であることすら認識できていないかもしれ」ないと。
著者は最後の章「フェイクニュース時代の歩き方」で、ネット世論とどう向き合うかについて指摘していますが、それらはいずれも常識的な内容だと感じました。

しかし、状況は大きく変わります。
2024年の衆院選、兵庫県知事選の後、著者は昨年の11月「一連の選挙において、潮目は変わったように思います。正直な話、拙著を今読むと隔世の感があります」と吐露されています。(朝日新聞デジタル)。
今後の議論の行方に注目したいと思います。


2025年1月2日
から 久元喜造

2025 新春座談会 特別編


元日に放映された、サンテレビ新春恒例の座談会に出席しました。
今年は、例年のような座談会形式ではなく、齋藤元彦 兵庫県知事、川崎博也 神戸商工会議所会頭、高梨柳太郎 神戸新聞社長、そして私への個別インタビューとして行われました。

震災から30年を迎えました。
あの大地震は、ほとんどの神戸市民にとっても、また行政にとっても、予期せぬ大災害でした。
この30年間の神戸市政は、あのようなことは絶対にあってはならないという決意で、災害に強い街づくりに取り組んできたと思います。
20年の歳月をかけて大容量送水管を建設し、遠隔操作で水門などを開閉できる防潮堤を整備し、ポンプ場を整備して下水管により市街地を浸水から守る施設を整備するなどの努力を重ねてきました。
震災時に内外から受けた支援に感謝の気持ちを抱きながら、東日本大震災などの被災地に数多くの職員を派遣して支援活動を行い、震災時の経験を活かすとともに、被災地支援で得られた知識や経験を継承し、組織全体で共有する取り組みも進めてきました。
能登半島地震被災地支援で得られた技術や気づきを、発災時の初動対応、避難所運営のあり方などに活かすべく、災害対策の総点検を行っていきます。

都市の発展は、強靭な都市基盤の上にはじめて成り立つと信じます。
今後とも、神戸市のこれまでの歩みと先人の想いを受け継ぎながら、ハード・ソフト両面にわたる災害対応力の強化を図ります。
神戸空港は、今年4月に国際空港となり、神戸はかつての神戸とは異なる、新しい時代の国際都市への可能性を手にしています。
神戸の持つ力を最大限に開花させることができるよう、今年も全力を尽くします。