谷崎潤一郎の『細雪』は、高校のとき、多分、元町の海文堂で購入し、読み始めたのですが、つまらなくて挫折してしまいました。
20代のとき、市川崑監督による映画が封切られ、見に行きました。
吉永小百合、佐久間良子、古手川祐子など豪華なキャストでしたが、やはり退屈で何の印象も残りませんでした。
美しい女性たちが演じる絢爛たる世界は、どうも自分には合わなかったようです。
にもかかわらず、川本三郎さんの本書はとても面白く、二日で読み終えました。
帯にも書かれているように、芦屋、神戸、船場・・・昭和十年代の風景が蘇って来るようでした。
特に神戸については「阪神間の文化と神戸」「モダン都市神戸と谷崎の夢」「神戸で映画を楽しむ蒔岡姉妹」と三つの章が割かれており、ほかの章にも神戸が随所に登場します。
新開地の風景も描かれます。
次女の幸子は、大ヒットした名作『望郷』を聚楽館の映画館に一人で見に行きます。
神戸には外国人がたくさん住んでいて、亡命ロシア人とその老婆は、元町のユーハイムで偶然、四女の妙子に会い、聚楽館へスケートに誘います。
昭和13年(1938年)の阪神大水害がこの小説の重要な場面になっていることも、改めて知りました。
このとき谷崎は住吉川西岸の倚松庵に住んでいて、一家には被害はありませんでしたが、すぐ近くの甲南小学校では、生徒4人を含む犠牲者が出ました。
谷崎は、追悼のために出版された『甲南小学校水害記念誌』を参考にして執筆した、と著者は指摘します。
谷崎が1936年から1943年まで住んだ倚松庵は、神戸市が寄贈を受けて現在の場所に移築されました。
関係者の協力をいただきながら、大切に保存されています。