総務省自治行政局で課長をしている友人から教えてもらって読み始めたところ、たいへん面白く、すぐに読了しました。
著者のジリアン・テットは、『フィナンシャル・タイムズ』(FT)の米国版編集委員会委員長を務めるジャーナリストですが、人類学者でもあり、冒頭、ケンブリッジ大学で社会人類学の博士号を取得するため、旧ソ連タジキスタンに滞在した経験が語られます。
本書で紹介されるのが、人類学者による「参与観察」と呼ばれる手法です。
人類学者が企業の中に「アウトサイダー兼インサイダー」として入り込み、先入観を持つことなく日常を観察します。
例えば、インテルがオーストラリア出身の人類学者、ジェネビーブ・ベルを採用したのは、「女性を含む非西洋」という新たなユーザーを理解する必要性を感じていたからでした。
ベルは対象国に滞在し、家族の仕事、生活、宗教、社交の様子、そこでテクノロジーがどう使われているかを観察します。
ベルのチームは驚くような観察結果を次々に提示し続け、社内で尊敬を勝ち取っていきました。
「参与観察」は、企業のマーケティングや製品開発に使われ、効果を発揮しますが、企業内部のマネジメントや生産現場・オフィスの生産性向上の分野でも有効です。
ゼロックスは、オフィスのコピー機を修理する現場の状況を知るために人類学者による「参与観察」を行います。
修理を担う専門職社員の行動は、経営陣の想像を超えるものでした。
会社、そして自治体で生起している事象を人類学的思考で視ると、まったく新しい発見があること、そして「参与観察」を活用することにより、これまでにない対処法が浮上してくる可能性があることがよく分かりました。