かつて北海道に「北海タイムス」という新聞がありました。
部数では北海道新聞(道新)に遠く及ばないものの、札幌市議会の委員会の質疑を丹念に報道するなど地域に密着した新聞でした。
私が札幌市役所に勤務した1990年代前半、すでに経営は相当厳しいと言われていましたが、社員の士気は高いようでした。
女性記者のみなさんは、薄いタオル1枚で道内各地の露天風呂に入り、自らの入浴写真入りの紀行文を書きました。
「女性記者が行く 道内温泉紀行」のようなタイトルで出版され、札幌市財政局も30部購入しました。
この小説は、 大手新聞社の入社試験にことごとく失敗した主人公、野々村が北海タイムスに入社し、怒涛のような日々を送る中で成長していく物語です。
作者の増田俊也さんご自身の体験が反映されているようです。
記者希望の野々村が配属されたのは、整理部。
仕事は過酷、職場環境は最悪、しかも、給料は管理職を含め、道新や全国紙の何分の一という信じられない薄給でした。
先輩、上司はとにかく癖のある人たちで、未明になると、居酒屋の「金不二」「玉乃屋」(漢字が違いますが、懐かしいですね。〇〇横丁と呼ばれていました)に繰り出しては、つかみ合い寸前の喧嘩を繰り返すのでした。
そのような境遇の中で、彼らのすさまじい仕事ぶりを支えたのは、新聞を読者に届けることへの使命感、そして、北海タイムスに対する限りない愛情でした。
たまたまですが、9月6日の毎日新聞に、「北海タイムス廃刊」の記事が出ていました。
記事によれば、北海タイムスは、1998年9月2日の1面に「きょうで休刊します」の見出しを掲げ、読者に別れを告げたのでした。