久元 喜造ブログ

西村友作『数字中国』


著者は、中国で経済金融系トップの国家重点大学・対外経済貿易大学の教授。
中国在住は、通算20年を超えます。
中国政府が国を挙げて進める「数字中国」(デジタル・チャイナ)の姿がリアルに語られます。

冒頭、コロナ対応の初期の段階からデジタル技術が広範に活用された事例が紹介されます。
例えば、AIがCT画像を読み取り、コロナに起因すると思われる肺炎の特徴を警告します。
配送業者の入場が制限された都市部のオフィスやマンションには、無人配送ロボットが入り、商品を部屋の前まで届けてくれます。
5Gを利用したオンライン診療は、武漢市の臨時病院で最初に使われ、広がっていきました。
著者ご自身が利用した体験も記されています。

以下、デジタル技術をベースとする最新の動きが紹介されます。
スマートフォンにインストールされた決済アプリをプラットフォームにして、新しいタイプのビジネスが次々に生まれ、それらが互いに結びついた巨大ビジネス・エコシステムが社会の隅々にまで広がっています。
これが「中国新経済」です。

「新経済」のプラットフォームであるアリペイは、日常生活に関することはほぼすべて何でもできる中国最大のスーパーアプリです。
そのアリババ傘下のフィンテック企業、アント・グループが計画していた新規株式公開(IPO)が延期されました。
背景には何があったのか。
アントは、10億人もの圧倒的なユーザー数を有する「デジタル決済」事業をベースに、多様なサービスでユーザーの囲い込みを行い、融資・投資・保険という三本柱から成る「デジタル金融」事業で稼いできました。
そこにある「光と影」。
中国政府とのせめぎあいも興味深いものでした。