久元 喜造ブログ

井上寿一『戦争調査会』


1945年10月30日、政府は「敗戦の原因及実相調査の件」を閣議決定しました。
当時の総理大臣は、外交官出身の幣原喜重郎。
幣原総理の強い決意の下に設置されたのが「戦争調査会」でした。
総裁の人選は難航し、幣原総理が自ら就任、事務方トップの長官には大蔵省出身の青木得三が任命されました。
また、5つの部会が作られ、部会長には粛軍演説で名高い斎藤隆夫などが就任しました。

敗戦間もない当時、政府が「戦争はなぜ起きたのか」という根源的な課題に自ら向き合ったことを、本書を読んで初めて知りました。
当時、東京裁判が進行中でしたが、幣原は裁くことよりも検証することを重視し、大臣経験者や外交官、軍人、官僚などから精力的に聴き取りが行われました。
しかし占領統治の司令塔GHQ、そして対日理事会は、戦争調査会に冷ややかな視線を送ります。
とりわけソ連代表は、調査会が戦争を正当化しようとしていると非難し、解散を主張しました。
結局、戦争調査会は、1946年9月30日に廃止されました。

調査会はこうして設置から1年も経たないうちに廃止されましたが、当事者からの聴き取りに基づく膨大な資料が残されました。
そしてこれらの貴重な資料は、2016年に公刊されるまで、国立公文書館と国立国会図書館憲政資料室の書庫で眠り続けたのです。
本書は、「幻の政府文書」から「なぜ道を誤ったのか?」を探ろうとします。
当事者の証言から、最終的に戦争に突き進んでいった背景が浮き彫りになるとともに、戦争を回避するチャンスが何度もあったことが明らかにされます。
幣原喜重郎、青木得三、そして吉田茂など、戦争に至った道を自ら検証し、それを後世に残そうとした先人の努力にも感銘を覚えました。(文中敬称略)