著者は、社会・援護局長、総理秘書官などを務めた厚生労働官僚で、社会保障制度に精通する一方、幅広い人脈を持ち、地域の実情にも通じておられるようです。
人口減少社会における社会保障はどうあるべきなのか、私たちはそれぞれの立場で何をすべきなのかについての視点や提言は、説得力があります。
筆者の視点は幅広く、包括的です。
大きな視点に立った時、日本の社会保障制度は、縦割りの社会保険方式によって支えられており、社会保険方式が導入された分野(例えば、介護保険)では、「費用負担について国民の理解が比較的得やすく、その結果、サービスは拡大しやすいが、社会保険の論理が成立しづらい分野は、サービスの拡大がなかなか進まない」のが実情です。
後者の典型が「子育て支援施策」であり、諸外国に比較して、大きく立ち遅れています。
国による制度の充実が急がれるとともに、自治体も全力で取り組んでいかなければなりません。
大きな方向性は、「全世代型」の社会保障です。
著者の包括的視点は、「すまい」にも向けられます。
我が国では、住宅行政と社会保障行政が分立した形で展開されてきました。
人口減少時代においては、その連携、さらには融合が図られる必要があります。
居住空間の「希薄化」に対して、サービス形態の革新、生活関連サービスを集約した拠点の整備、「住み替え」の促進、空き家、空き地の利活用などが挙げられており、これらの施策はいずれも自治体が対応しなければならない分野です。
どうすれば、行政組織内の縦割りを排し、市民、企業、NPOなどの参画を得て、政策の刷新を図ることができるのか、自治体の力量が問われるところです。