久元 喜造ブログ

田村秀『自治体と大学』


大学は、国策や民間の篤志家などによって設立されたきたという経緯がある一方、地方、すなわち自治体が精力的に国立大学や私立大学を誘致し、自らも積極的に公立大学を設立してきたという側面があります。
本書では、まず、我が国に大学が誕生して以来、地方、とくに自治体が大学とどのように関わり、施策を展開してきたのかについて、時代を区切って説明されます。
そして、自治体と大学がどのような関係を築くことが求められるのかについて、具体的な事例に即して語られます。
本書からは多くの示唆を得ることができましたが、特に印象に残った点を二点挙げておきたいと思います。

一つは、大学生を持つ家庭の年間収入が、時代の変遷の中で大きく変わってきたということです。
1960年代は、私立>公立>国立だったのが、1980年代以降は、私立>公立≒国立となり、21世紀に入ると、国立は公立を引き離し、私立における年間収入に近づいていきました。
今では、国立≒私立>公立という状況になっていると言います。
著者は「地域社会を支えるセーフティネットの役割の一端を、公立大学が一定程度果たしていると評価できるだろう」と指摘されています。

二点目は、地方がいかに大学を待望してきたかということです。
地方圏の自治体が心血を注ぎ、大学を誘致しようとしてきたのかが、具体的な事例に沿って明らかにされます。
域外に転出しようとする私立大学を公立大学化したり、100億を超える公的資金を投じて大学を誘致しようとした事例などが紹介されます。

大学の存在は、地域を豊かにします。
他地域における成功・失敗事例に学びながら、神戸市としての大学関連施策を進めていきたいと思います。