著者の井上岳一さんは、農林水産省出身で、現在㈱日本総研ご勤務。
先日、東遊園地で開催された “FARM to FORK”で、対談させていただきました。
本書で井上さんは、「山水郷」という言葉を使われます。
「日本国・日本人のアイデンティティを語る上で、山水郷を抜きにはできない」と。
里山に代表される「山水郷」がそれぞれの地域の財産であるという次元を超えて、グローバル社会の中でも大きな価値を持つことが説得力を持って語られます。
残念ながらその「山水郷」の荒廃が進んでいます。
里山は「野生の王国」になりました。
本書が刊行されたのは昨年の10月ですが、クマの被害に関する記述は、今年相次いでいるクマの異常な出没と人的被害を予言していたかのようです。(11月12日のブログ)
次は八王子、厚木、秦野のような都市がクマの出没地になる可能性が高い、という専門家の見解も示されます。
もはや人間が野生生物のコントロールをすることができず、予測不能な事態に陥っているという現実は衝撃的です。
このような「山水郷」の荒廃は、日本の魅力の衰退につながる、と著者は指摘します。
コロナ禍が始まる前、インバウンド観光客の多くが日本らしい風景に魅力を感じていたことを想起すれば、著者の指摘は決して大げさではありません。
どうすればよいのか。
各地で進むさまざまな再生への取り組みが紹介されます。
山水郷の復権に向けた試みです。
もちろん本書では触れられていませんが、「山水郷」での暮らしの価値は、with コロナの時代に適合する形で高まり、ポスト・コロナの時代には確固たるものになるのではないかという予感のようなものを感じました。