久元 喜造ブログ

2020年7月19日
から 久元喜造

山中俊之『外国人にささる日本史12のツボ』


神戸情報大学院大学教授、山中俊之先生の近著です。
世界96か国を回られた外交官としてのご経験を通じ、外国人が日本の歴史のどのようなところに関心を抱くのかについて語られます。
外国人は、長い年月を経て育まれてきた日本の生活文化をどう見ているのか。
この視点は、私たち日本人が自らを客観視し、独善を排しながら日本文化の特質を考える上で有益です。

最初に語られるのは、日本人なりのありようで受け継がれてきた自然との共生です。
その背後には、一神教を奉じる人々とは異なる宗教観があると、著者は指摘します。
多くの神社・仏閣は、神仏習合を基調としています。
神戸には豊かな里山があり、そこには自然と文化遺産が一体となった魅力があります。
改めて私たちは、時代の変遷を経て受け継がれてきた神戸の里山の価値を再認識したいと思います。

本書で繰り返し登場するのは、江戸時代です。
江戸時代には豊かな文化が花開きました。
著者は、葛飾北斎に1章を割いていますが、それは世界で最も有名な日本人が葛飾北斎であるという認識からです。
北斎をはじめとする浮世絵は、印象派などヨーロッパ絵画に大きな影響を与えました。
江戸時代の価値は、文化芸術にとどまりません。
江戸の街では堆肥に至るまでさまざまな資源が再利用され、「サステナブルなエコ社会だった」と著者は言います。
幕府の経済政策は意外に開明的で、庶民を含めた教育水準は高く、賄賂も少ない清潔な行政が行われていたと著者は指摘します。
時代劇の悪代官などはおそらく後世の作り物なのでしょう。
明治の近代化は画期的な意義を持ちますが、その絶対視から自由になり、江戸時代を見つめ直すことができました。


2020年7月12日
から 久元喜造

注意深く進んでいきます。


今日、7月12 日の東京都内の新規感染者数は、206人。
4日連続で200人を超えました。
東京周辺の各県でも、新規感染者が増えています。
東京23区内の感染が、周辺に広がっていることが窺えます。
大阪府でも、32人の感染者が確認されました。
神戸市内でも、昨日、そして今日と、学校での感染が確認され、対応方針を発表しました。

事態が変わりつつあると感じざるを得ません。
感染拡大への警戒を強めていく必要があります。
東京方面に仕事などで行かれるみなさんもおられると思います。
東京とその周辺での感染の広がりを考えれば、より一層の感染防止策をそれぞれ講じていただくとともに、感染者が多数確認されている場所への訪問や滞在は、慎んでいただくことが求められると思います。

PCR検査は万全ではありませんが、その限界を認識しつつ、状況に応じ、国の指針よりも幅広く、積極的に検査を行っていきます。
残念ながら、どんな人でも絶対に感染しないということはあり得ません。
大事なことは、感染のリスクを減らしていくことです。
感染の危険を最小限にするには、家に閉じこもることも選択肢ですが、それでは生活は成り立ちませんし、別の問題も生じることでしょう。
学校では、感染のリスクを最小限にしながら、子どもたちの学習の機会を確保することが必要です。
日常生活の平穏と暮らしをどう維持していくのか、難しい課題ですが、いろいろな試練を経験した神戸市民は、きっと今回の危機を乗り越えていくことができると信じます。
神戸市は、これまでのコロナへの対応について 検証報告書 を公表しました。
この検証を踏まえ、冷静に、そして注意深く進んでいきたいと思います。


2020年6月30日
から 久元喜造

「政策を自分たちがつくったという感覚」


前日銀総裁、白川方明氏の大著『中央銀行』の第23章「組織としての中央銀行」の中に、こんな一節がありました。
「多くの政策委員会のメンバーが「この政策は自分たちが作ったものという感覚」(sense of ownership)を持てるようにすることは重要である」。
日銀の政策委員会に関する言及ではありますが、組織一般に当てはまる、とても重要な指摘と感じました。

