村上春樹さんの作品を久しぶりに読みました。
読み始めて思い起こしたのが、チェコの作家、アイヴァスの『もうひとつの街』でした。(2019年11月24日のブログ)
いま住んでいる街とは別の街が存在しており、図書館が重要な役割を果たすという点で共通しています。
しかし『もうひとつの街』では、色彩的、幻惑的な世界が繰り広げられるのに対し、『街とその不確かな壁』に登場する「もうひとつの街」は、ひたすらモノクロームの世界です。
煉瓦で高く作られた壁で囲まれた街。
そこには「川柳の茂った美しい中州があり、いくつかの小高い丘があり、単角を持つ獣たちがいたるところにいる」。
「獣たちは雪の積もる長い冬にはその多くが、寒さと飢えのために命を落とすことになる」。
「人々は古い共同住宅に住み、簡素だが不自由のない生活を送っている」。
この街をことを教えてくれとき「僕」が17歳、「君」はひとつ年下でした。
彼女は、その街の図書館に勤めています。
仕事の時間は、夕方の5時頃から夜の10時頃まで。
彼女は、長文の手紙を残して姿を消します。
そして僕の物語が始まります。
上京し、大学に入り、彼女へ手紙を書き続けます。
返事はありません。
僕の人生に大きな転機が訪れるのは、10年以上暮らし続けた東京のアパートを引き払い、Z**町に引っ越してからでした。
この町も、周りを高い山に囲まれた盆地にありました。
図書館に勤め始め、館長と語り合い、イエローサブマリンのパーカーを着た少年が現れ、物語は静かに進行していきます。
650頁を超える大著。
「あとがき」の中で作者は、コロナ禍の中「日々この小説をこつこつと書き続けていた」と記しています。