久元 喜造ブログ

2016年9月3日
から 久元喜造

岡田尊司『マインドコントロール』

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「マインドコントロール」という言葉は、オウム真理教による犯罪以降、ひんぱんに用いられるようになりましたが、今日さらに深刻な事態に陥っているように感じます。
この点について、筆者は、端的に警告を発します。

「孤独に暮らすことが当たり前になり、同時に、メディアからの大量の情報に日夜さらされて暮らす現代人は、感覚遮断情報過負荷という両方の危険に直面していることになる」

たとえば、小さな集団の中で外部と遮断された状況にいると、特定の考えだけを絶えず注ぎ込まれれば、それが自分自身の考えなのだと認識されるようになります。
巧みに、その集団への愛着や指導者への尊崇に身を委ねると、集団の期待と異なる行動はできなくなり、仲間への裏切りは、自分の存在を傷つけます。

このような現象は、カルト集団やテロ組織のみならず、会社などでも見られると筆者は言います。
たとえば、長時間サービス残業が常態化した会社では、社員は、慢性的疲労を抱える中で、主体的な判断力を持てなくなっていき、ノーと言えない状況の中で、結局は使い捨てにされていくのです。

本書は、今日「マインドコントロール」と説明されている事象に関する歴史的考察の上に、CIAなど情報機関が捕虜から情報を得るために駆使した手法を含め、豊富な事例を提示してくれます。
テロ組織に身を投じる若者が後を絶たない欧米の状況は、社会の矛盾を解決するだけでは不十分で、「マインドコントロール」の餌食にされやすい若者一人一人に対する見守りとケアが必要なのだとすれば、それは気が遠くなるような努力が求められることでしょう。
眩暈のようなものを感じました。


2016年9月1日
から 久元喜造

救急出動「空振り」17.4% の衝撃

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防災の日に。
少し前になりますが、8月17日の朝日新聞一面に、「救急出動の空振り急増 63万件、10年間で1.5倍」という見出しの記事が載っていました。
119番通報で出動した救急隊が誰も運ばずに引き返す「不搬送」が急増しているという内容です。
不搬送の理由は、家族らが通報したが搬送を拒む「拒否」(32%)、隊員が応急処置をして医療機関に搬送しない「現場処置」(18%)、けが人や病人がいなかった例やいたずら(11%)などでした(2014年データ)。

不搬送の割合は、兵庫県が12.9%で、大阪府に次いで全国2番目でした。
そこで、消防局の担当幹部に神戸市の状況を聞いてみたところ、2015年の救急出動が78,264件、そのうち不搬送が13,618件で、不搬送の割合は、17.4%、兵庫県(12.7%)よりも4.7ポイントも高いと聞き、愕然としました。

2015年度の行政コスト計算書によれば、救急出動1件当たり、51,223円の経費がかかっています。
膨大な税金がむなしく使われていることになります。
コスト以上に深刻なのは、不要不急の救急出動のために、本当に必要な重症者の搬送に支障を来す可能性です。

何とかしなければなりません。
救急隊員のみなさんは、人命を第一に懸命に頑張ってくれています。
119番通報があった以上、不搬送の可能性があるからと言って拒むわけにはいきません。
現場の想いを大切にしながら、なんとか現状を改善できないか。
これまでも消防局で改善策が検討されていますが、市長副市長会議で、保健福祉局をはじめ全庁的に対応策を立案する方針を確認しました。


2016年8月29日
から 久元喜造

ナイロビ TICADに神戸ブースを出展しました。

ケニアのナイロビで、第6回アフリカ開発会議(TICADⅥ)が開催されました。
きょうの閉幕まで、連日その模様が報道されていました。

日本政府は、アフリカからの留学生を日本の大学院修士課程で受け入れる ABE Initiative を進めています。
神戸市では、ABE Initiative に協力しながら、ルワンダ共和国とのICT分野での交流を進めてきました(5月15日のブログ )など。

そこで今回のアフリカ開発会議において、ジェトロが主催し、日本の産学官約100社が出展する「TICADⅥジャパンフェア」にブースを出展し、大石企業誘致部長、多名部担当課長を派遣しました。
神戸情報大学院大学との共同出展ですが、来場者には、神戸市、神戸情報大学院大学だけでなく、ジェトロ、JICA、ルワンダICT会議所、音羽電機工業の総勢10名の合同チームで対応しました。

安倍総理大臣はケニア共和国のケニヤッタ大統領とともに視察に来られましたが、神戸市のブースの前で
あっ!神戸
と声を出して、立ち止まり、ケニヤッタ大統領とともに神戸での ABE Initiative に関する話をお聞きになりました。
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また、神戸のブースにはアフリカ各国の政府代表だけでなく、ケニアを中心とした民間企業の方々が訪れ、朝から夕方まで人だかりが絶えることがなかったと報告を受けています。
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8月27 日(土)の日経新聞にも、神戸のルワンダとの交流が大きく取り上げられていました。
若者が多く、成長が見込まれるアフリカとの交流は、必ず神戸の将来の活力につながると信じます。
政府をはじめ多くの方々のサポートを受けながら進めていきたいと思います。