どのような組織であっても、その組織の構成員は、自分たちがやりたい仕事をしたいという思いがあるはずです。
新型コロナへの対応が求められたとき、神戸市の職員のみなさんは、次々に新しい施策を編み出し、実施に移していってくれました。(2020年6月24日のブログ)。
職員のみなさんは、まさに「自分たちが作ったものという感覚」を持って取り組んでくれたはずです。
だからこそ、説得力のある言葉で説明し、受け入れられたのだろうと思います。
上司の指示には従わなければなりませんが、指示を受けてその仕事に従事するみなさんに当事者意識に根差した感覚が欠如していれば、良い成果が挙がるわけはありません。
ましてや意味不明の仕事をやらされ続ければ、士気は下がります。

もちろん、職員のみなさんにとり気が進まなくても、大局的見地からやってもらわなければならない場合もあります。
大事なことは、それぞれの組織が目指している大きな方向が何なのかについて、目的意識を共有することだと思います。
そのような方向に沿った施策を構成員にどんどん出してもらい、それらは「自分たちが作ったものという感覚」を伴って実施に移していくことができる雰囲気をつくり上げていければと感じます。


2020年6月24日
から 久元喜造

職員参加で新規施策を発信

3月から5月にかけて神戸でも感染が拡大し、未知のウィルスとの闘いが続きました。
めまぐるしい動きに対応するため、神戸市でも数次にわたる対応方針を決定し、迅速に実施できるよう全力で取り組みました。
誰もが初めて遭遇する事態でした。
休業要請や外出自粛の中で、日常生活と経済活動へのマイナスの影響を最小限にする新しい発想が求められていました。

動いてくれたのは、中堅・若手を含む職員のみなさんでした。

市役所の中の作業に終始せず、民間事業者の方々とネットでのコミュニケーションを重ねながら、次々に新しい施策を編み出し、実施に移していったのです。

以下は、4月上旬から一月半くらいのうちに、職員のみなさんが企画してくれた新規施策の例です。

・神戸市とUber Eatsの連携による飲食店・家庭支援策「Uber Eats + KOBE」
・新型コロナウイルス対策のてくのテクノロジーを持つスタートアップを全国から募集
・地方企業向け副業・兼業プロ人材ママッチング  JOINS×神戸市
・神戸市・㈱出前館の連携による飲食店・家庭支援策「KOBE出前シフトサポート」
・神戸市とmobimaruの連携による住宅団地へのキッチンカー提供実験
・「家庭教師のトライ」と連携した生活困窮者学習支援事業(個別同時双方向型オンライン学習&バーチャル自習室)

対外的な発表も、多名部重則広報官の記者会見に、実際に企画に携わった職員が登場し、説明にあたりました。

それらの大半は、新聞、テレビなどで報道され、市民に周知されるとともに、全国にも発信されました。
これからも新規施策の企画・立案、発信に職員のみなさんに積極的に参加してもらうつもりです。


2020年6月20日
から 久元喜造

人間を大切にする街でありたい。


震災から25年、神戸の歴史を大切にしながら、この間の遅れを取り戻し、スピード感をもって、見違えるような街にしていきたいと思います。
もっと美しく、賑わいがあり、ワクワク感がある街。
同時に、それだけでは十分ではないのかもしれません。
令和の時代は、間違いなくテクノロジーが飛躍的に進化していきます。
テクノロジーの進化を街づくりや暮らしの中に取り入れるとともに、テクノロジーに支配されるのではなく、人間がテクノロジーと主体的に向き合い、人間の幸せのために活用すること。
そのためには、神戸は「人間を大切にする街」であるという想いを、私たちが強く持ち、できる限り共有することが大切だと思います。

平成の時代に出現したのが、ネットワーク社会でした。
スマホの出現と普及により、ネットワーク社会は極限にまで達しました。
そこには、光と影があるように思えます。
ネットワークにつながることにより、求める情報に瞬時にアクセスでき、見知った人、見知らぬ人とも、いつでも、どこにいてもコミュニケーションを交わすことができるようになりました。
しかし、常にスマホで誰かとつながっていることにより、大人も子どもも疲れを感じ、人間らしい生活が脅かされるようになっているという面はないでしょうか。

with コロナ時代は、対面での会話は一定の制約を受けざるを得ず、ネットでのコミュニケーションが重要度を増します。
ネット社会におけるコミュニケーションのあり方が問われます。
生き生きとした対話を楽しみ、異なる意見を尊重すること。
いつも誰かにつながっているのではなく、ときにはひとり自分と向き合い、思索するひとときも大切であるように感じます。


