神戸市外国語大学の山之内克子教授の近著です。
「9つの州がつむぐ1000年」と帯にあるように、各州の地域特性と歴史が章立てされ、味わい深く語られます。
改めて感じることは、オーストリアが複雑な多民族国家であることです。
オーストリアを舞台に、多くの民族が移動と定住を繰り返し、今の各州がつくられていきました。
各州では、長い歴史の中で、民族間の敵対、抗争、融和が展開されてきました。
周辺諸国との確執も繰り返されます。
オスマン・トルコ帝国は、繰り返しオーストリアへの侵入を試みますが、その最前線に立ったのが、今日オーストリアの最東部に位置するブルゲンラントでした。
この地を支配したエステルハージ家については、作曲家ヨーゼフ・ハイドンの庇護者という程度の認識しかなかったのですが、オーストリアをトルコの侵略から守る上で、大きな役割を果たしたことを知りました。
また、長くイタリアとの確執の舞台であったティロルの歴史は、とくに前世紀前半、イタリア・ファシズムとナチス・ドイツの支配の狭間にあっただけに、過酷なものでした。
民族間の対立は、今日もオーストリアの政治に影を落としています。
国際的にも知られた「極右」政党、自由党を率いたイェルク・ハイダーは、陽光が降り注ぐリゾート地、ケルンテンの州知事を務めました。
ケルンテンが「極右」勢力の拠点となった背景には、長く続いてきたドイツ系住民とスロヴェニア系住民との対立があったことが、第1次世界大戦後の国際政治との関連も含めて、分かり易く描かれます。
美しい自然、景観と音楽など豊かな文化で知られるオーストリアの歴史は、なかなか一筋縄ではいかないことがよく理解できました。