久元 喜造ブログ

藤田孝典『下流老人』


著者は、生活困窮者支援を行うNPO法人の活動に携わって来られた方です。
長年の実体験をもとに本書を執筆されました。
2015年に刊行され、当時大きな反響を呼んだと承知しています。
本書では「下流老人」を「生活保護基準相当で暮らす高齢者およびその恐れがある高齢者」と定義し、「下流老人は、いまや至るところに存在する」と指摘します。
「日に一度しか食事をとれず、スーパーで見切り品の総菜だけを持ってレジに並ぶ老人。生活の苦しさから万引きを犯し、店員や警察官に叱責される老人。医療費が払えないため、病気を治療できずに自宅で市販薬を飲んで痛みをごまかす老人。そして、誰にも看取られることなく、独り静かに死を迎える老人・・・」
さまざまな実態が紹介されます。
そして「下流老人」に陥る可能性は誰にでもあると、強く警告を発します。
予期せぬ病気や事故、離職、そして熟年離婚などに遭遇したとき、困難が待ち受けます。
高齢者介護施設に入居しようと思っても、低額で入ることができる特別養護老人ホームは、とくに大都市部ではなかなか空きがありません。
これらの実態を前に、日本の各種社会保障や社会システムはどうなのか。
年金、医療・介護、生活保護の現状について、批判的に検証されます。
実態を踏まえた指摘の中には、示唆に富むものも含まれていました。

著者はその上でいくつかの「自己防衛策」も提案します。
その一つが、「地域のNPO活動や市民活動への参加」です。
孤立・孤独を避ける上で「居場所」の確保は大切です。
地域活動にあらかじめコミットし、「さまざまな相談ができるような人間関係を構築しておいてほしい」という指摘は、そのとおりだと感じました。