2020年6月15日
から 久元喜造

「with コロナ」時代をどう前向きに生きるか。


神戸市内の感染者の発生は、きょうで30日連続してゼロとなり、事態は落ち着いてきているように見えます。
市民のみなさんのご協力、多くの関係者の多大なご貢献に改めて感謝申し上げます。
しかし新型コロナウイルスが消え去るわけではなく、第2波の襲来の可能性を多くの専門家が指摘しています。
私たちは、できる限りの対策を講じ、第2波の襲来に備えなければなりません。
そして、そのような事態になったとしても、狼狽えることなく、冷静に対処し、乗り切っていかなければなりません。
はっきりしていることは、私たちは、この厄介なウイルスとともに生きていかなければならないということです。
「with コロナ」時代をどう前向きに生きるのか。

生活スタイルや経済活動を「withコロナ」時代に対応したものへと、変容させることが求められています。
神戸市の施策も変わっていかなければなりません。
そこで「神戸市withコロナ対応戦略」を策定し、感染拡大の防止と市民生活・経済活動の維持・回復の両立を目指すことにしました。

私たちは、ひとりで生きていくことはできません。
「with コロナ」時代であっても、語り合い、助け合い、そして稼いでいかければなりません。
「with コロナ」時代にふさわしいコミュニケーション、自助・共助・公助のありよう、ビジネスの姿を、神戸にふさわしいやり方でつくりあげていければと思います。
この戦略は、役所が素案をつくり、市民の意見を求めるのではなく、いただいたご意見をもとに策定することにしています。
ぜひご意見をお寄せくださいますよう、お待ちしております。 「神戸市withコロナ対応戦略」の策定に向けて


2020年6月12日
から 久元喜造

医療者応援ファンドご支援への感謝


新型コロナウイルス感染症の治療や予防の最前線では、医師、看護師などの医療従事者のみなさんが、命を守るために、昼夜を問わず奮闘されています。
とくに神戸では、市内の病院で院内感染が発生し、関係者は、過酷な状況の中で社会的使命を果たされました。
このような状況が報じられると、医療従事者のみなさんを支援したい、感謝の気持ちを届けたいという多くの声が寄せられました。
そこで神戸市は、(財)こうべ市民福祉振興協会と連携して「こうべ医療者応援ファンド」を創設しました。
上のロゴマークは、市内で活動しているデザイナー有村綾さんによるものです。
缶バッジも、 しあわせの村 の中にある障害者施設で製作されています。

寄付金の受付は4月21日から始まりました。
「ありがとう」「応援しています」「心から感謝します」という医療従事者へのメッセージとともに、多額のご寄付をいただき、5月の黄金週間明けには、3億円を超える寄付金が寄せられました。
少しでも早くご支援を届けるため、5月12日にファンド配分委員会を開催し、第1弾、3億円の配分を決定し、医療機関にお届けしました。
寄付金は、医療従事者への手当の加算、飲食等の提供、医療従事者の心と体のケア、家族への感染防止や仮眠のための宿泊施設の利用、その他勤務環境の向上に充てられています。
その後も、多くの寄付をいただいており、昨日6月11日現在、寄付金の総額は、4億7596万円となっています。
心より、感謝申し上げます。
今は小康状態にありますが、私たちは第2波の襲来に備える必要があります。
医療従事者のみなさんのご苦労が少しでも軽減されるよう、全力で取り組みを進めていきます。


2020年6月6日
から 久元喜造

指昭博『キリスト教と死』


神戸市外国語大学学長・指昭博先生のご著書です。
あらためてキリスト教の死生観について学ぶことができました。
天国とは何か、地獄とは、最後の審判は何を意味するのかなど、キリスト教の教義をなす基本的な概念が、絵画や壁画、墓標などを交えながらわかり易く説かれます。
煉獄は「最後の審判」を待つ場所であり、煉獄思想はスコラ哲学によって体系化されたとされます。
プロテスタントの教義は、聖書には書かれていない煉獄を認めず、カトリックの世界観と大きく異なっていることが理解できました。