2016年8月26日
から 久元喜造

宮崎辰雄『神戸を創る』

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第13代神戸市長を務められた宮崎辰雄市長の自叙伝です。
宮崎市長は、1937年、神戸市役所に入庁され、1953年、42歳で助役(現在の副市長)に就任されました。
1969年から1989年まで5期20年にわたり市長を務められ、実に半生記以上にわたり、神戸の発展に貢献されました。

この間、神戸は素晴らしく発展し、街の佇まいは大きくその姿を変えました。
宮崎市長が就任されたときの神戸は、「開発一辺倒の矛盾が一気に噴き出そうとしていた」と振り返っておられます。
これを受け、「福祉優先」「環境保全」「市民参加」を旗印に、政策転換の方途が求められました。
本書では、下水道整備、グリーン・コウベ作戦、ポートアイランドの整備とポートピア’81、しあわせの村など、今日の神戸を形づくったプロジェクトについて、舞台裏を含めた事情が綴られていました。
世論を二分した神戸空港についても、複雑な経緯が簡潔に整理されて記され、宮崎市長の率直な心情が吐露されていました。

宮崎市長のご生家は、「裁判所に近い楠公さん(湊川神社)の西門を出たところの湊東区(現在の兵庫区)上橘通にあった」と記されています。
私が通った湊川幼稚園は、もうとっくの昔になくなってしまいましたが、おそらくは宮崎市長のご生家があった場所と目と鼻の先だったと想像します。

『神戸を創る』は、市長室の私の執務机のすぐ後ろにいつもあります。
お守りのように感じています。


2016年8月23日
から 久元喜造

民間人材の登用を進める。

私は、選挙時の公約に沿い、市役所内への民間人材の登用を積極的に進めてきました。
市長就任直後の人事異動では、民間出身で広報専門官を務めていた松下麻理さんを部長クラスの広報官に任命しました。
松下麻理さんが神戸フィルムオフィス副代表(現在は代表)に転出されたのに伴い、広報専門官に英国出身のルイーズ・デンディ(写真)を任命しました。
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公約では、ICT分野などへの民間人材の登用も掲げていましたので、情報システム専門官、情報化統括責任者補佐官(CIO補佐官)、ITイノベーション専門官の各ポストを新設し、それぞれ民間でのICT分野に精通した人材を任命しました。

また、神戸市はこれまで民間企業に職員を派遣したことはありませんでしたが、P&G社との間で協定を締結し、初めて同社に職員を派遣するとともに、元同社取締役執行役員の辻本由起子さんを人材育成アドバイザーに委嘱し、職員の育成についていろいろなアドバイスをいただいています。
平成28年度からは、ヤフー株式会社にも職員を派遣するなど、民間企業への職員派遣の拡充を進めています。

さらに、コピーライター、クリエイティブディレクターとして活躍中の山阪佳彦さんをクリエイティブディレクターに、Code for Japan 代表理事の関治之さんをチーフ・イノベーション・オフィサーに委嘱し、それぞれの分野で知見をいただくとともに、ポストに応じ実務も担っていただいています。

プロパー職員のみなさんと民間出身のみなさんが互いに良い刺激を与え合い、神戸市の政策立案、情報発信のレベルを高めていってほしいと期待しています。


2016年8月20日
から 久元喜造

地下鉄広告枠を活用した市政情報の発信

地下鉄ホームの広告スペースについて現状を報告しましたが(8月12日のブログ)、民間事業者のみなさんを交え、庁内で検討した結果、統一デザインによる市政情報を発信する場として活用することにしました。

現在は、空きスペースが目立ち、あまり意味のない広告が掲示されています。
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これが以下のような市政情報の広告になります。
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キャッチコピーは、市民のみなさんの疑問に答えるという形で統一し、問い合わせ窓口や連絡先の電話番号、ネット検索のキーワードを明示します。
デザインもすべて統一します。
キャッチコピー、デザインは、本市の山阪佳彦クリエイティブディレクターが手がけました。
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掲示箇所は、西神山手線16駅82か所、海岸線8駅50か所の合計132か所です。

神戸市が行っている施策や事業、相談窓口などの情報は、市民のみなさんに十分に伝わっていないと考えられ、今回の試みは、広報手段の充実、多様化の一環でもあります。
また、今回の試みにより、地下鉄ホームの雰囲気が少しでも明るくなれば、有料広告の獲得にも資するものと思われます。

統一デザインによる市政広告の掲出は、8月22日から開始し、10月中には完了させる予定です。


2016年8月16日
から 久元喜造

吉本泰男『航跡遥かなり』

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私は神戸で生まれ育ちましたが、40年も神戸を離れていましたので、市長になる前に市役所で仕事をしたのは、副市長を務めた約7か月だけです。
そんな私にとり、市役所OBなど諸先輩からいろいろとお話をお伺いするのはとても有益なひとときです。
神戸市政に関する文献も時間を見つけて読むようにしています。

この盆休みに読んだ本書の著者、故吉本泰男氏は、旧社会党から12期48年にわたり神戸市会議員を務められた方です。
平成19年に逝去され、残念ながらお会いする機会はありませんでしたが、今でも庁内などでときどきお名前を聞きます。

