久元 喜造ブログ

福田和也『岸信介と未完の日本』


物心がついた頃は、ちょうどテレビが茶の間に入ってきた時期でした。
祖父母と一緒によくテレビのニュースを見ていたように記憶しています。
偉い政治家が首相官邸や国会などに出入りしていた様子を何となく覚えています。
最初に覚えている総理大臣は、岸信介でした。
あの頃「アンポハンタイ」を叫ぶデモの様子もよく放映されていました。

岸信介がどのような政治家だったのかは、いろいろな文献に出てくるのである程度は知っていましたが、生い立ちから逝去までを記した評伝を読んだのは、本書が初めてでした。
養子に行くことになる幼年期や疾風怒濤の学生時代の話も興味深かったですが、商工省に入ってからの仕事ぶり、上司や周囲との確執などはとても緊迫感がありました。
とりわけ近衛文麿内閣において商工大臣で入閣した小林一三との対立、攻防からは、当時の官僚の政治的な立ち位置が読み取れました。
日本は国家総動員体制へと突き進み、「革新官僚」としての岸信介の行動も綴られていきます。

岸信介の世界観、政策が戦前、戦中、戦後の激動の時代にあって、一貫していたのか、状況の激変の中でどのように変遷していったのかについては、本書からは伺い知ることはできませんでした。
戦後巣鴨プリズンに収監され、釈放されると政治活動を開始、内閣総理大臣にまで上り詰めていく過程が綴られ、そこからは現在の永田町とはまた違ったドロドロした政治ドラマが垣間見えます。
池田勇人内閣の所得倍増政策により日本が経済的な安定・成長に向かうようになるまでの20世紀の日本政治史は、誠に興味が尽きず、その歩みを辿ることは、いろいろな意味で意味があるように感じます。(文中敬称略)