本書の特徴は、誰も経験したことがない死の世界を、葬式、墓、モニュメントなど多角的な視点から具体的なイメージとして提示していることです。
歴史的遺産や慣行などともに、死を可視化しようという試みかもしれません。
「第3章 死をもたらすもの」では、ペストが取り上げられます
指先生が本書を上梓されたときは、まだ新型コロナウイルスは確認されていませんでしたが、当時の人々が今で言う感染症と格闘した状況が語られ、改めてとても興味深く読みました。
指先生のご専門のエリザベス時代には、繰り返しペストの流行があり、ロンドンの劇場は夏場には休業するのが普通で、実際に流行するとすぐに閉鎖になったと言います。
北部の中心都市ヨークなどでも、夏場の祝祭で上演された大規模な市民主体の聖史劇が、16世紀には頻繁に中止されたそうです。
当時の人々は、今でいう感染症の蔓延と隣り合わせに生き、それは日常的な風景であったことが窺えます。
今とは比べ物にならないくらい膨大な死者を出した当時の人々にとり、人の死は、おそらくとても身近な存在であったのではないかと感じました。


2020年6月2日
から 久元喜造

定額給付金は受け取ることにしました。


特別定額給付金の申請書が、私にも5月20日に届きました。
もともとは、家内の分も含めて辞退しますと記者会見でも申し上げましたが、改めて考えた結果、給付金の支給を受けることとし、申請を行いました。
考えを改めた理由は、まず、全国民すなわち地域住民に一律交付するという給付金制度の趣旨を尊重すべきではないかということです。
私が受け取りを辞退することがほかの方の行動に影響することはないと思われますが、仮に神戸市内において辞退の動きが広がるとすれば、この施策が設けられた趣旨に反することになります。
もう一つの理由は、支給を受けてこれを神戸市内の公益性の高い活動に寄付することも、公職選挙法上厳格に禁止されており、だからと言って、神戸市外の活動に寄付することについても、神戸市民に奉仕するという自らの使命から見ていささかの躊躇を覚えたからでした。

最終的に辞退も選択肢に入れながら、神戸市にも恩恵を与えていただいている域外の団体はないかと思いを巡らし、思いついたのが、 香美町 への寄付でした。
兵庫県北部、日本海に面する美しい町です。
2014年(平成26年)4月に神戸営業所を神戸市内に開設し、特産物の販売促進や流通経路の開拓に力を入れて取り組まれています。
いまでは、神戸市内の様々な飲食店が香美町の多様な食材を取り扱っています。 (香美町のホタルイカを味わおう!)
神戸営業所の活動は、香美町、神戸市双方の地域経済に貢献いただいています。
まだ特別定額給付金は振り込まれていませんが、昨日、神戸営業所を通じ、寄付させていただきました。
いくばくかでも香美町神戸営業所の活動のお役に立つことができればと願っています。


2020年5月24日
から 久元喜造

西東三鬼『神戸・続神戸』


歯科医で俳人、異色の作家、西東三鬼(1900 – 1962)の連作短編小説です。
昭和17年冬、「私」は単身東京から脱走し、夕方、神戸の坂道を歩いていました。
「バーで働いていそうな女」が歩いていて、「私は猟犬のように彼女を尾行」します。
そして、そのままバーに入り、1時間後にはその女からアパートを兼ねたホテルを教わるのです。
それは、トーアロードの中途にある「奇妙なホテル」でした。
このホテルを舞台に、不思議なドラマが1話ずつ展開されます。

長期滞在客は、「白系ロシア女一人、トルコタタール夫婦一組、エジプト男一人、台湾男一人、朝鮮女一人」。
日本人は「私」のほかに中年の病院長一人、あとの10人はバーの女たちです。
まさに「戦時とも思えない神戸の、コスモポリタンが沈殿しているホテル」です。
ホテルの裏には銭湯があり、2,30人の客のうち日本人は、2,3人。
「脂肪太りの中国人、台湾人・・・コサック人。彼等のそれぞれ異る国語が、狭い銭湯にワーンと反響」します。
港にはドイツの巡洋艦と潜水艦が、脱出の航路をアメリカの潜水艦に監視されて出るに出られず、水兵たちはホテルの女目当てに坂道を登って来るのでした。
独特の文体で語られる物語は、奇想天外で、ハチャメチャで、悲しいのですが、戦時下、死と隣り合わせにある日常がそうさせるのでしょうか、どこか吹っ切れているのです。

空襲でホテルも焼けてしまい、「神戸」に登場する人物の大方は死んでしまいます。
一方、「私」は、「空襲をみすみすこのホテルで待つ気はな」く、明治初年に建てられた異人館に引っ越します。
そして、米軍占領下の戦後が「続神戸」で語られることになります。