吉本氏の回想録である本書は、冒頭に記されていますように、「原口-宮崎、宮崎-笹山、笹山-矢田、各市長の擁立とバトンタッチのお膳立てをしてきた軌跡」が叙述の中心を占めています。
市長交代の舞台裏はどのようなものだったのか-この部分を拾い読みしようという志の低い動機で本書を紐解いたのですが、読み始めると、たちまち引き込まれ、結局通読することになりました。
戦前、戦中の動乱期の神戸が、吉本氏のご経験を通して描かれ、戦地ニューギニアでの壮絶な体験はあまりにも生々しく、打ちのめされました。

宮崎市長から笹山市長への動きについては、約80頁が当てられ、まさに政治ドラマが演じられていました。
神戸空港や震災時の対応のほか、中央市民病院の移転、阪神水道企業団における水源確保など知らないことだらけで、本当に勉強になりました。
神戸市政の歴史の重みを改めて感じることができたひとときでした。


2016年8月13日
から 久元喜造

牧原出『「安倍一強」の謎』

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東京におりましたとき、地方自治制度の企画立案などでご指導をいただきました、牧原出東大教授が近著を送ってくださいました。
題して『安倍一強の謎

「謎」に対する答えは、すでに「はじめに」の中に要約されています。
「与党から野党に転落して再度、与党になった自民党が、政権交代のサイクルを回し始めている」。
牧原先生は、自民党しかないという国民の「空気」が安倍政権の強さを支えているという見方を否定します。
そうではなく、政権交代を経た上での「強さ」なのだと。

そして、自民党は政権交代を経て、どのようにして強くなったのかについて、以下の目次に沿い、具体的に解き明かしていきます。

序章   国民の信頼は一瞬にして失われる
第1章  政権交代で何が変わったか?
第2章  菅義偉官房長官仕様の「官邸」
第3章  安保法制という混迷の政策転換
第4章  政権の性格を変えた2014年総選挙
第5章  安倍首相の言葉と野党党首の言葉
終章   野党が政権を奪い返す条件

本書で繰り返し出てくる二大政党間の「政権交代」という政治のありようは、牧原先生ご自身が間近で観察された英国の政治体制がモデルになっていると思われます。
その英国では、伝統的な二大政党制が大きく揺らぎ、政治的混乱が続いています。
英国を含む欧州各国の政治体制は、不安定化の方向に向かっているように見えます。
この混乱を対岸の火事として、我が国の政治が、本書が指し示すような成熟した「政権交代」のサイクルに入っていけるのかどうかが、これから問われるのかもしれません。


2016年8月12日
から 久元喜造

地下鉄ホームの広告スペース

地下鉄の構内は、できるだけ明るく、綺麗にしたいものです。
薄暗かったり、汚かったりすると、神戸を訪れたみなさんもがっかりされてしまいます。
そこでこれまで、ホームなど構内の照明をLED化するとともに、照度を上げ、順次明るくしてきました(2015年5月3日のブログ)。

その上で、いつも気になるのは、ホームの広告です。
空きスペースが目立ちます。
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また、あまり意味のない掲示をしているスペースも結構あります。
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これでは、たくさんのみなさんが利用される地下鉄の構内が、何となく冴えない雰囲気になっているのではないでしょうか。
また、せっかく広告を出していただいている企業や団体のみなさんにも申し訳なく感じます。
競って広告を出したい、という希望が多い媒体や場所、契機こそが、広告の効用も大きいと考えられるからです。

現状を改善する方法はないのか、現在、庁内で民間事業者の方々のご意見を伺いながら検討中で、近々答えを出したいと考えています。
これまで広告を出していただいている企業や団体のみなさんに感謝申し上げるとともに、広告の効用がさらに高まるような構内の雰囲気にしていきます。


2016年8月10日
から 久元喜造

最先端の下水処理の現状

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きょうの午前中は、約2年ぶりに、東水環境センターを訪れました。
まず、老朽化が著しい魚崎ポンプ場で、現状と今後の改築予定事業の内容について説明を受けました。

次に、下水処理のプロセスに従って場内を回りました。
下水の汚泥は資源の宝庫です。
消化ガスのタンク、高機能脱硫設備により、メタン約97%以上の「こうべバイオガス」を生成し、自動車燃料、都市ガスの原料、消化ガス発電に利用します。
ちょうど市バスに直接充填する作業が行われていました。

「こうべバイオガス」は、都市ガス化設備によりさらに純度を高め、大阪ガスの都市ガス導管に直接注入されます。
大阪、名古屋などの大都市は、互いに協力しながら、最先端の下水処理技術を競い合っていますが、ここまでの実用段階に達しているのは、神戸だけです。

汚泥からはリンも生成されます。
「こうべハーベスト」と名付けられ、今年の夏には、約1800袋(1袋20kg)が販売される予定です。
すでに「こうべハーベスト」で育ったスイートコーンの収穫も行われ、NHKニュースでも放映されていました。

担当職員のみなさんには、猛暑の中の作業が続きますが、熱中症にならないように気をつけていただくようお願いし、東水環境センターを後にしました。