久元 喜造ブログ

松原隆一郎『頼介伝』


著者は、著名な経済学者。
1956年、神戸市東灘区生まれ、灘中・灘高を経て東京大学工学部に進学しますが、転じて経済学の道に進みます。
本書は、著者の祖父、松原頼介(1897~1988)の評伝です。
出版元の苦楽堂からいただき、今年の盆休みに紐解いたのですが、あまりに面白く、一気に読み終えました。
そこには、大正末期から戦後の神戸が、今でいう起業家、松原頼介の生きざまを通して生き生きと描かれていました。

松原頼介は、山口県生まれ。
十代でフィリピンのダバオに渡り、帰国して上陸したのが神戸でした。
1918年(大正7年)、第1次世界大戦後の好景気に沸く、今の兵庫区東出町に住み付きます。
1922年(大正11年)、合資会社松原商會を設立。
以後、神戸の地でさまざまな事業を起こし、激動の時代の荒波に乗り出していきました。
1931年(昭和6年)、紡績工場を武庫郡本庄村西青木に設立。
以後、満州鉄道との取引で大成功を収めます。
筆者は、丹念に資料を渉猟し、満鉄との取引などその実態を明らかにしていきます。

戦後は製鉄所で大成功し、阪神モダニズムの世界にも身を置きますが、1970年代に入ってからの事業拡大路線は失敗。
1976年(昭和51年)松原頼助の大和電機製綱は、川崎製鉄の傘下に入ったのでした。
1988年(昭和63年)逝去。

著者にとり『頼介伝』は、祖父と出会い直す物語であり、「神戸市とは何か」を理解する旅でもあったようです。
「終章 神戸についての省察」は、祖父の実像を探し求める旅から獲得された、奥行きの深い神戸論です。
同じ年代の神戸人として、この街の苦闘に想いを馳せ、言い知れぬ感動を覚えました。