久元 喜造ブログ

高村薫『四人組がいた。』


市町村合併で市に編入された、山奥の旧村が舞台。
旧バス道沿いの郵便局兼集会所に集まり、一日中、茶飲み話に耽る四人の高齢者が主人公です。
元村長と元助役、郵便局長、そしてキクエ小母さん。
ゆったりとした、退屈な時間が流れていくのですが、外から訪問者が現れると、四人は高齢者とは思えないテンポで毒舌を浴びせ、意表を突く、驚くべき行動に出ます。
タヌキ、鹿、熊、それにどういうわけかダチョウも現れ、キャベツたちもがわさわさ行進を始めます。
荒唐無稽、突拍子もない物語が、とてつもないスピード感で展開されていきます。
それにしても、『マークスの山』などでの重厚な文体とはまったく異なる、軽妙な筆致に驚き、圧倒されました。

この小説では、過疎地域の現状のみならず、あらゆる社会事象が風刺の対象になります。
帯によれば「現代日本が抱える矛盾をブラックな笑いであぶりだす快作」です。

市長も容赦なくやり玉にあげれます。
三十代で新しく市長になった通称「ヘリウム」が思いつきでぶち上げたのが「子育て世代にやさしい田舎宣言」。
その一環として、市長は新しい保育所の開設を提案するのですが、ご多分にもれず、市は金欠で予算もない。
そこで、市長は、ほとんど出費ゼロですませられる方法として、保育所を旧村役場に開設。市内の児童を毎朝マイクロバスで山へ運び、夕刻にまた麓へ送り届けることにします。
即断即決で、僻地保育所兼老人デイサービスセンター『子育てのカオス&あの世にもっとも近い姥捨苑』がオープン。
四人組をはじめとする「ジジババども」、運ばれたきた保育園児たちに、タヌキたちも参戦し、まさにカオスの世界が繰り広げられるのでした。