久元 喜造ブログ

白川方明『中央銀行』


前日本銀行総裁、白川方明氏による 750ページ近い大著です。
私は金融の素人で、本書に出てくる用語、特に英語の意味がときどきわからず、調べながら読み進めたこともあり、通読するのにかなりの時間がかかりました。
本書中の感銘を受けた一節をブログで紹介したところ、フェイスブックに「白川氏は日本の国内景気を悪化させた張本人とされている」とのコメントをいただきました。
本書の中で著者は、総裁在任中「リフレ派」「期待派」と呼ばれる人々から厳しい批判を受け続け、これらの批判を意識しながら対応されたことが繰り返し語られます。
たとえば、2009年11月20日、政府の経済報告閣僚会議において、著者によれば唐突に「デフレ宣言」が出され、この頃から日銀は「デフレを容認している」との批判を浴び続けました。

白川氏が日銀総裁として在任された約5年間は、政権交代、リーマンショックに始まるグローバル金融危機、デフレの進行、東日本大震災とまさに激動の時代でした。
日銀総裁として何を考え、どう決断したのかが克明に描かれます。
たいへん困難な仕事だったと想像しますが、著者が常に中央銀行としての使命である「物価の安定」「金融システムの安定」を忠実に果たそうとされたことが伝わってきます。
経済理論をめぐる論争にも折に触れて言及されながら、理論的根拠に支えられた金融政策を追求し、同時に現実とのはざまで苦闘されたさまも生き生きと描かれています。
政治との関わりについても個々の政治家の実名を挙げて記されており、時代の体温が伝わってきました。
中央銀行の独立性と民主主義との関係に関する奥行きの深い考察についても感銘を覚えました。